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かさむ交通費にチケット高騰…それでもCL決勝はリヴァプールファンにとって特別な旅

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“民族大移動”が始まろうとしている。

今週ずっと、イギリスのあらゆる空港、港、列車の駅は人でいっぱいだ。赤いシャツを着た、リヴァプールなまりのイギリス人が、はちきれんばかりの笑顔で、希望と期待を胸に出国している。

リヴァプールのライム・ストリート駅にいたあるサポーターは、こう言って笑った。「パリの連中はきっと驚くぜ!」

リヴァプールのファンにとって、チャンピオンズリーグは常に胸を高鳴らせるビッグイベントだ。

プレミアリーグの優勝は逃したかもしれない。だが、今週末にはフランスの首都に大勢のリヴァプールファンが押し寄せるだろう。ユルゲン・クロップ監督率いるリヴァプールが再びビッグイヤーを掲げ、輝かしいシーズンの有終の美を飾るのを見るために。

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およそ4万人のサポーターが、はるばる英仏海峡を渡って、土曜の夜にスタッド・ド・フランスで開催されるレアル・マドリーとの試合を見に行くと予想されている。だが、これまでの歴史を思い起こせば、この数字でさえ控えめな推測であるかもしれない。

現在、数週間前からリヴァプールの人々のあいだでもちきりの話題はひとつしかない。 

どうやってパリまで行くか、ということだ。

■かさむ費用で経由地が問題に

ファンの中には、2月にチャンピオンズリーグ決勝の会場がサンクトペテルブルクからパリに変更されたときから、すでに旅行の計画を立てていた者もいる。

その時点で、リヴァプールはインテル相手にラウンド16の激戦を戦っている最中だったが、それでも飛行機のチケットや現地のホテルはほとんど予約済みとなった。

「こういうことには先手を打っておかなきゃいけないんだ」と、レッズのファンでジャーナリストのクリスチャン・ウォルシュは言う。

「一刻も早く予約しておかなければならない。さもないと、たった2時間のフライトに500ポンド(約8万円)も払わなければならなくなるかもしれない」

ウォルシュといつも日帰り旅行に行くグループは、すでにサンクトペテルブルクまでの旅程を立てていた。ヘルシンキ経由だ。だが、会場がパリに変更となるやいなや、彼らは計画を立て直す必要性に駆られた。金曜に列車でフランスに向かう前に、ベルギーのブリュッセルで1泊するというプランに変更された。

「リヴァプールから飛行機で行ければ、最高だし、大したストレスもない」と、ウォルシュは言う。

「準決勝(対ビジャレアル)を見るためにマンチェスターから飛行機に乗ったが、『ハンガー・ゲーム』のセキュリティの列のようだったよ!」(訳注・『ハンガー・ゲーム』は、アメリカの作家スーザン・コリンズによるヤングアダルト小説。年に1度、12歳から18歳までの男女24人がテレビ中継される中で最後の1人になるまで殺し合いを強制されるイベントを描いた作品)

飛行機から列車に乗り継ぐのが、サポーターにとって人気の行程だろう。直行便の代金を考えれば、当然の選択である。

リヴァプールまたはマンチェスターとパリとの往復を考えると、金曜に行きの飛行機に乗り、土曜に帰りの便に乗ることになるが、これは、およそ750ポンド(約12万円)かかる。スポート・オプションズやフットボール・トラベル株式会社のようなツアー会社の中には、およそ650ポンド(約10万3,000円)の日帰り旅行を提供する会社もある。

これほど費用がかかるとなると、ファンの多くは新しい手を考えなければならない。経由地として人気なのはブリュッセルやアムステルダムだが、フランクフルト、ジュネーブ、ケルン、チューリッヒなども考えられる。いずれも列車でパリまで数時間の距離だ。

もう少し西の都市を考えてみるのは、どうだろう。イングランドのリーグ1(プレミアリーグの2つ下のカテゴリー)に属するサンダーランドのファンが、ロンドンからマジョルカ経由でプレーオフ決勝の会場に行ったという話は聞いたことがあるかもしれない。では、レッズのファンが今週パリに行くのに、ベイルート(レバノン)を経由するというのはあり得るのか?

「匿名でお願いしたいんだけどね」と、ウォルシュが笑いながら話してくれた。「だけど、言ってみれば、『変わった』旅行をすることで有名なやつがいるんだ」

「最初、やつはティラナ(アルバニアの首都)経由で飛ぶつもりだったと思う。だけど、これはあまりにもバカげていると気づいて、変更した。我々は、サッカーのためにそこまでやるんだよ!」

その人物はそれをまたやるかもしれない。世界中がサポーターからぼったくるつもりであることは明らかで、驚くことではない。

ユーロスターの乗車賃は、イングランドのチームのどこかが決勝に残るのは間違いないとなった途端に跳ねあがった。今週のパリのホテルの部屋代をざっと見るだけですべてがわかる。2つ星ホテルのシングル1泊が、最低でも550ユーロ(約7万4,000円)なのだ。

いくつか予約がキャンセルされ、再びリストに載ったものもあるが、売り手は最大限の利益獲得をもくろんでいる。「残念ながら、これが我々の住む世界だ」と今月初旬にクロップ監督は残念そうに語った。

当時、ファンの中にはパリ郊外のキャンプ地を予約したものもいたが、多くは自動車や普通客車の中で寝ることになりそうであり、さもなければもっと単純だがリスクの高い、「一晩中外にいる」というオプションを選ぶことになるだろう。

■チケットが高騰

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さらに、チケットの問題もある。「ある」どころか、最大の問題だ。

UEFAは、リヴァプールのファン向けに売るチケットは2万枚までと決定し、リヴァプールのサポーターグループであるスピリット・オブ・シャンクリーのみならず、クロップ監督も激しく抗議した。一般の入場券が1万2,000枚販売されたため、セカンド・チャンスとしてファンの多くがこれを入手できたが、それでも、8万人収容のスタジアムの3分の2近い席がUEFAの関係者やスポンサー、ビジネス・パートナー、接待用のチケットとして売られるというのである。

これにより、ブラック・マーケットがうごめくこととなった。『GOAL』の調べでは、50ポンド(8,000円)のチケットが1,500ポンド(約24万円)以上で売られ、リヴァプールに割り当てられた19,618枚のうち、20%以上に400ポンド(約6万4,000円)以上の初値がついたという事実は、多くを物語るであろう。

今週、クラブはSNSの各社に、オンラインで決勝のチケットを売ろうとするファンのアカウントを閉鎖するよう通達した。リヴァプールによると、チケットを買うために仲間のサポーターが数千ポンド(約数十万円)も支払わなければならないというのは、とんでもないことだと理解した13人が、自らキャンセルしたという。

「驚くべきことではない」と、レッズ・ファンのダン・ニコルソンは言う。

「割り当てがこんなに少ないのだから、こんなことが起こることは当然だ。毎年同じことが繰り返される。リヴァプールは他のチームより決勝に進出することが多いから、こういうことが頻発するんだ」

「いつか、本当のサポーターがスタジアムの少数派になってしまうような、こんなわずかな割り当てはよくないというメッセージを、ファンが一致団結して出せるようになってほしい」

■「ボスナイト」開催へ

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ニコルソンは、伝説的なイベントである「ボスナイト」(訳注・リヴァプールのファンがホームでない試合の後集まってチャントを熱唱するイベント)を推進しており、ここ数年、リヴァプールがヨーロッパ各地で行うアウェーの試合の多くで、華やかさとサウンド・トラックを提供している。

2018年、キーウのタラス・シェフチェンコ公園で行われたイベントは、永遠に人々の記憶に残るだろう。ヴィルヒル・ファン・ダイクは翌年にそのときの様子を、試合前の準備の最中にビデオで見たという。

「あれを見て、ゾクゾクした。ランチの後に見たんだけど、とても興奮した。そこに行って、トロフィーを掲げて、サポーターたちと一緒に騒ぎたいと思ったね」

議論を重ね、フランス当局との多くのやり取りをした末、試合当日に「ボス」イベントは開催されることになった。パリ東部のヴァンセンヌ広場で、リヴァプールファンとして名高い、ジェイミー・ウェブスター、キーラン・モリニュー、ティモ・ティアニーといったアーティストや、ライトニング・シーズやジョン・パワー率いるキャストなどのバンドが演奏する予定になっている。ニコルソンは「イベントができるようになって嬉しい」と喜ぶ。

「キーウやマドリーで成功したんだから、記憶に残る午後をパリで過ごせなかったら、悲しくて悔しくてやりきれなかっただろう。みんなが楽しめるイベントになってほしい」

この「楽しめる」という言葉は、サポーター同士での会話では、どこででも口にのぼる単語のようだ。

「リヴァプールファンとして楽しめないとしたら、試合を間違えたね」と、ウォルシュは言う。

「行き先は問題じゃない、旅することが大事なんだ。たどりついた先に楽しみが待っている。僕のようなペシミストですら、ここ数年のことを考えると、今シーズンに旅ができるというのは奇跡だと思う」

■「すべては彼から始まった」

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ニコルソンやウォルシュ、そしてリヴァプールサポーターすべてのキーパーソンとなっているのがクロップ監督だ。このドイツ人指揮官が舵を取る船に全員が乗っているのである。ニコルソンはこのように主張する。

「クロップ監督は今世紀のシャンクリー(訳注・1960年代から70年代にかけて、低迷していたリヴァプールを立て直した伝説の監督)だ。クロップ監督をこの世代の代表とまで言えるとは思わないけれど、稀有な監督だよ!」

「すべては彼から始まった。幸せな気分にさせてくれるし、勝利のメンタルや、あらゆるやり方がとにかく楽しい。クロップ監督の発信が我々みんなに影響している!」

「最近、友人にリヴァプールを応援するってことは、大きなスタッグ(訳注・金融用語で短期の利益を目的に新株を買うこと)のようだと言われたけど、このスタッグは本気のスタッグさ!」

「彼の言うとおりだよ。死ぬほどワクワクする、みんなが素晴らしい時間を過ごしている」

最高の時間は今週末まで続く。パリでの結果がどうであれ、日曜の午後にはリヴァプールでパレードが行われるだろう。ファンが通りに列をなし、人生で最高の時を与えてくれたヒーローたちに歓声を送るのだ。ウォルシュはこう言う。

「彼らはそれに値する選手たちだ。そして願わくば、そのとき彼らがチャンピオンズリーグのトロフィーを掲げていますように…」

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