■衝撃ではない衝撃
結局のところ、一番の衝撃は「それほど衝撃的に感じなかったこと」なのだろう。
むしろ、避けようがないことだったかもしれない。
もちろん、リヴァプールがプレミアリーグのホームゲームで敗れることは、近年で言えば大事件だ。めったに起こらない。フットボールのスタジアムはよく“要塞”に例えられるが、アンフィールドはこの4年近く、まさにその通りだった。
だが、今は違う。21日のバーンリー戦の敗戦(0-1)は、2017年4月以来のリーグ戦ホームゲームの黒星だった。69試合、1369日の記録は、アシュリー・バーンズの右足一振りで消えていった……。
数字は嘘をついていない。2017年以来初めてリーグ戦5試合勝利なし。4試合連続無得点は21年ぶりのことだ。彼らは記録更新に慣れてはいるが、今回は違う。
「私のせいだ」。不機嫌な顔をしたユルゲン・クロップは21日の試合後、記者団に語った。「選手たちに正しい感情と自信を持たせるのが私の仕事だが、それがうまくいかなかった」
現時点で、プレミアリーグ王者のすべてがうまくいっていないのは間違いない。ゴールが欠如し、自信も失っている。結果も芳しくなく、個人でもチームでもパフォーマンスは悪化している。彼らは長い間、容赦のない戦いを続けていたが、突如としてバッテリーの交換が必要になったようだ。
問題は、これが些細なことに過ぎないのか、この1カ月だけなのか、走った道が悪かっただけなのか、それとももう少し何かがあるのか、ということだ。
偉大なチームであっても、毎年最高の基準を維持するのは至難の業だ。確かに、現在のフォームは彼らのサポーターや世界中のファンを失望させている。
だが彼らは、最初はワクワクするが欠陥があり、刺激的だが脆かった。そして、勝つことを学んでいった。クロップの下でチームとして、個人として成長していく姿は驚異的だった。13カ月の間に、チャンピオンズリーグ(CL)、クラブ・ワールドカップ、プレミアリーグの王者になった。間違いなく、歴史に名を残すだろう。
今、彼らを見下すのは愚かなことだ。首位からまだ6ポイント差であるし、シーズンの中盤に差し掛かっただけ。5月までに試合はたくさんある。来月にはCLがあり、24日のFAカップではマンチェスター・ユナイテッドと再戦する。それにフォーカスできれば、何の問題もないだろう。
■答え
(C)Getty Imagesだが、クロップはいくつかの答えを出さなければならない。
まず短期的には、チームの自信を取り戻させ、選手の誇りと競争力を刺激しなければならない。何よりもまず、アタッカー陣の。「我々は決定的な10%が欠けている」、クロップは言った。この奇妙なシーズンでは、すべてで戦わなければならない。今の段階で、トップ4フィニッシュは決して確実ではない。
そして長期的には、より大きな決断に迫られている。「今後数カ月の間に大きな変化があると示唆している」、こういっても過言ではないだろう。
「どこかでチームを再構築しなければならないと聞いた気がする。世界はクレイジーだ。パンデミックのせいだけじゃないね!」、クロップは嘲笑した。
クロップは選手たち、偉大な結果をもたらしてきた彼らに誠実だ。モハメド・サラーのフィニッシュ、サディオ・マネの熱意、トレント・アレクサンダー=アーノルドの態度を疑っているかどうか尋ねてみればいい。そんなことは以前にもあっただろうか?
だが、明らかな事象を無視するわけにはいかない。ジョルジニオ・ワイナルドゥムはどうだろう? 彼は全試合に出場しているが、夏には代役が必要になるのか? どういうプランなのだろう?
クロップのファーストチョイスである3トップは、来シーズンに30歳を迎える。そして少なくとも1人は衰えを見せている、という事実はどうか? 指揮官はロベルト・フィルミーノを擁護するだろう。が、彼の影響力は衰えている。それは否定できない。
ディフェンスはどうだろう? フィルジル・ファン・ダイクとジョー・ゴメスは大ケガから復帰に向かっているが、その後も影響があるかもしれない。ファン・ダイクは7月で30歳になる。彼らがどんなに良い選手だからといって、同じプレータイム、水準を期待できるのだろうか? リヴァプールは新たなセンターバックを必要としていた。
そして、クロップは現メンバーが成長し、本当に活躍できると信じているのだろうか? カーティス・ジョーンズのポテンシャルは間違いないし、チャンピオンシップで好プレーを見せる17歳ハーヴェイ・エリオットは傑出した選手だ。
しかし、ナビ・ケイタはフィットネスを維持できるのか? アレックス・オックスレイド=チェンバレンはレギュラーになれるのか? 先月のクリスタル・パレス戦(7-0)でプレミアリーグ初ゴール奪って以降、リーグ戦ではわずか6分しか与えられていない南野拓実はどうだろうか?
ジェームズ・ミルナーは35歳になった。永遠に穴埋めを期待できない。一方、ジェルダン・シャキリとディボック・オリギが1年後もここにいたとしたら驚きだ。両者は新型コロナウイルスの影響がなければ、昨夏の時点で放出されていただろう。
チアゴ・アルカンタラは試合毎に良くなるワールドクラスの選手だ。ディオゴ・ジョタは今後のチームの柱になるだろう。
ジョタの不在は、最近ではファン・ダイクやゴメスと同様に痛感させられている。だが、クロップはなぜデンマークでのCLで彼を危険にさらしたのか、その疑問もあるだろう。明らかに間違いだった。普段はミスを起こすようなことがない彼らにとって。
■Never too high, never too low
Gettyリヴァプールはこれまで、明快さと正確さ、冷静さと揺ぎ無い信念をもって戦ってきた。ピッチ上でも、ピッチ外でも。
彼らは今、パニックになることはないだろう。そうすべきでもない。“Never too high, never too low”。クラブ内で使われてきた常套句だ。困難な状況をスムーズに乗り越えるために、日々、自分たちを信じている。
彼らは今、数年ぶりに外部から問いただされ、挑戦を受けている。だが、彼らは責任を追及したり、政治的な動き、雑で感情的な決断もしない。努力と内部への信頼だけだ。オーナーへの信頼、監督への信頼、クラブへの信頼。
これらのアプローチは、かなり上手くいっている。今のところは――。
取材・文=ニール・ジョーンズ(Neil Jones)/『Goal』リヴァプール番記者


