10月25日に行われたMLSのプレーオフ、シカゴ・ファイアー対NYレッドブルズの試合でバスティアン・シュバインシュタイガーがピッチに足を踏み入れた時、ファイアーのファンたちは夢のようなシナリオを思い描いていただろう。世界の頂点を手にしたあのドイツ人スターが、スーパーマンのようにマントを広げてピッチに降り立ったように感じていたのだ。愛するチームに逆転勝利がもたらされると期待せずにはいられない。
ところが、シュバインシュタイガーが投入されてからわずか5分。レッドブルズのダニエル・ロイヤーが試合を決定づけるゴールを決め、ファイアーのファンたちが描いた夢のシナリオはすぐに消え去った。そこには逆転どころか、スーパーマンのマントの影さえもなかったのだ。
レッドブルズの3点目をダニエルが決めるまで、シュバインシュタイガーがボールに触れたのはわずかに2回。受け手のネマニャ・ニコリッチがミスをしたものの、一つの美しいパスを除けば、シュバインシュタイガーにとってのシーズン最終戦は忘れ去られてしまうようなものだった。
しかし彼のMLSでのシーズンの最初はいかがなものだったのか。
多くの点で、成功だったと言えるだろう。チームメイトからも歓迎され、この一年でファイアーのロッカールームで大黒柱としての役割を果たした。ピッチの上では、加入当初は信じられないような視野の広さから、得点能力までクオリティの高さを遺憾なく発揮し、エキサイティングなパフォーマンスを見せた。それだけではなく、カメラの前で微笑み、多くのメディア対応をこなし、素晴らしいカリスマ性も示していたのだ。彼の序盤の活躍は多くのメディアやファンの関心を引きつけたとともに、チームに勝利ももたらした。これ以上はないスタートだったと言えよう。
しかしこの華々しい活躍も、そう長くは続かなかった。チームのマーケティング面には大きな貢献を続け、可能な限り多くのチームイベントに出席し、チームメイトたちとの関係も良好なものだったことは認めよう。ただし、肝心のピッチ上でのパフォーマンスに徐々にかげりが見え始めたのだ。彼がMLSにやってくる前には「一体どれだけのプレーを見せられるのか」という懸念が広がっていたが、それが突如として現実となっていく。シュバインシュタイガーのコンディションは低下し、それとともに影響力も衰え、ファイアーの成績が下り坂となっていった。
太もものケガでシーズン終盤の8試合を欠場したことが、チームの低調の原因と捉える人もいる。しかし実際のところは彼が欠場する前の7試合中6試合で敗れ、欠場中の8試合は4勝2敗2分けの成績だったのだ。
それでもファイアーは、ミッドフィルダーのマイケル・デ・レーウを夏に膝の負傷で欠いたこともあり、プレーオフを勝ち抜くためには万全でモチベーションの高いシュバインシュタイガーを必要としていた。10月25日のレッドブルズ戦ではシュバインシュタイガーとデ・レーウの二人を欠いた状況で臨まなければならず、中盤を完全にレッドブルズに支配される。65分にシュバインシュタイガーが投入されるまでにすでに大きなダメージを受け、そして直後のロジェールのゴールで試合の決着は完全についたようなものだった。
敗北は苦痛を伴うものであったが長年にわたる不甲斐ない状態を脱し、今シーズン、ファイアーが見せた素晴らしい戦いぶりが消し去られるものではない。2017シーズンは、劇的な上昇を遂げ、その一因を担ったのがシュバインシュタイガーだったのもまた事実だ。
USA TODAY Sports来年シュバインシュタイガーはどこにいるのだろうか。来年以降の契約については両者次第だが、互いの考えが一致するとは限らない。ファイアーはシュバインシュタイガーがもたらしてくれたものに満足しているだろうが、彼の100万ドルという高額なサラリーについては慎重にならざるを得ない。シュバインシュタイガーはもうすでに33歳。高いスキルに衰えはないとはいえ、かつてのような頑丈さもないのが事実である。
シュバインシュタイガー本人はというと、シカゴでのプレーを続けることを望んでいるだろう。この地での生活にも満足しているようだ。しかし、高額なサラリーに見合うだけのパワーがまだ彼には備わっているのだろうか、ピッチで違いを作り出せる存在になれるのだろうか、多くの点で疑問が残る。
もし“別れ”を選ぶのであれば、両者にとってこのタイミングがベストであろう。シュバインシュタイガーにとっては、まさに今こそ引退かヨーロッパに戻ってプレーを続けるのか次のステップに進むことを考えるべき時なのだ。そしてファイアーにとっても、今シーズンでシュバインシュタイガーとの契約を終えるのであれば、今回の投資は成功の一つだったと言える。
仮に、来年以降も両者の関係が続くとしたら、事態が好転すると考えるのは非現実的だ。10月25日の試合がそうだったように、ファイアーのファンたちの心にもたらされるのは、夢ではなくおそらく失望であるからだ。ファイアー、シュバインシュタイガー、そしてファンにとってのベストな決断を望みたい。
文=Ives Galarcep/アイヴズ・ガラルセプ
