明治安田生命Jリーグで顕著な活躍をした選手、チームを参加各メディアが毎月選出する「DAZN Jリーグ推進委員会」の「月間表彰」。「月間べストヤングプレーヤー」を担当するGoalが選ぶ11月の若武者はサガン鳥栖MF松岡大起だ。2019年、鳥栖U-18所属時に17歳でJ1リーグ戦デビューを果たした逸材は、今季も開幕戦から先発をつかみ、ここまで30試合に出場する。泣きながらボールを蹴っていたその原点と現在地を聞いた。(聞き手・文=川端暁彦)
■コーチ陣との相撲も負けたくなかった
——今回はまず昔話から始めたいと思うのですが、この写真を見てください。
「これは(笑)。懐かしいですね。めっちゃ小さい頃の、(当時所属していた)ソレッソ熊本での写真ですよね?」
——4歳くらいの写真だそうですが、つまり物心ついたときにはソレッソでボールを蹴っていた感じですよね。
「兄がそこでやっていたので、付いていっていてそのままという感じですね。泣きながらボールを蹴っていたみたいです(笑)。『監督が怖い!』と言って行きたがらなかったりもしていたとかで、母が『一緒にやろうよ』と言って連れ出して、そのまま母も一緒にやったりしていたみたいです」
© SORRISO KUMAMOTO※右端ジュースを飲んでいるのが松岡
——監督は厳しかったんですね。
「監督が怖かったのもあると思うんですけど、自分が練習に加わったのが早過ぎたので、同じ学年の子が全然いなかったんですよ。自分の二個上くらいばかりと一緒にやっていたと思うので、そちらが大きかったんだと思います。でもどこかでスイッチが入って、めちゃくちゃ(サッカーに)のめり込んでいった感じでした」
——ガムシャラ系の選手だったと聞きます。
「FWでめちゃめちゃ点を取ってました。もう『ボールを持ったらとりあえずシュートまで行け』みたいな形でずっと教えられたんで。ボール持ったら、パスなんて出さずにゴール一直線に行ってましたね。頑張って走り過ぎて試合中に吐いちゃったなんてこともあったと思います」
――当時のプレーが原点?
「そうですね。 “走る”しかしてなかったですけど(笑)。とりあえず走って、犬みたいに前から追い回してみたいな感じのプレースタイルでした。本当にそれしかできなかったんです、逆に」
――ディレイとかじゃなくて、全部プレスみたいなスタイル?
「全部走って、全部(ボールを)獲りに行って、もう多分それでキツ過ぎて手がこうめちゃめちゃな動きをしていて、『タコ走り』とかめっちゃ言われたんですよ(笑)」
——相当な負けず嫌いだったとか。
「コーチ陣と相撲とかしてたんですけど、そこでも負けたくなかったですからね(笑)。いま振り返ってみても、サッカーをやっていて純粋にめちゃめちゃ楽しかったなっていう感覚ですね。その当時は苦しかったこともありましたし、めっちゃ泣いたりもしていたんですけど。でも、そういう経験があったから今があるなとすごく思います」
——そこから親元を離れてサガン鳥栖U-18へ進んだ理由というのは?
「まずは、ソレッソの監督もコーチも全員がすごく背中を押してくれて。『成長するためにはいいと思うぞ』と言ってくれたのが大きかったです。実際に練習参加に行ってすごく感じるものもあって。紅白戦一つにしても、勝ちに対する執着心が強かったし、選手一人ひとりが貪欲で一番活気がありました。環境も良かったですから」
――すごく悩んで決めたというよりすんなりと決めた?
「中学3年に上がる前くらいまでは高校サッカーでやることもちょっと考えていましたけど、3年生になってからは『ユースでやりたい』と思っていました」
——ソレッソを出て別のチームに行ったとき、サッカー観の違いとかに戸惑いませんでした?
「ありましたよ。ソレッソの時は本当にガムシャラにやっていましたから。考え方が極端だったので(鳥栖U-18に行って)『深さ』とか言われても全然分からなかったです。中学時代には、ボールが来る前に周りを見ておくとかもあまり意識してやっていなかったですし、ワンタッチも極端に少なかったので」
——パスでかわすより抜け! という指導を受けてたんですよね。
「はい、そうです。自分が全部やる、という…。FWならば、そういう部分も大事だと思います。でも、ボランチだとなおさら状況に合わせてプレーする必要がある。(鳥栖U-18では金明輝監督から)『ボールが来る前に周りを見ろ』『シンプルにやるところはやれ』とすごく言われました。『全部自分でやろうとせずに周りを見ながら一番良い選択肢を選べ』というのは練習の中でも今でも言われてます」
――ポゼッション時の位置取りとかは全然意識してなかった?
「立ち位置とかは、それこそ本当にユースになってからです。中学時代もファーストタッチを良い位置に置くとかは意識していましたが、ここに立ってやる、相手がこうだからこの位置で立つのがいいとかは何も考えていなかったので。あとは止めて・蹴るのところも鳥栖のU-15から上がってきた選手たちのほうが断然うまかった。だから余計に気持ちでは負けない、1対1では絶対勝つ、人より声を出すといったことを意識するようになりました」
——話を聞いてると、高校に入ってから技術・戦術の部分を吸収して成長したんだなと伝わってきます。
「そこは本当にユースの監督、スタッフのおかげだと思います。あと自分は元々サッカーを見なかったんですよ。自分でプレーしているほうが楽しくて。ユースに上がってからそこが変わって、サッカーの試合や相手の分析映像をよく見るようになりました。自分の練習での映像も毎回見ていて、『ここ、こうだったな』とか考えるんですけど、それがめちゃめちゃ楽しくなってるのは凄く変化したところだと思います」
■ボールを奪うことは誰にも負けたくない
——という松岡選手の「原点」を踏まえて、現在の松岡選手の11月のプレーについて語ってほしいんです。印象的なプレーをピックアップしています。まずはアウェイ仙台戦の31分、ワンタッチでプレッシャーをいなすパス。
「昔の自分だったら、今の(原)輝綺君のボールがちょっと浮いてきたのもあったし、あとワンタッチでプレーする自信がそもそもなかった。多分(いったん)止めて遅れて出して奪われてそうですね」
——同じく仙台戦、前半ATには自分でボールを奪いに行ってカットしてシュートまで持っていきました。
「こういうプレーは得意なんです。でも(今季Jリーグの)前半戦ではあんまり出せていなくて…。そこで他の選手の映像を見たり、スタッフや監督にも話を聞いて、『行けるところはもっと行っていい』とチャレンジするようにしました。そういう意識でいたから、良いボールの奪い方ができたと思います」
――奪ってから完全に独走しましたね。
「相手の選手が絶対に(自分を)見ないで下げるなって思ったので。ルックアップせず僕のほうも全然向いていなかったので、『行けるな』と思って前に行きました。(コースを)限定してGKに下げさせる形でも良かったんですけれど、バックパスがちょっと弱かったので、最後まで行き切りました」
――球際での衝突も恐れず行って、ボールを奪って独走。
「ただ、このあと周りのサポートがあるかもと見て、ちょっとスピードを緩めちゃったんですよね。周りを見ずに直線的にシュートまで行っておけば、もっと良い形で打てたと思います」
――シュート自体のミスというより、自分で勢いを殺してしまった。
「勢い良く前向きの奪い方をした時は、相手も焦っている状態です。スピードを緩めずに行って、味方がそのスピードに合わせてきたら使えばいいし、来ないなら打ち切ればいいと割り切って考えるべきでした。後で映像を見返して思いました」
――82分のシーンも素晴らしかったですね。高い位置で奪って、金森(健志)選手へ。「金森、決めてくれ」というシーンですが(笑)。
「相手が後ろ向きでした。あとは足の出し方を工夫しています。ちょっと右に誘うじゃないですけれど、そうやって足をちょっと動かさせて、股の間から突く感じです。相手が遠い足にボールを持ったら突けないと思うんですけど、ちょうどボールと真正面に置かせた形です。突こうとしたらファウルになっちゃうとか。反転されたりすることもありますが、鳥栖での練習の中ではそういう部分もすごく勉強になっています。(原川)力君とか梁(勇基)さんとか、(高橋)秀人君とかだと、やっぱり突けなかったりもするんですよね。ボールの置きどころとかがうまくて。だからどうやったら奪えていたのかも練習の映像を見ながら考えて、また試してみるという感じです」
――やはりボールを奪うところはすごく大事にしていますか?
「はい、自分の中で大事にしています。自分の特長であり、もしそこがなくなったら自分じゃないくらいに思っています。誰にも負けないようにしたい。プロでやる中で奪うスキルが上がってきた感覚もあります。
——右サイドバックとして出ることも増えて、ライン際での守備も変わってきたのかなと思います。ホームの仙台戦でクエンカ選手のクロスを防いだ場面は象徴的なのかなと思いました。
「あの場面はもう予測ですね。『上げるな』と思ったので先にスライディングして体を(コースに)置いた感じです。でもこの前の横浜FC戦でやられちゃいましたね。予測して足を出した瞬間に斎藤光毅に…。光毅にあれがあるというのは頭に入ってたので、もうちょっと我慢すべきでした。次の代表合宿で会ったら、あの場面は話しますよ、いろいろ(笑)。SBをやる中で、自分は主にボランチをやっているので、『SBはここに立ってほしいんだろうな』というのも大体分かります。ただ、サイドだと人を動かすのがすごく難しくて、そこは課題ですね」
■よく見ているのはバイエルン
🄫J.LEAGUE——サッカーを見るようになったという話が出ましたが、海外サッカーも見ますか?
「自粛期間にはかなり見ていました。欧州CLも。あれだけうまい選手たちがどれだけハードワークするんだという…。バイエルンをよく見ています。縦に速いしボランチのチアゴが本当にうまいしボールを失わないですよね。あれがこのポジションのトップだなというのは感じています。うまいしターンも見えているし…」
――じゃあ理想像はチアゴ?
「うーん、あとはカンテだったり…。見て勉強しています。『当たり方、うまいな』と思いながら」
――いずれはそういう人たちと戦う舞台に行きたいという思いは?
「はい、行きたいと思っています。そのためにも、まずは鳥栖で結果を残していかないといけない。ボールを奪う部分はもちろん大事にしているんですが、それに加えてミドルシュートを決めるとか、決定的なパスを出すといった部分をもっと磨かないといけない」
――プロでやる中でレベルアップした実感はあるんじゃないですか。
「デビューした頃に比べると、メンタル的な部分もそうですし、技術的にも変われたと思います。サッカーを知るところでもそうですね。全体的に成長はしたと思いますけど、もう19歳なので。自分と同い年には海外のトップレベルでやっている選手もいます。追いついて追い抜くためにももっともっと成長速度を上げないといけない。もっといろんなところでチャレンジして吸収して、もっともっとうまくなっていかないといけないと日々感じています」
▶Jリーグ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【関連記事】
