Solskjær manchester united(C)Getty Images

【徹底分析】マンチェスター・ユナイテッドとスールシャールの限界を西紙分析担当が紐解く「守り方も知らないくせに守り、悲劇的な采配で正気を失う」

マンチェスター・ユナイテッド対マンチェスター・シティ。同じくマンチェスターに本拠地を置く者同士によるダービーマッチ。6日に今季の第1ラウンドが行われたが、その差は圧倒的だった。

本拠地オールド・トラッフォードの歓声を浴びたユナイテッドだったが、シュート数は5本、枠内はたったの「1」。ポゼッション率は32.6%、パス本数も2倍以上の差をつけられ、CK数もわずか1本。スコアこそ0-2だが、まさに完敗と言える内容だった。

リヴァプール戦の大敗(0-5)に続き致命的な敗戦となったが、その理由はどこにあったのだろうか。スペイン『as』試合分析担当ハビ・シジェス氏は、オーレ・グンナー・スールシャール監督の采配を「壊滅的」と断言する。今回はマンチェスター・ダービーを振り返りつつ、危機的状況のユナイテッドを紐解く。

以下に続く

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎

■何光年も離れたダービーマッチ

現在、マンチェスターで行われているもの以上に釣り合いが取れていないダービーマッチは、きっとこの世に存在しない。シティはユナイテッドを何光年も引き離してしまった。ユナイテッドの再構築は決して終わることなく、オーレ・グンナー・スールシャールの立場は悪くなるばかり。人々はなぜそこまでひどいのかと問いかけているが、その答えは試合を見るだけで事足りる。そう、収める結果にかかわらず、どんな試合を見たって今のマンチェスター・ユナイテッドはいつも素っ裸のまま突っ立っているのだ。

現状のユナイテッドがシティを相手にできることなど、ほぼ何もない。ダービーマッチでは感情的要素が力量差を埋めることも間々あるが、マンチェスターの両チームほど離れてしまえば、それもかなわぬことだ。それでもスールシャールは頭をフル回転させて、最良の対抗策を見つけなくてはならなかったが、彼が実践したことはひどく絶望的だった。ユナイテッドは、守り方も知らないくせに守りに入ったのである。彼らは自陣でも敵陣でも守れない。盾を持っていない。監督の悲劇的なディレクション、あまりに粗野な戦術によって正気を失っているのが、今のユナイテッドなのである。スールシャールはトッテナム、アタランタ戦に引き続き、3バックをまるで解決法のように使用したが、それはただシティに道を譲っただけだった。

■お粗末な2失点…

Eric Bailly - Manchester UnitedGetty

ジョゼップ・グアルディオラはユナイテッドの脆弱な守備をどう崩すべきかを分かっていた。ガブリエウ・ジェズス&フィル・フォーデンがサイドに張り、ロドリ、ケヴィン・デ・ブライネ、イルカイ・ギュンドアン、ベルナルド・シウバが中央に密集することで、1-5-3-2のユナイテッド相手に常に優位に立っていたのだ。ジェズス&フォーデンがルーク・ショー&アーロン・ワン=ビサカ (この日もひどかった)に対応を迫ったことで、シティの両サイドバック(カイル・ウォーカーとジョアン・カンセロ)は自由に動くことが可能に。またユナイテッドがミドルゾーンより下がって守備ブロックを形成すれば、スコット・マクトミネイ&フレッジ側にいるベルナルド、デ・ブライネ、ギュンドアンへのパスコースを見つけられ、さらにオーバーラップするサイドバックと2対1の状況をつくることもできた。

とりわけカンセロのプレー関与のタイミング、精度は見事なもので、グアルディオラの手腕が感じられた。今の彼は感情が先走って、断続的にしか輝けない不安定な選手ではなくなっている。以前のカンセロとはまったく異なり、グアルディオラに感謝をしなくてはならないだろう。

シティの流麗なポゼッション・フットボールは、ユナイテッドがボールを奪取する術を封じている。ピッチを広く使って中央にスペースを生み出し、ユナイテッドのウィングバックとセンターバックの間をジェズス&フォーデン、さらにベルナルド&ギュンドアンが何度も突いていた。対するユナイテッドは守備がほぼ連動せず、特にワン=ビサカの背後は攻撃してくれと言わんばかり。そしてエリック・バイリーのオウンゴールは……、このレベルの試合では決して容認できないもので、クリアはそこまで難しくなかったはずだ。

同様にベルナルドが0-2としたゴールにおけるハリー・マグワイア、ショーのミスも看過はできない。あのゴールはペップ・シティの印が刻まれていた。ペナルティーエリアの角あたりのクロスから逆サイドに選手が飛び込んでくる……。世界がいかに広いと言えど、このゴールパターンを知らないのは同じ町のお隣さん、スールシャール率いるマンチェスター・ユナイテッドくらいのものである。

■判断も遅く効果もなし

Cristiano Ronaldo Manchester United Manchester City Premier League 2021-22Getty

シティはユナイテッドの守備以外のプレーも滑稽なものとしている。彼らのハイプレスはユナイテッドのビルドアップに深刻なダメージを与えていた。ポグバを出場停止で欠くユナイテッドはライン間のブルーノ・フェルナンデスにパスを出すことがかなわず、クリスティアーノ・ロナウドが待ち構えるシティのペナルティーエリアが蜃気楼のように映っていたに違いない。グアルディオラは右サイドのショーの存在を打ち消していたが、それはまさにツボを押さえた采配だ。ユナイテッドが手にした唯一のチャンスは、実際的にそのサイドから送られたクロスをきっかけとしていたし、シティが通行を許していたワン=ビサカのサイドから生産性ある攻撃が仕掛けられることは皆無だった。

スールシャールはハーフタイムにバイリーをサンチョに代えてシステムも1-4-2-3-1(守備時1-4-4-2)に変更したが、判断が遅く効果もほとんどなし。ユナイテッドのプレスはその後も質が悪く、ロドリのパスを防ぐことができなかった。スペイン人のアンカーは賢明な判断からデ・ブライネ、ギュンドアン、ベルナルドのいずれかにボールを供給。もっと言えば、彼ら3選手のいずれかをユナイテッドはフリーにするしかなかったのだ。シティに純粋な9番がいないためにヴィクトル・リンデレフとマグワイアは前に出られず、彼らとボランチの間には距離が生まれ、シティがそこをフリースペースとして利用していたのだった。

■「プアー」

manchester united(C)Getty Images

シティとユナイテッドのダービーは、その力量差を考えればまったく成立していない。ダビド・デ・ヘアがいなかったら、ユナイテッドは再びスキャンダラスな大敗を喫していただろう。 

スールシャールのユナイテッドは、これ以上良くはならないだろう。彼らの戦術は無秩序に近く、だからこそ、そのプレーは見え透いてしまっている。B・フェルナンデスの創造性とクリスティアーノのプレデターぶりがわずかな希望を灯すが、これまでの歴史や使える金の多さを考えれば、あまりにちっぽけな光としか言いようがない。

シティもユナイテッドのように金を使っているが、しかしその投資が試合内容にそのまま反映されている。シティとユナイテッドはどちらもリッチなクラブだが、しかし片方はピッチ上で「プアー」だ。ユナイテッドはもうこれ以上、スールシャールの貧相なフットボールに時間を費やすべきではない。プレミアとチャンピオンズは、今とは違うマンチェスター・ユナイテッドを必要としているのだから。

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