浦和レッズを担う、18歳の次世代型GK・鈴木彩艶。「上の年代と混じったとき、縮こまっていても通用しない」/インタビュー前編

浦和レッズのGKといえば西川周作が名実ともにチームを支え続けてきた。しかしいま、その長年の図式に変化が起きつつある。鈴木彩艶(ざいおん)。米国生まれ、浦和アカデミー育ちの18歳は5月9日の明治安田生命J1リーグ第13節・ベガルタ仙台戦(2○0)でJ1デビューすると、以後リーグ戦5試合に連続出場している。DAZNとサッカーメディアで構成する「DAZN Jリーグ推進委員会」の月間表彰で、Goalは5月の「月間べストヤングプレーヤー」に鈴木を選出。Goalでは、今季ここまでのプレーについて聞いた。(聞き手:川端暁彦)

■まだまだ西川選手に届いていない

――まずはあらためて。今季ここまでの手応えをどう捉えていますか。

シーズンの最初はカップ戦に出場していましたが、今年の目標は「試合に出続けること」だったので、満足はしていませんでした。その中で、リーグに出場できて本当に良かったと感じています。

――あのタイミングでの抜擢は驚きでした。出番が回ってくる予感はありましたか?

予想はしていなかったですが、去年からずっと常に出られる準備はしていたつもりです。だから問題なく出場してプレーできたのだと思います。

――今季の西川周作選手は日本代表に復帰するくらいのパフォーマンスを見せていました。その壁の厚さを感じている部分もあったのでは。

本当にそうですね。西川選手も塩田(仁史)選手も本当に技術が高くて、すごい選手だと感じます。試合でも、西川選手は素晴らしいフィードからチャンスを作ったり、ロスタイムのセービングでチームに勝利をもたらしたりしていましたから。まだまだ自分は勝てない部分があると思っていましたし、今もまだまだ西川選手の技術に届いていないと感じる部分もあります。

――そんな素晴らしい選手を押し退けての出場。プレッシャーも凄かったのでは。

試合に対しての緊張という意味で言えば、カップ戦より少しありました。でも、試合前に仲間から声を掛けてもらえたことは大きかったです。楽しみながら自分らしく、落ち着いてプレーしようとだけ思っていたので、そういう気持ちを持ってプレーできたのが良かったのだと思います。

――ミスもあったと思いますが、そこから崩れるようなこともありませんでした。

ミスは付き物ですし、そこはすぐに切り替えます。ミスしてから、そのまま試合中にそのミスのことをどれだけ考えても、そのミスがなかったことになるわけでもないので…。自分の場合、ミスをしてしまったときはもうそのことを引きずるのではなく、「切り替えて次で挽回しよう」というメンタリティでやっていますね。

――18歳でそれができる選手というのも少ないと思いますが、実際、ミスが出たあとも堂々とやっているように見えます。割り切ってやれるようになったきっかけなどはありますか。

うーん、なんでしょうね…。でもやっぱり、小さい頃から上の年代でやることが多くて、その影響はある気がします。レベルの高い上の年代の選手と混じった場合、縮こまってやっていたら本当に何も通用しないので。自分を『できる』ように見せるというか、堂々っぷりを出すというのは、そういうところからきているんじゃないかなと感じますね。実際、Jリーグの試合に出ても、縮こまったりすることはないですね。

――連続出場することで自信もより付いてきた感覚ですか。

それはありますが、でも自信と同時に責任の重さも感じるようになっています。もっと質を高くしないといけないという…。そこに不安な気持ちがあるというと少し違いますが、「もっと向上しなければいけない」「もっとやらなければいけない」という気持ちが強くなりました。

――デビューから3試合連続無失点でしたが、そのときも「まだまだ」という感覚でしたか。

試合を観ていただければ分かると思うんですけど、実際3試合ともそんなにボールがGKまで来ていないんですよ。それはもちろん、チームとしてすごく良いことなんです。なので、僕が無失点に抑えたという話ではなく、DF陣を中心としたチームがGKへ来る前に相手の攻撃を抑えてくれたというのが実際のところです。だから本当に感謝したいと思っています。

――では、3試合無失点よりも第16節・広島戦(2△2)で喫した最初の失点のほうが印象深かったりしますか? 相手のCKが直接入ってしまいました。

はい、そうですね。そのとおりです。あの失点は、やっぱり自分の予測が悪かったということに尽きます。今までああいうシーンはなかったので、あのシーンからまた一つ学べました。もう次は絶対にないようにプレーしたいですし、それを学べたという意味であの失点もポジティブに捉えています。

――相手がニアに3枚入ってくる中で、おそらく本来はニアを狙ったボールが伸びてくる弾道になりました。GKとして嫌な形ではあったと思います。ただ、もう一回あれがあったら今度は止められるイメージですか?

相手の選手たちがニアに走ったタイミングで自分もニアに掛かってしまっていました。あれは本当に「こういうボールが来るだろう」と決め付けてしまった甘い予測があったことが失点の原因です。もう一回同じようなボールが来たら、そこはしっかり対応できると思っています。

――逆に自分の中で手応えがあった、この試合のここは良かったなと振り返って思うゲームはありますか。

うーん…そうですね…。自分の中では名古屋戦(第17節、5月30日)の後半が非常に良かったかなと思っています。ビルドアップのところ、ボールを繋ぐサッカーをやっていく中で、名古屋戦の前半はなかなか自分から配球する部分もうまくいかず、ボールを蹴ってしまうシーンが多過ぎました。

でも後半は相手の形を見ながら、相手がプレッシャー掛けてきても、トップの足元に付けたり、ボランチに付けたりという点を本当にバランス良くできました。リーグ戦を振り返ってみると、あの試合の後半が自分の中では一番良かったと感じます。

■ロドリゲス監督の要求と自身の成長

――ビルドアップの部分でもっと成長したいとは以前から言っていたことですが、今も大きなテーマになっているんでしょうか。

チームが取り組んでいるのもそういうサッカーなので、より意識は強まったと思います。ビルドアップしていく中で、GKがボールを失ってしまうと本当に攻撃が始まらない。得点に繋げるという意味でも、もっともっとビルドアップの改善は必要だと思います。

――リカルド・ロドリゲス監督は本当にビルドアップにこだわりのある方ですよね。

キャンプから単純にボールを繋ぐだけではなくて、相手を観ながら一発で前に行くチャンスがあったら一気に前へという判断をすることも求められています。単に繋ぐだけではなく、ゴールを取るために、いかに前に運ぶかというところが本当にしっかりしているので、やっていても楽しいサッカーです。

――その中で彩艶選手自身も一つ自信を掴んだんじゃないでしょうか。U-24代表(※)でも恐れずボールを受けに行っていて、高い位置にもポジションを取って引き出してというのをやっていて、以前との違いを凄く感じました。
※6月12日国際親善試合・ジャマイカ戦(4○0)でハーフタイムから出場

今年のキャンプの始めを振り返ると、(相手のプレスに)ハマってしまっている時に、自分から受けるのを怖がってしまっていたシーンもありました。でも試合でプレーしていく上でこういうプレーが通用するというのが分かってきましたし、そういったところが落ち着きや自信に繋がっていると自分では捉えています。

――あとはビルドアップ以外の、GKスキルに関する部分で高めたいと感じているところはありますか。

二つあります。一つはクロスの部分、広島戦の失点だけじゃなく、セットプレーも含めてそういう判断が危うくて、失点しかねないシーンを招いてしまっていると感じています。クロス対応はもっともっと改善しなきゃいけないですね。あとは西川選手が試合でよく見せているようなキック一発で背後を狙うところです。自分もトライしてはいるんですけど、なかなか味方に繋がっていない、チャンスを作れていないので。キックの質、判断の質を高めていかなきゃいけないと思いますね。

――一つ目は、クロスに対する予測の甘さを改善したいというところですか?

そうですね、特に速いボールになったときの出るか出ないかのジャッジですね。あとはCKであったら先に決め付けて動かないところ。そういうところの判断を高めていきたいと思っています。

――Jリーグで対戦していてクロスの競り合いで「この選手やばいな」とか感じたことはあります?

いや、まだ感じことがないですね、あんまり。

――個の競り合いでは全く負けていないという印象ですか。

そうですね。選手のプロフィールを観ていても、たぶん体重では結構一番上に近いほうだと思っていますし。負けない自信はありますね(Jリーグの登録は189cm/91kg)。

――今日も全体練習後に筋トレをこなしてきたと聞いていますが、かなり積み上げてきた自信があるんですよね。

本当にそこはやってきましたから。

――オフもトレーニングをしているんじゃないかという疑惑もありますが(笑)。

自分、オフが好きじゃないんで(笑)。代表から帰って来て3日ぐらいオフがあって、GKの練習はやってなかったんですけど、そうしたら今日の練習でのプレーなんて本当にひどかった。やっぱりオフを取ると感覚が鈍りますし、自分は練習し続けたいタイプです。

――休んでいいよと言われても、『練習したいんだけど』みたいな?

そうです(笑)。

――じゃあ、オフは何をしていますか。家にこもっている感じではなさそうですね。

今は(コロナ禍の対応で)本当にすることがないんですけど、こもってばかりではないですね。ランニングに行ったり、散歩に行ったりというのは多いと思います。

■五輪代表、やれることはやった

――東京五輪も最終候補に滑り込んでいく形になりましたが、それも成長した証ですね。

はい。合宿でも、GK練習から学ぶものもそうでしたけど、海外のチームでプレーしている選手がすごく多かったので、そのシュートのパワーというのは日本とは違うんだなと肌で感じられました。そこは本当に良かったです。あとはオーバーエイジの選手たちはやっぱりプレーだけじゃなくて、試合中のコーチングや振る舞いも違う。そこを学べたのは自分にとってすごく良い経験でした。

——ポジティブな経験ができたわけですね。

五輪については自分としてやれることはやったという感覚です。あとは選ぶ監督の判断だと思っています。自分としては待つのみという感じですね。ここが選手としての終わりというわけでもないですから。

——では最後に、浦和レッズジュニアの一期生としてやっている選手として、このクラブへの思いを聞かせて下さい。

ジュニアの頃からこのクラブでやってきた選手として、本当にこのクラブは日本で一番、そしてアジアで一番でなきゃいけないと思ってやっています。将来的にはこのクラブで引退したいですし、今は自分が試合に出場してタイトルを、遠ざかっているタイトルをチームにもたらせるようにしたい。そしてアカデミーの選手たちの目標であり続けられるようにやっていきたいと思っています。


【プロフィール】
GK 12 鈴木 彩艶(Zion SUZUKI)
2002年8月21日生まれ、18歳。189cm/91kg。アメリカ合衆国出身。浦和レッズジュニア-浦和レッズJrユース-浦和レッズユースを経て今季トップ昇格。J1通算6試合出場(6月20日時点)。

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