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絶好調ミランはなぜ“今”イブラヒモヴィッチ&ピオリを切り、ラングニックを招へいするのか?

14:59 JST 2020/07/18
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【欧州・海外サッカー コラム】直近数年で最も良い時期を迎えているミラン。しかし、その中心人物であるズラタン・イブラヒモヴィッチ&ステファノ・ピオリ監督は今季いっぱいで去り、来季以降は新たにラルフ・ラングニック氏に強化部門すべてを任すことが決定的だ。なぜ“今”その決断を下すのだろうか?

■イブラヒモヴィッチという存在

再開後のセリエAで、ミランが見違えるような好調ぶりを見せている。

中断明け初戦となった第27節(6月22日)でレッチェを4-1で一蹴したのを皮切りに、ローマ、ラツィオ、そしてユヴェントスと上位陣を立て続けに打ち破り、第33節パルマ戦(7月15日)までの7試合は、5勝2分(20得点8失点)という驚異的なハイペース。中断前には9位だった順位も、6位ナポリと勝ち点で並ぶ7位(得失点差で劣る)まで上がって、来シーズンの欧州カップ戦(UEFAヨーロッパリーグ)復帰が視野に入ってきた。

この好調の理由をあえて一言に集約すれば「ズラタン・イブラヒモヴィッチを中核に据えたチームが完全に固まり機能し始めたこと」に尽きる。以下に見る数字がそれを何よりも明白に物語っている。

今シーズンのミランの困難な歩みは、以下の4つの時期に大きく区切ることができる。

①開幕当初のプロジェクトが短期間で挫折したジャンパオロ前監督体制(2019年8-9月):3勝4敗(6得点8失点)
②監督がピオリに交代してからウィンターブレイクまで(19年10-12月):3勝3分け4敗(12得点15失点)
③年明けからコロナ禍による中断まで(2020年1-3月):4勝3分け2敗(12得点10失点)
④リーグ再開から現在まで(20年6-7月):5勝2分(20得点8失点)

この4期の成績を並べて比較してみると、ジャンパオロからピオリへの監督交代そのものによって事態が好転したわけではないことは、①と②を比較すれば明らかだ。ミランにとって唯一最大の転機は、ウィンターブレイク期間中にイブラヒモヴィッチを獲得したことだった。

前線で自らにボールを集めて起点となり、攻撃の最終局面を演出するだけでなく、強い求心力を発揮してチームを引っ張るリーダーとしても絶対的な存在であるイブラヒモヴィッチの加入は、ラスト30mのクオリティ向上に加えて、チームとして一本芯が通った明確なアイデンティティをミランにもたらした。イブラヒモヴィッチ加入の前後でチームがどれだけ変貌したかは、②と③を比べるだけで十分だろう。

下位陣との対戦が続くカレンダーにも助けられ、年明けからの9試合は4勝3分2敗。前半戦を通してはまりこんでいた2ケタ順位の泥沼からようやく脱却し、3月の中断時点には、EL圏内(6位以内)まで3ポイント差の9位まで順位を上げた。

そして、3カ月の中断を経てリーグが再開すると、冒頭で見た通りの快進撃。その中心に君臨するのは、もちろんイブラヒモヴィッチだ。出場13試合で5得点3アシストという数字そのものは、それほど印象的なものではない。しかし、ミランの試合を見れば、チームが文字通り彼を中心に回っていることは一目瞭然だ。

ボール非保持の局面ではほとんど仕事をしていないように見えるが、ミランがボールを持つと前線から頻繁に中盤に下がってパスを要求し、的確にボールを捌いて攻撃をオーガナイズする。文字通りの「司令塔」である。

イスマエル・ベナセル、ハカン・チャルハノール、テオ・エルナンデス、アンテ・レビッチら、それまでピッチ上で強いパーソナリティを発揮できず、思い切りに欠けるプレーしか見せられずにいた中心選手たちは、彼にボールを預けさえすれば、そこからフィニッシュにつながる道筋をお膳立てしてくれるという安心感と信頼感を拠り所にして、積極的で自信に満ちたプレーヤーへと変貌した。

首位ユヴェントスを4-2で下すという大金星を挙げた第32節(7月7日)の試合後、TVのインタビューでイブラヒモヴィッチが口にしたコメントは、ミランというチームが現在どのように成り立っているかを、極端に誇張された形で、しかしきわめて象徴的に写し出すものだった。

「俺はここでは、会長でもあり、監督でもあり、選手でもある。全部やっている。選手としてしかカネは払ってもらってないけどね。もし開幕から俺がここに来ていたら、ミランはスクデットを獲っていただろう。残念だね」

■未来への決断

今のミランのチーム状況は、ベルルスコーニ会長時代末期の2014年にマッシミリアーノ・アッレグリ監督(当時)が解任されて以来、毎年少なくとも一度は監督の首をすげ替えながら、良くてギリギリでEL出場権確保、悪ければ2ケタ順位という先が見えない迷走を続けてきたここ6~7シーズンの中で、最もポジティブな部類に入るものだ。見方によっては、やっと未来につながるチームの土台が固まるメドが立った、と言うこともできるかもしれない。

しかし、クラブの経営を預かる首脳陣は、この近年になく良好なチーム状況から考えれば不可解にしか見えない、しかしミランの未来にとってはきわめて重要な決断を下そうとしている。この躍進の立役者であるピオリ監督を今シーズン限りで切り、来シーズンにはトップチームの指揮だけでなく強化部門全体を、全権を握って統括する監督兼テクニカルディレクターに、ドイツ人のラルフ・ラングニックを招聘する方針を固め、最終的な調整を進めているのだ。

本人との合意は数カ月前からすでに成立しているが、現在の契約主であるレッドブル・グループが無償での契約解消に難色を示しており、ミランとの間で解決に向けた話し合いが行われているというのが現時点における状況。しかし、最終的にはこの問題も何らかの形で解決され、ミラン入りが実現するだろうというのが大方の観測だ。

ラングニックは、シュトゥットガルト、シャルケ、ホッフェンハイム、ライプツィヒなどを監督として率いただけでなく、ザルツブルグとライプツィヒでスポーツディレクターとしてチームの長期的な強化戦略を構築、現在はその両クラブを含むRB(レッドブル)グループ全体のフットボールコーディネーターを努めるドイツサッカー界の大御所の1人。現在ブンデスリーガで主流となっている、ボールロスト時にアグレッシブに前に出て即時奪回を狙う「ゲーゲンプレッシング」と縦への志向が強い速攻を組み合わせたトランジション(攻守の切り替え)重視型戦術の元祖、もっと言えば教祖とも言うべき存在である。

ミランがラングニックに白羽の矢を立てたのは、監督としての手腕以上に、強化や育成まで含めたクラブの体制そのものを構築するテクニカルディレクターとしての手腕を評価してのことと考えられる。

11-12シーズンの開始直後、「燃え尽き症候群」を理由にシャルケの監督を自ら辞して、監督キャリアに一旦終止符を打ったラングニックは2012年6月、ザルツブルグ―ライプツィヒというRBグループの2クラブにまたがるスポーツディレクターに就任すると、その後の7年間で揃ってCL/ELの常連となっただけでなく、バイエルン、ドルトムントからリヴァプールまでメガクラブに数多くの好選手を送り込む発掘・育成力までも備えた一大勢力に成長させた。

クラブマネジメントという観点に経つと、ひとつのサッカー哲学に基づく一貫した強化戦略を掲げ、それに基づく育成やスカウティング(選手発掘・評価・獲得)のシステムまでを構築するというラングニックの仕事によって実現されたRBグループの躍進は、やはり世界各地にクラブを保有しネットワークを築いたシティフットボールグループの成功と並ぶ、2010年代欧州サッカー界の一大エポックだった。

■“現在”より“未来”を見据え

ミランがラングニック招聘を決断したのも、このRBグループでの実績をイタリアという新たな舞台で再現してもらいたいと考えたからこそだろう。というのも、現在のミランはピッチの上以上にピッチの外、具体的にはクラブの経営体質において大きな問題を抱えているからだ。

ミランが近年、ファイナンシャル・フェア・プレー(FFP)基準をクリアできずにUEFAから繰り返し処分を受けてきたこと、昨夏に行われたCAS(国際スポーツ仲裁裁判所)の調停によって、今シーズンのEL出場権剥奪と引き替えに、過去の違反を事実上すべて帳消しにしてもらったことは、今なお記憶に新しいところだ。

しかし、これで問題がすべて解決したわけではまったくない。2代前のオーナーであるベルルスコーニ時代から続いてきた、人件費だけでクラブの営業収入の70-80%に達するという慢性的な赤字経営体質は、一朝一夕に改善できるものではなく、FFPの基準をクリアできないレベルの「高コスト経営」が今なお続いているからだ。

2018年夏からオーナーの座にあるエリオット(アメリカの投資ファンド)が送り込んだ最高経営責任者(CEO)のイヴァン・ガジディスは、就任当初から「FFPの枠内で経営を立て直しつつ、近い将来CLの舞台で主役を演じられるチームを築くため、当面は緊縮財政を基本とする。値段の高い即戦力には投資せず、むしろミランと共に成長してヨーロッパの舞台で主役を演じるような若いタレントの獲得に専念し、何年か時間をかけつつ中期的な視点でチームを再構築していく」という経営方針を打ち出してきている。

FFPを安定的にクリアできる経営体質を確立するためには「人件費の大幅削減が必須であり、そのためには何年かピッチ上の結果が振るわなくなったとしても止むを得ない、しかしその間にその後安定してCL出場を果たせるようなチームの土台を構築することが絶対不可欠」という考え方である。

だが、この経営方針をある程度踏まえた上で、パオロ・マルディーニ&ズボニミール・ボバンという2人の強化責任者(当時)が行った昨夏のチーム強化・編成は、新監督ジャンパオロの早期解任と2ケタ順位への低迷という、明らかな失敗に終わってしまう。しかも、不振に陥ったチームの立て直しを巡って、ガジディスとマルディーニ&ボバンの間に、埋めることができない溝が生じることにもなった。

冬の移籍ウィンドウを前にしてマルディーニとボバンが打ち出したのは、ガジディスが掲げる経営方針とは正反対の「即戦力のベテランを獲得して目先の状況を改善することで、シーズンの流れを変える」という強化プランだった。

開幕時点ではチームの中核に据えられていたクリシュトフ・ピョンテクとスソ、そして準レギュラークラスのマッティア・カルダーラ、リカルド・ロドリゲス(いずれも20代半ば)を放出し、主力として獲得したのが38歳のイブラヒモヴィッチと30歳のシモン・ケアー。この2人が期待に応えて文字通りの即戦力として活躍したことが、現在の急激な復調につながったことは明らかだ。

しかし、冒頭で見た通り、現在のミランはイブラヒモヴィッチという1人の絶対的なリーダーにあまりにも多くを依存している。たとえ「現在」がどれほど輝かしいものであっても、このミランの「未来」がまったく不確かなものであることに変わりはない。どう考えてもイブラヒモヴィッチが稼働できるのは最大であと1年でしかないからだ。

それだけではない。上で見た通り、今シーズンここまでの歩みは「結果オーライ」ではあっても、それ以上ではない。筋の通った戦略に基づいた計画的な強化によってもたらされたものではなく、失敗を穴埋めするために下した、ある意味で行き当たりばったりの決断(イブラヒモヴィッチ獲得)がたまたま功を奏したに過ぎないからだ。

そう考えれば、イブラヒモヴィッチ獲得から間もない1月の時点でガジディスが現在の強化体制に見切りをつけ、ラングニックに接触し始めた(2月初旬にはドイツのスポーツ紙『ビルド』のスクープという形でそれが表沙汰になった)ことも、“現在”以上に“未来”を見据えるべきCEOという立場からすれば、ある意味で当然だったと言うことができる。

■来季以降の主役へ躍り出るために

ガジディスが掲げた経営戦略を徹底し、FFPの枠内に収まる健全な経営体質を確立した上で、ミランが本来いるべき場所、つまりCLの舞台に安定的に参戦できるところまで復活するためには、ラングニックがRBグループで行ったような、トップチームだけでなく強化や育成にまで踏み込んだサッカー部門全体の抜本的な再構築が必要だというのは、非常に筋の通った考え方だ。そうした仕事の全権を委ねる総責任者として、ラングニック以上に適任な人材はおそらく存在しない。なにしろ、それが可能であることを実績で示した今のところ唯一の人物なのだから。

イブラヒモヴィッチは、ユヴェントス戦直後のTVインタビューでこうも語っている。

「来シーズンのことはわからない。今ミランの内部で起こっているのは、俺にはコントロールできないことだからね。俺にはあと1カ月半、ここで楽しむ時間が残されている。でも残念なことに、サポーターが俺をライブで見られる機会はもうないかもしれない」

このコメントからも、イブラヒモヴィッチ(とピオリ監督)のミランは今シーズン限りであり、来シーズンに向けてはクラブ内部で「イブラヒモヴィッチにはコントロールできない」計画が着実に進行していることは間違いなさそうだ。

ラングニックという、これまで「カルチョ」には縁もゆかりもなかったドイツ人監督兼ディレクターが、ミランというイタリアサッカーを象徴するビッグクラブのひとつに降り立って、どんなプロジェクトを立ち上げ、どのように進めていくのかは、セリエAの来シーズンを巡る最大の注目点だと言える。

現時点ではまだ、それが具体的にどんな形を取るのか、想像することすら難しい。しかし、ラングニックが彼のやり方で仕事を進めていく中では、イタリアサッカー界の旧勢力(マスコミがその筆頭だ)との間に、様々な摩擦や軋轢が生じるであろうことは、容易に想像がつく。きっと、2008年の「ジョゼ・モウリーニョ降臨」時に匹敵するような喧騒が湧き上がることになるはずだ。それも含めて、ミランの動向からは当分目が離せそうにない。

文=片野道郎(イタリア在住ジャーナリスト)

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