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すでにエース級の存在感。日々、進化を続ける川崎フロンターレの大卒ルーキー・三笘薫の成長

 首位を走る川崎フロンターレですでに8得点をあげ、圧倒的な存在感を放っている三笘薫。大卒ルーキーの枠を超え、いまリーグで最も注目を集める一人となった三笘が、ここまでの結果を残している要因とは。自身の言葉と同期の旗手怜央の言葉から、背番号18の今に迫る。【文=原田大輔/記事提供: DAZN NEWS (9月27日掲載)】

■川崎F仕様にバージョンアップさせたドリブル

今シーズン19試合で8得点。これがエースと呼ばれる選手の成績ならば、特段、驚くこともないが、大卒ルーキーが刻んでいる記録と考えると、思わず両手を叩いてしまう。

川崎フロンターレのFW三笘薫である。カップ戦も含めれば、すでに11回もゴールネットを揺らしている。

これにはさすがの本人もうなずく。

「できすぎな感じはありますね。ここまで得点を決められるとは正直、思っていなかったです。特にリーグ戦が再開したときは、ケガをしていて出遅れたところもあったので。そこから途中出場したときに、悪いなりにも得点を取って、ギリギリでメンバーに入れた。そこでまた結果を残してきたことが、今につながっている。だから、本当にギリギリでというのが続いてきた結果だと思っています」

 筑波大学時代はフィニッシャーではなく、チャンスメイカーだった。「自分でもどちらかといえば、そっちだと思っています。大学4年生のときなんて(PKを除けば)3点しか取っていないですからね」と言って三笘は笑う。

「上級生になるにつれて、いろいろとやらなければいけないタスクが増えて、チャンスメイクしながらゴールも取らなければいけなかった。ただ、フロンターレではより前で力を出せるので、そこが大学時代とは大きく違います」

 もともとドリブルは得意としていた。そんな三笘の代名詞になっているのが、左サイドからドリブルで切り込み、DFのタイミングを外して放つシュートである。相手の股の間を射貫く技術に、振り抜く速さも相まって、一連のプレーには溜息すらこぼれてしまう。

 明治安田生命J1リーグ第7節の湘南ベルマーレ戦で、リーグ初得点を飾ったのが、まさにこの形だった。その後は、第13節の清水エスパルス戦や第14節の横浜F・マリノス戦でも似たような形からゴールを決めている。

 だが、三笘に聞けば、それも川崎Fに加入して4-3-3システムの左ウイングを務めるようになってからバージョンアップさせてきたプレーだという。要するに今シーズンの川崎F仕様なのだ。

「実は、もともとカットインからのシュートというのは、それほど得意じゃなかったというか、持ってなかったんですよね。だから、左ウイングでプレーするようになった今シーズンからなんです。それができているのも、フレッシュな状態で試合に入って、ボールを持てているのが理由として一つあると思います。あとは、カットインしたときに、DFと駆け引きするのが好きなので、股のニア、もう一つ運んでのファー、さらには切り返しという選択肢を持っていれば、あとは自分の経験から、この場面ではこっち、この状況はこっちと選べばいい」

 結果を残せば残すほど、相手の警戒も強まるが、本人は「フロンターレは僕以上に注意しなければいけない選手が多いですからね」と、意に介さない。

「飛び込んでくるような守備の仕方をする相手がなかなかいなくなってきたけど、今度はその分、自分がボールを持ったときに時間が作れるようになった。選択肢がより多く持てる点では、結果を出しているメリットだと思っています。むしろ、今はカットインだけでなく、もう少し縦への突破もしなければいけないと感じています。

 あとは、マリノス戦の50分に決めたクロスからの得点のように、少しスピードを変えてゴール前に入るだけで相手をはがせるところもある。だから、最初DFと並ぶようにしているところから少し早めに動くようにすれば、相手に勝てるかなと。DFと並んでいるところから、キュッとスピードを上げるという感じですかね。そこは意識しています」

■自信と手応えを得て課題と向き合う

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 カットインからのシュートもそうだが、三笘の強みは、持ち得る技術を遂行する瞬間的な目にある。すなわち判断力。相手との駆け引きが絶妙にうまいのだ。

「相手の嫌がることをやればいいと思っているんです。例えば、相手の視界から外れたり、矢印の方向を逆にしたり。そういうところは常に考えながらプレーしています」

 そうした自信を得たのは、8月12日に行われたルヴァンカップの名古屋グランパス戦だったという。

「自分が得意とする形ではなかったですけど、相手よりも立ち位置という点で優位に立って得点を決められた。この形でも得点が取れるんだというところで、一つ自信になりました。クロスに対するポジショニングが自分の中で整備されてきたように思います」

 その名古屋戦は2−2で終わったが、川崎Fの2点ともが三笘によるゴールだった。本人が例に挙げたのは38分にヘディングで決めたシーン。「実は頭も隠し持っているんです」、三笘は照れるが、自分が得意とする形からではなくとも決められた自信が、プレーの幅をさらに広げる契機になった。

「力の入れどころをより前で入れるというのは、試合を重ねるにつれて変わってきているかなと思います。うまくサボると言うのが適切かもしれないですけど、そこも意識しています。全部をサボらずにできるのが一番いいんでしょうけど、今の僕の能力ではまだまだその領域に達していないので、(その配分を)考えながらプレーしているところもあります」

 そう聞いて、本人にぶつけるにはいささか失礼な質問を投げかけてみた。「試合から消えている時間帯も多いよね」と——。

 結果は残しているものの、試合全体を通じた三笘のプレーを見れば、まだまだボールに関われていない状況も多いからだ。

「自分自身でも消えているなと思う時間はありますね。ゴール前で絡めていないな、ミスが多いなとか。そう思うこともあります。以前はそこで気にしてしまっていたんですけど、プロになってメンタリティーも鍛えられたというか。特に初ゴールを決めた湘南戦もプレーの内容はあまりよくなかったんです。でも、ワンチャンスを決めればいいやとポジティブに考えられていたんですよね。そういったメンタリティーの部分も変わってきているかなと思っています」

 成長を実感すると同時に、課題も感じている。

「一つは運動量のところ。スプリントの質もそう。あと守備のところでは強度も高めたいですし、守備でのポジショニングもそうですし、左足でのクロスも……もう、すべてですね(苦笑)。でも、体力を上げていけば、そうした課題のいくつかは改善できると思っています」

■旗手が語る三笘の成長とは

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 大卒ルーキーとはいえ、23歳になった。日頃から「年齢は関係ないし、大学に進んだ時点で、プロになったときは即戦力としてやっていかなければいけないと感じていた」と口にする。

 世界を見渡せば、同世代でチームの主力になっている選手ごまんといるし、同じチームメイトであるFW旗手怜央の存在も、「もっと」「さらに」という相乗効果を生んでいるのは間違いない。

「あいつはどうか分からないですけど、僕は大学のときから意識してましたからね。大学1年のころから一緒にプレーしているので、怜央がどこに走るのかはだいたい分かる。どちらかというと、大学時代は僕が生かすほうだったんですけどね(笑)」

 J1第14節の横浜FM戦で、旗手からのラストパスを受けて決めたゴールを思い出して、再び三笘は笑った。

「タイプも違うので1+1は2以上のものを出せると思っています」

 旗手は、そんな三笘の成長をこう感じ取っている。

「大学時代からの知り合いなので、はっきり言ってしまうと、ドリブルだけというか、その印象がすごく強かったんです。だけど、フロンターレに入ってからはゴールを決められるようになっている。しかも、薫1人の力だけで試合を決められるような選手になっているので、そこは頼もしいなと感じています。あと薫自身は、守備が苦手だと思っていると思うんですけど、試合を重ねるたびにハードワークするようになっているし、守備での貢献も大きくなっている。そうやってバージョンアップしている姿を見ると、自分も進化しなければと思います」

 あいつが頑張れば、自分も。それは同期だけでなく、先輩たちとの激しいポジション争いも、成長を促す方程式になっている。まさに足し算ではなく、かけ算だ。

 だから三笘は言う。

「何かの能力に突出した上で、オールラウンダーになりたいんです。言ってしまえば、MF家長昭博選手を持ちつつ三笘薫を出すみたいな感じです」

 守備での強靱さ、ボールをキープする力、そして縦への推進力——加えて試合を決めきる力。

「欲張りじゃなきゃいけないと思います」

 思わず指摘してしまった「試合から消えている時間」も確実に減っていれば、旗手の言うように「守備で貢献する場面」も増えている。次の試合では、どんな成長を見せてもらえるのかだろうか。三笘の欲と同様、見るこちらの欲も尽きない。

文=原田大輔/記事提供: DAZN NEWS

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