「あまりにも奇異で、強烈なデビュー」 3分で才能を証明。久保建英はヘタフェの道を照らすアイドルに
エルチェの本拠地マルティネス・バレーロの時計が65分を回ったとき、ホセ・ボルダラスは久保建英をピッチに送り出すことを決断した。その時点のスコアは、1-1。ヘタフェはエルチェに退場者が出たことで数的優位に立っていたが、攻撃の決め手を欠いて、焦りを募らせていた。なんとなれば相手は残留を争う直接的なライバルであり、ここで勝利を逃す手などなかったのだ。
そして道を切り開いたのが、投入されたばかりの久保である。68分、ペナルティーエリア手前右で初めてボールに触れた日本人は、またぎフェイントで相手DFに圧をかけながらじりじりとエリア内に侵入し、突として左足を振り抜いた。エルチェGKエドガル・バディアは強烈な勢いのボールを前に弾くのが精一杯で、これをハイメ・マタが押し込み、ヘタフェはついに勝ち越しに成功した。
久保はヘタフェにとって大切な試合で、大切な役割を担えることをたった3分で証明してしまった。それは彼が、ヘタフェのサポーターにとって新たなアイドルになったことを意味している。サポーターは彼の到着から、今季後半戦により良いフットボールとより良い結果を獲得できるという希望を抱いたのだった。
久保はエルチェ戦で与えられたわずか30分の間に、私たちが歩んでいく道を煌々と照らした。そのボールを扱う技術、判断力、緩急をつけたスピードあふれるプレーは、繊細かつ爆発的であり、フットボールにおける極上のエクスタシーを感じさせてくれる。彼は出場から3分後の勝ち越し弾を導いただけでなく、アンヘル・ロドリゲスのPK誘発のきっかけとなるクロスを送り、審判は見ていなかったものの自らPKを獲得できた場面だってあった。
■魅了
スペインで、久保は幸運な星の下に生まれた存在と言われている。しかし、それにしてもヘタフェデビューは、あまりにも奇異で、強烈なものとなった。彼の加入が決まったのは先週金曜の朝のことだったが、スペイン首都は同日午後から、ここ100年間で最も激しい豪雪に見舞われた。ヘタフェの練習は急遽取り止めとなり、今回のエルチェ戦も日曜から月曜に延期に。自宅待機を義務付けられた選手たちはその後、ラ・リーガのスタッフたちによってマドリーのバラハス空港まで連れて行かれ、空港近くのホテルに宿泊している。
久保は笑顔で、しかし、一体誰に話を通したらいいか分からないままホテルに姿を現した。その役割を請け負ったのは、2000年以降ではスペイン人で唯一チャンピオンズリーグ決勝の笛を吹き、現在はヘタフェのトップチーム主務を務めるメフト・ゴンサレス、その人である。スペイン史上最高の審判は久保を何人かのチームメートに紹介し、この瞬間、彼は正式にヘタフェの一員になったのだった。
加入以前から久保と連絡を取り合っていたボルダラスは、彼を一度も練習に参加させられなかったにもかかわらず、招集リストに含めることをためらわなかった。それから起こったことは、上に記した通りだ。少しばかりの雲が浮かんでいたマルティネス・バレーロで、幸運の星の光が差し込んだ。久保はそのプレーで光を反射させ、私たちが歩む道を照らした。ヘタフェにとって重苦しかった試合は、久保がその実力を軽やかに示す初練習になっていた。
ヘタフェが次に臨む試合は、9日後に行われる本拠地コリセウム・アルフォンソ・ペレスでのウエスカ戦。ヘタフェの練習場はまだ雪と氷に覆われたままだが、クラブはできる限り早く練習を再開させるべく尽力している。ようやく、チームと練習に取り組むことができる久保は、すぐにでもビジャレアルで手にできなかったレギュラーの座をつかむはずだ。
これからは、コリセウムの右サイドが久保の主戦場となる。ヘタフェのサポーターは、彼を直に見れないことにため息をつきながらも、サイドを疾走する姿を想像して胸を高鳴らせている。恋に落ちるのは、エルチェ戦の30分間、いや、3分間だけで十分だった。
取材・文=ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ(J. A. de la Rosa、スペイン紙『アス』ヘタフェ番記者)
翻訳・構成=江間慎一郎
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