チャンピオンズリーグ(CL)準決勝ファーストレグ、シティ・オブ・マンチェスター・スタジアムで行われたマンチェスター・シティ対レアル・マドリーの大一番は、4-3でホームチームが勝利した。
開始2分で先制したシティは、11分にも追加点を奪うと、その後も相手を圧倒して決定機を量産する。しかし前半のうちに1点を返されると、後半開始10分までに1ゴールを奪い合う打ち合いの様相に。74分にベルナルド・シウバが4点目を奪って決着かと思われたが、終盤にカリム・ベンゼマにPKを決められ3失点目。4-3でシティが勝利したものの、セカンドレグでの逆転は十分に可能なスコアとなっている。
この試合を見たスペイン『as』試合分析担当ハビ・シジェス氏は、内容的には「シティの圧勝だった」と断言する。ジョゼップ・グアルディオラ監督が用意したプラン、そしてそのプランの遂行も「完璧」だったとも。しかし同時に、シティが見せた脆弱性とレアル・マドリーの神秘を紐解いていく。
文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎
グアルディオラの勝利とレアル・マドリーの神秘

ジョゼップ・グアルディオラはあまりに頭が良い。現代フットボールにおいて、ゲームモデルの構築で彼以上の成功をつかんだ者はいないし、彼以上に優れた干渉主義者だっていない。だからこそ、レアル・マドリーに勝利した後の失望の振る舞い(そう、マンチェスター・シティは勝ったのだ。たとえ、そうは見えなかったとしても)は何が起こったのかを雄弁に物語っていた。
ペップのシティはカルロ・アンチェロッティのマドリーをどこまでも、果てしなく上回っていた。だがマドリーの命はこれまでと同じように、どこまでも、果てしなく尽きることがなかったのだ。マドリーは崖っぷちに立たされながらも、シティの圧倒的優位性をスコアに反映させることなく、サンティアゴ・ベルナベウで魔法を発動させる用意を整えている。……なぜ、そうなったのかは聞いてくれるな。「今、マドリーがピッチに立てば、これまでにも増して神秘的なことが起こる」と説明するほかないのだから。
完璧なゲームプラン

グアルディオラは過去に12回もマドリーを負かしており、このエティハドの試合でどんな準備をすべきかしっかり心得ていた。ビルドアップからアタッキングサードの配置まで綿密に設計していたシティは、マドリーのDFラインからFWまでの距離を間延びさせ、プレッシングの仕掛けどころをぼやかすことに成功している。グアルディオラはビルドアップ時、エデルソンからショートパスをつないでいくことを徹底して、マドリーのブロックをまんまと前へ誘い出した。ルカ・モドリッチ、フェデ・バルベルデ、トニ・クロースが前へ出てもDFラインがついてこないため、そこには付け入るためのスペースが広がることに。マドリーはどこで守ればいいのか終始分からず、グアルディオラの望んだ通り曖昧なプレッシングを仕掛けることに終始している。
グアルディオラはまた、オスカル・ジンチェンコをまさに理想的な囮としていた。このウクライナ人の左サイドバックは、ジョアン・カンセロのように中央寄りに位置することで、バルベルデに迷いを生じさせている。もしバルベルデが釣れるならばケヴィン・デ・ブライネがその背後で自由を得ることとなり、釣れなければ自らプレーすることができた。こうしてシティのポゼッションフットボールは、マドリーの守備ブロックに水が漏れるほどの亀裂を生じさせ、次々と打撃を加えていった。マドリーは中央レーンの守備の厚みを増やすことも、サイドの3対3で積極的に守ることもできず。シティはエデルソンとジンチェンコだけでなく、インサイドハーフもウィングも常にマドリーを迷わせるようにプレーしていた。
グアルディオラのチームの何が素晴らしいかといえば、フットボールで守ることが難しいゾーンをしっかりと突いていくことだ。そのゾーンとはサイドバックとセンターバックの間と、アンカーとインサイドハーフの間。デ・ブライネ&ベルナルド・シウバは前者のゾーンに位置して、フィル・フォーデン&リヤド・マフレズとの連動からマドリー守備陣を切り崩した。マドリーはダニ・カルバハル&フェルラン・メンディがフォーデン&マフレズによって釘付けにされ、クロースがアンカーだと相変わらず迷子で、エデル・ミリトン&ダヴィド・アラバ(後半からナチョ)も常に後手後手の対応となった。
永遠の迷いの中にいるマドリーはクロス攻撃にも四苦八苦している。今季シティはクロス攻撃を特徴の一つとしているが、マドリーはそれにも対応できていなかった。ペナルティーエリアの守備でミリトンとアラバは目も当てられず、両サイドバックに至ってはマークすらおぼつかず。やはり、必要とあらばDFラインまで下がって第三のセンターバックとなるカゼミーロの不在は痛かった。加えてクロースのアンカー起用は、いつどんなときにも悪手にしかならないことも、アンチェロッティは痛感したに違いない。
完璧だったシティ。だが…

シティはポジショナル、トランジションの両攻撃でマドリーを最大限苦しめた。だが同時に、これまで散々非難されてきた説明のつかない守備の脆弱さも再び露呈してしまった。マドリーはそこまで多大な労力を必要とせず、彼らから3点を奪ってしまったのだ。マドリーがそのために必要としたのは、ヴィニシウス・ジュニオール&カリム・ベンゼマのファンタジーと、シティのちょっとしたプレゼントのみ。ほぼマットに沈めたマドリーに対して、アイメリク・ラポルトがハンドでPKを献上してしまうなど、本当はあってはならない。フェルナンジーニョをかわして長い距離を走ったヴィニシウスを誰も止められないなど、普通のことではない。マークが散漫になったところで、ベンゼマにクロスをあれだけ巧みに合わせられるなど、どうかしている。
シティは凄まじいチームだ。ボールを持てば間違いなく世界最高で、ハイプレスの質にしても同じことが言えるかもしれない。しかし同様に、彼らには何らかのコンプレックスがあり、マドリーがペナルティーエリアに近づいてくると、その恐怖心を隠すことができなかった。だからこそ、グアルディオラはその失望感を露わにしたのだった。シティはこのファーストレグ、ゲームプランもプランの実行もほぼ完璧で、ノックアウトラウンドの決着をつけることさえできた。だが終わってみれば、私たちはあれだけ劣勢だったマドリーが決勝に進出してもおかしくはないと感じてしまっているのである。