20210527 Guardiola TuchelGetty Images

【戦術分析】ペップが2度の敗戦で学んだこと…CL決勝で「今世紀最高の監督」は何を狙う?西紙分析担当が紐解く

いよいよ29日に行われる2020-21シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦。コロナ禍において進んだ異例のシーズンのフィナーレが、まもなくキックオフを迎える。

今季の決勝戦を彩るのは、初優勝を狙うマンチェスター・シティと、2011-12シーズン以来2度目のビッグイヤーを狙うチェルシーのプレミアリーグ勢。シティにとっては、2016年のジョゼップ・グアルディオラ監督招へい前から進めてきた長い長いプロジェクトの最終目標であり、これまでの欧州大舞台での「失望」を鑑みれば、絶対に逃がせないチャンスだ。そして、どんなに国内で結果を残そうともCLでの結果によって批判にさらされてきたグアルディオラ本人にとっても、周囲を黙らせる絶好の機会でもある。

これまでのペップ・シティは4年間でラウンド16敗退が1回、ラウンド8敗退が3回。いずれも指揮官によるアプローチがハマらずに「策士策に溺れる」との批判と共に大会から姿を消してきた。それだけに、今回のファイナルで指揮官は何を選択するのか、非常に注目が集まっている。

では、実際にグアルディオラは何を考えているのだろうか? トゥヘル・チェルシーとの過去2戦から何を学び、何を生かし、何を狙うつもりなのだろうか? スペイン大手紙『as』の試合分析担当ハビ・シジェス氏が、これまでの戦いから紐解いていく。

文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎

■評価

チャンピオンズリーグという舞台におけるジョゼップ・グアルディオラの姿は、伝説、過小評価、過大評価、失望の間で、長らく議論され続けてきた……。彼はここまでに2回優勝を果たしているが、しかしフットボール的観点からすれば、もっと優勝していたっておかしくはない。

グアルディオラが批判を向けられるのは、結果という現実に由来している。とはいえ、たとえ優勝まで届かないシーズンでも、そのすべてを失敗とみなすべきではないだろう。マンチェスター・シティではベスト16で1回、ベスト8で3回敗退を喫したものの、それはあらゆる不運に苛まれてのこと。彼が今世紀最高の監督であることがどれだけ否定されたとしても、チャンピオンズでの成功と失敗は紙一重でしかなかった。ペップ以上に自チームのパフォーマンスに影響を与える監督は存在しない。

■問題を抱えた過去2試合

Chelsea-Manchester City 04.17.21AA

今回のチェルシーとの決勝は、グアルディオラにとって大切な挑戦となる。彼は勝ちだけを希求しているわけではない。自分のやり方でそうすることを目指すのだ。トーマス・トゥヘル率いるチェルシーとの直近2戦(FAカップ準決勝0-1、プレミアリーグ1-2)では、ネガティブな感触を与えてしまったために、なおのことだろう。シティはチェルシーの中央での守備固めと速攻に屈服せざるを得なかった。彼らは劣っていたわけではないが、優れていたわけでもなく、相手の長所を封じて自分たちのアイデアを押し付けることができなかった。

グアルディオラはチェルシーのトランジションによる攻撃を間違いなく警戒している。直近2戦ではじつに24回もの速攻を許してしまったのだから。彼のシティはFAカップでは2ボランチ(フェルナンジーニョ&ロドリ)を使用して、プレミアでは3バックを採用したが、より良かったのは後者のシステムだった。ただポルトを舞台とした今回の決戦で、いつものシステムを使わないのも、おかしい話となる。そもそもシティはどちらの試合でも、異なるコンテクストの中で似たような問題を抱えてしまっていた。

攻撃面については、決定的なチャンスを生むのための流れるようなプレーが欠けていた。チェルシーはハイプレス、中央とゴール近くまで後退する守備を巧みに使い分け、シティの香水のような攻撃をせき止めている。トゥヘルはFAカップでは1-5-3-2を使用してシティのビルドアップを阻害。メイソン・マウントをシティの2ボランチではなくエンゴロ・カンテと同じ高さまで上げ、ジョルジーニョがケヴィン・デ・ブライネを警戒した。その狙いはシティの攻撃をサイドに迂回させて、両ウィングバックがジョアン・カンセロとバンジャマン・メンディからボールを奪うことにあったが、見事に的中させている。さらにプレミアの一戦で、トゥヘルはシティの3バックにプレスを仕掛けられるようにシステムを変更。最初はビリー・ギルモアかカンテをロドリにつかせることで、彼の両脇にいるフェラン・トーレスとラヒーム・スターリングにパスが通ることを許容してしまったものの、アントニオ・リュディガーが敵陣まで入り込みフェランへのパスを遮断し、その後ロドリを追い回すことを止めて問題を解消するに至っている。

■決勝で狙うべきポイント

Gundogan & De BruyneGetty

シティはトゥヘルのチェルシーを相手に、自分たちのフットボールを容易に実現することができなかった。ただペップは、その中でもいくつかの光を見出している。というのも、彼らは何回かチェルシーのハイプレスの突破に成功していたからだ。センターバック、サイドバック、ボランチによる三角形の連係は、デ・ブライネとサイドハーフ及びウィングが中央でボールを受けることを可能とし、スターリングとフェラン(どちらもポルトでは控えとなる可能性が高い)のややオープンの位置取りがチェルシーのプレスを無効化するのに役立っていた。加えて、そうした駆け引きはチェルシーのセンターバックの一人を自分の持ち場から離れることを義務付け、DFラインに亀裂を生じさせている。プレミアの一戦でガブリエル・ジェズスがロングボールから決めたゴールこそ、その亀裂をうまく突いたものだった。

シティがボールを回しながら敵陣に侵入した場合、チェルシーの厚着の守備を脱がすためのメカニズムが必要となる。自陣まで後退するトゥヘルのチームは、7選手まで使って中央を固めるからだ。その打開の鍵となるのは、パリ・サンジェルマン戦のファーストレグ、その後半に見せたパフォーマンスか。シティはあの日、ペップの哲学からは程遠い内気なプレーから試合を始めた。だが後半になると攻撃時に1-3-5-2となるシステムを駆使。ロドリとイカルイ・ギュンドアンが中央の軸で、左サイドバックがかなり高い位置まで上がり、右サイドではベルナルド・シウバがリヤド・マフレズとポジションを変えながらPSGの守備範囲をいやらしく広げていった。そうしてフィル・フォーデンとデ・ブライネが中央で動き回ることによって、流れるような、それでいて意図的なポゼッションフットボールを実現している。

準決勝でチェルシーに敗れ去ったレアル・マドリーは、スタンフォード・ブリッジの一戦でジョルジーニョとカンテの後方を突くプレーでしか惜しい場面を生み出せなかったが、それはシティにとっても有効な策になり得る。ギュンドアンやデ・ブライネの2列目からの飛び出しは、おそらくゴールを決める上で大切な要素となるだろう。これらのことを考慮しても、シティはファーサイドにクロスを送ることをやめてはいけない。その攻撃方法は今季、直接的にも間接的にもゴールにつながってきたのだから。クロスを送らない場合には、最終ラインを引き下げることでゴール手前にスペースを生み出すことが肝要となる。

■求められる繊細なリスク管理

20210527 Tuchel GuardiolaGetty Images

どうしても前のめりになりがちなシティではあるが、攻守の安定にはいつもより気を遣わなければならない。少しでも安定を欠いてしまえば、チェルシーのトランジションの餌食になることは必至。カイ・ハヴェルツ、クリスチャン・プリシッチ、ティモ・ヴェルナー、マウントの誰がプレーしようとも、彼らはセンターバックとサイドバックの間を突くスペシャリストだ。ジョン・ストーンズ、そして並外れたシーズンを送るルベン・ディアスは、彼らに距離を取られてはいけない。チェルシーのアタッカーたちはスペースへの嗅覚、そのスペースに入り込む選手へのサポートが秀逸であり、わずか2~3タッチでフィニッシュフェーズを迎えられるよう教育されている。シティは基本的に後方へ走ることを嫌うチームであり、彼らのトランジションを食い止めることは、大きな挑戦と言って差し支えない。

シティの守備面についてもっと言及すれば、ハイプレスに効果性を持たせることも大切だ。直近2試合では、それがうまく機能していなかった。シティのサイドバックがチェルシーのウィングバックに対応するとき、トゥヘルはアタッカーの一人を下げ、空いているスペースでボールを受けさせている。チェルシーは中央からサイド、サイドから中央と、シティのプレスに隙間ができるまでポゼッションする場所を移行し続けた。中央ではカンテがロドリとのポジションの取り合いに勝利し、さらにウィングバックのリース・ジェームズもシティのプレスに混乱をきたすべく中央に入り込んでいた。対してグアルディオラは、プレミアの試合では1-3-3-3-1を使用して敵陣でのボール奪取数を増やしている(FAカップより17回多かった)。それはチェルシーのビルドアップに合わせて、システムをよりシンメトリーにすることが目的だったが、今回もそのシステムを使うのか、いつもの1-4-3-3か1-4-4-2で挑むのかは、始まってみるまで分からない。いずれにしても、チェルシーの危険極まりないスピードあふれる攻撃にさらされるような状況を、絶対に生み出してはならない。

■バルセロナ以上の成功は必要ない

guardiola-man-city(C)Getty Images

チャンピオンズ決勝を迎えるにあたって、グアルディオラが思慮を巡らしているのは、ざっとこんなところだろう。何をすべきで、それをどうやってすべきなのか……。ただ、どんなことが起こるとしても、彼の軌跡は議論の余地なく称賛すべきものだ。その名誉を保つために、勝利は必要としていない。いつになってもリオネル・メッシと関連付けられるバルセロナ時代以上の成功だって必要ない。ペップの輝きは、彼が率いる、または率いてきたチームが一人でに物語っている。そのプレー方法、その統計が物語っているのだ。

ここスペインであっても、監督として30タイトルを獲得するグアルディオラを支持する者と敵対する者に分かれている。感覚的には、半々といったところか。そして、敵対する者にはレアル・マドリーファンや結果至上主義者ももれなく含まれているが、彼らのことをそこまで気に留める必要はないだろう。刑法にひっかからない範囲であれば、間違いながら生きる権利を誰もが有しているのだから。

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