日本代表は12日、キリンチャレンジカップ2023でトルコ代表に4-2で勝利。9日のドイツ代表戦からスタメン10人を入れ替えての勝利には、どのような意味があるのだろうか。【取材・文=河治良幸】
■これまでにない勝利
2連勝で終わった“森保ジャパン”の欧州シリーズ。4−1と快勝したドイツ代表戦から中2日で迎えたトルコ戦だったが、左サイドバックの伊藤洋輝を除く10人を入れ替えたスタメンで臨み、4−2で勝利を飾った。
しかも代表3試合目の中村敬斗(スタッド・ランス)が2得点を決めたり、同じく2試合目で初スタメンの伊藤敦樹(浦和レッズ)が先制ゴール、代表デビュー戦の毎熊晟矢(セレッソ大阪)が中村敬のゴールをアシストしたりと、個人のアピールも目に付いた。
森保監督は「選手を入れ替える中で、連係連動がなかなか難しい中でも良いチャレンジをしてくれた」と振り返る。ドイツ戦のメンバーに比べると、ボールの奪いどころがはっきりしていなかったり、攻撃の連係面でも動きが被ってしまったりするシーンは多々あり、一時は3−0になった点差ほどトルコに対して主導権を取っていた訳でも、圧倒していた訳でもない。また3−0になってからの拙いゲーム運びにも問題があった。
最後は終盤に入ったキャプテンの遠藤航(リヴァプール)や冨安健洋(アーセナル)の働きに助けられたところもあったが、これだけ短期間でメンバーを入れ替えて、しかも勝ち切るということが、これまでの日本代表にはなかった。
■選手の経験則頼りではないチーム
(C)Getty images「選手層を厚くするということと、より多くの選手と戦術の共有をする、そしてレベルアップにつながる経験をするということを、試合の経験の中で行えた」
そう森保一監督が語った通り、ここからチームの競争力が日本代表を活性化させていくベースになっていきそうだ。今回こうした形で連勝できたのには大きく二つの理由が挙げられる。1つは個人の能力が上がって、メンバーの誰が出ても高いスタンダードでやれる底上げがされてきているということ。
もう1つは第二期“森保ジャパン”ということで、カタール・ワールドカップ(W杯)を経ての2サイクル目でチームコンセプトの共通理解があり、新しく入ってきた選手も何をするべきかをイメージ共有しやすくなっているということだ。チーム作りが進んで、ある程度、主力が固まってくると選手の経験則に頼りがちになる傾向がかつての日本代表にはあったが、現在は森保監督だけでなく、コーチングスタッフも共有してコンセプトを伝えられる環境があるということだろう。
キャプテンの遠藤航も「ドイツ戦での準備の仕方だったりは、サブ組の選手も当たり前に見ているわけで。やっぱり自分たちがどういうプレーをしないといけないかというのは、たぶんドイツ戦でスタメンで出た選手たちを見て、そこはある程度イメージを作りながら今日の試合(トルコ戦)に挑んでいると思う」と語る。
代表デビューとなった毎熊は相手ディフェンスを外しながらのパス出しや見事なボール奪取から縦に持ち運んで、クロスによるアシストなど、持っている武器をしっかりと発揮した一方で、デュエルで体を入れ替えられて危険な位置でのFKを与えたり、そのキックにファーで被って折り返されたところから失点につながるなど、またJリーグとは違った相手の対応に苦しむところも見られた。
ゴールを含むスケール感のあるプレーが目立った伊藤敦樹にしても、守備に関しては「ボールに行くところだったり、オーガナイズするところで、自分のところでもっと主導権を握ってできたら良かった」と課題を認識している。そうしたものは経験しながら糧にしていくしかないが、トータルして日本がトルコを上回った結果でもあり、世界のトップランクになりつつあることを実感させてくれた試合でもあった。
■高め合うためのベースがある
(C)Getty imagesさらに良くしていくには遠藤など現在の主力による共通理解は進めながらも、後から入ってくるフレッシュなメンバーが、チャンスをもらった時にチームのタスクを果たしながら、スペシャリティを発揮しやすい環境を継続していくことが必要だ。
さらに言えば、トルコ戦のようなチャンスが代表キャリアの少ない選手に与えられることで、自信と経験が積み上がっていく。そこからコミュニケーションを取り合って、さらに高めていく。そのベースが第二期“森保ジャパン”にはある。
まだW杯においてベスト16の壁を越えられていない日本だが、森保監督は優勝を目標にすることを宣言している。そのためにはチームの競争と選手層というのは不可欠なテーマだ。
その意味でトルコ戦の勝利は本当に大きなものだが、同時期に予選を戦っていたパリ五輪世代や今回はメンバー外だった選手たちも含めて、そこに食い込んでいくための高い基準が示されたことは間違いない。そして世界の強豪国からもリスペクトされてくる中で、ここからどうアジアの戦いなどに繋げていくかも注目していきたい。
