Goal.com
ライブ
2021-07-12-doan-yoshida©Kenichi Arai

後半の失速も折り込み済み。東京五輪への総仕上げ、ホンジュラス戦で見せた森保監督“タヌキ”の側面

■欧州組のゲーム体力と試合勘

 キツネとタヌキの化かし合い。監督同士の駆け引きについて、こんな言葉で形容することがある。やはり勝負の世界、自然といかに相手を出し抜くかということにもなるという話である。

 ホンジュラスを迎えた12日のキリンチャレンジカップは、そうした“タヌキ”としての森保一監督の側面を観ることができた試合だと言えるだろう。

 この試合の位置付け、実は結構難しかった。6月12日の国際親善試合・ジャマイカ戦を終えた後、欧州組の選手たちはオフ入りしており、実戦から離れていた。感覚が鈍った状態での国際試合はリスクがあるという考えからだろう、チームは7月8日(合宿集合4日目)には早くも静岡産業大学との練習試合を実施したが、明らかに動きが“オフ明け”といった印象の選手もおり、ほとんどの選手が45分の出場だったにもかかわらず、体力面でもやや不安なところをのぞかせていた。

 またサッカーは単純に90分間一定のペースで走るというスポーツではないので、シンプルなフィジカルコンディションと同時に、一般に「ゲーム体力」と言われる実戦の中での感覚も必要になる。その意味で、多くの欧州組が最後に90分ゲームをこなしたのが先月の12日というのはいかにも危うい。冨安健洋(ボローニャ)に至っては6月シリーズも5日のガーナ戦に58分出ただけなので、このままだと2ヶ月近くも90分ゲームから離れてしまった状態で五輪に臨むことになってしまう。

 それは避けるだろうというのが自分の当初の見方だった。このため、ホンジュラス戦前日の記者会見では、まさにその点を森保監督に質問している。つまり、「海外組は90分ゲームから離れているので、ゲーム体力を取り戻すために長い時間試合に出したいのではないか。しかしスペイン戦で90分出すのは五輪の初戦まで中4日と考えると無理がある。となると、ホンジュラス戦で?」という趣旨である。

 対する森保監督の答えは以下の通り。

「海外組は6月12日のジャマイカ戦からゲームをやっていないので、そこは90分やってもらうことも考えているが、90分プレーしなくても、ある程度長い時間プレーできれば、十分トレーニングしているし、コンディションを落とすことなく、良いコンディションで五輪開幕を迎えられると考えている。結論的に言うと、90分プレーしなくても、少し長い時間プレーしてくれるように環境作りすれば問題ないと思う」

 その理由として、そもそも合宿が始まってからの期間の短さを挙げていて、それはそれで納得のできる話ではあった。「ここで90分使い切るならスペイン戦は休ませるくらいの配慮が必要かもしれないしな」とも思ったのだが、結論から言うと、この発言が真意と違っていて、私がすっかり騙されていたことを察するのはホンジュラス戦のハーフタイムだった。

■選手個々の限界点を見極めながら

20210712-U24japan-tomiyasu©Kenichi Arai

 事前の協議によって11人の交代が許されることとなったホンジュラス戦。ハーフタイムで相応の数が交代するのかと思っていたが、交代はなし。63分に二人が交代しているが、代わったのは国内組の林大地(サガン鳥栖)と、所属は海外組ながらコンディションは国内組の田中碧(6月まで川崎フロンターレ所属だったため)。80分に吉田麻也(サンプドリア)と酒井宏樹(前・マルセイユ、現・浦和レッズ)、久保建英(レアル・マドリー)、そして83分に中山雄太(ズヴォレ)と海外組の選手たちが交代しているが、これもギリギリまで見極めて引っ張った印象だった。

 当たり前だが、無理に90分やらせて故障させてしまっては元も子もない。吉田が「後半は自分のパフォーマンスも落ちていた」と認めたように、“オフ明け”ゆえの限界を見せてきたところでの交代。代わった選手の試合後の語り口や交代選手たちのウォーミングアップの様子を観ていても、事前の交代時間を告げられていた様子はなかったので、実際に限界点を見極めながら、できるだけ長い時間までやらせようという意図が見えた。

 そして6月シリーズでは1度も90分までプレーしていなかった堂安律(PSV)、三好康児(アントワープ)、遠藤航(シュトゥットガルト)、そして冨安は最後までプレーした。数値に現れるような「体力」では問題ない状態まで肉体が仕上がっても、選手は90分やってみるまで不安を抱えているものなので、「90分やれたのはポジティブな面」と冨安が語ったとおり、“オフ明け”で臨む本大会を前にして意義ある90分を経験したとは言えるだろう。

■日本を率いる男の“化かし合い”

moriyasu_arai(C)Kenichi Arai

 試合後、森保監督はこうしたゲーム体力の部分についてこう語っている。

「体力的には厳しいところがありましたけど、選手たちの多くが約1か月半くらい試合から離れていて、きつい中でプレーしてもらおうと思っていた。この試合ではきつい思いをしてもらいましたけど、体力的には五輪本番へ一つ前進できたと思います」

「(コンディションを)上げていく部分においては、今日は長い時間プレーできた選手たちもいますので、そういった意味でも1試合戦えるだけの体力的なところは感覚として戻ってきたと思います」

 つまり、最初からそうした意図だったようである。おそらく森保監督としては、選手に「90分やるよ」と告げてパワーセーブした状態で試合をさせてしまっては、タフに全力を出し切ることが求められる五輪のシミュレーションや早期にゲーム体力を取り戻せるような試合にならないと考えていたのだろう。私の質問はそうした狙いを直撃し過ぎていたのでかわされたのだ。

 一般的に、監督が記者会見(特に試合前の)で真意を話さないのはよくある話ではある。森保監督もまた、そうした “タヌキ”な一面を持つことをあらためて感じる機会ともなったわけだが、このしたたかなところがあるからこそ、予算的に潤沢ではないクラブを率いてJリーグを3度も制しているのだ。日本を率いる男の“化かし合い”における強さを感じる機会ともなった。

取材・文=川端暁彦

広告
0