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フロンターレの左。長谷川竜也がウイングで際立つ理由。その根底にある “再現性”

■刺激を受けてきた山根視来の存在

 破竹の勢い——。J1で首位を走る川崎フロンターレのことだ。

 試合のたびに主役が入れ替わるほど、戦力が充実している。過密日程でも結果を出し続けているのは、まさにそこに起因している。

 ただ、リモートマッチという独特の雰囲気が漂っていた再開序盤で勝利を重ねたことが、今日の勢いにつながっているのは間違いない。

以下に続く

 その立役者となったのは、左ウイングの長谷川竜也だった。

 ホームに鹿島を迎えたJ1第2節では、MF家長昭博のクロスを受けると、華麗なトラップから左足を振り抜いた。続くFC東京との第3節でも結果を残した。28分にFWレアンドロ・ダミアンの落としを冷静に決めると、45分には右からのクロスをレアンドロ・ダミアンが逸らしたところに詰めて2点目を挙げた。

「(FC東京戦の)2ゴールは、自分としてはウイングの役割をしっかりと務められた結果かなと思っています。1点目に関しては、遅れずにあそこにポジションを取ることができましたし、ダミアンの動きを見て、自分のポジションを直すことができた。2点目もサイドからのクロスに対して直接、決めたわけではないですけど、しっかりとダミアンの動きを見て、こぼれ球に入れるようなポジションを取ることができた。個人的には今シーズン、ポジショニングにこだわっているので、あそこにいられたことが良かったなと思っています」

 右サイドでは今季新加入のDF山根視来がサイドバックとして躍動していれば、左サイドではウイングの長谷川が魅せる。二人は出身も違えば、高校も大学も異なるが、大学選抜で知り合い、意気投合すると、旧交をあたためてきた仲である。

 その後、長谷川は川崎Fで、山根は湘南で、それぞれ4年間、プロのキャリアを歩んできた時も互いに刺激し合ってきた。

「視来は湘南での1年目は出場機会をつかめず苦労していましたけど、2年目にDFにコンバートされてからは試合に絡むようになっていたので、純粋にすごいなって思っていました。チームとしての成績はこっちのほうが良かったですけど、自分としては人のことを気にしている余裕がなかったですからね」

 長谷川がそう言えば、山根はこう語る。

「竜也の活躍は常に見ていましたよ。特にフロンターレの前線は、選手層も厚いので生き残っていくだけでも大変というか。それでも自分は自分で、2年目から試合に出られるようになって、J1でも1シーズンを通して試合に出続けたことで自信になったところもあった。それで、ちょっとは竜也に追いつけたかなと思っていたんですけど、いざ一緒にプレーしてみると、まだずっと先を行かれている印象を僕は持っていますね」

■「長谷川はめんどくさい」

20200818-kawasaki-hasegawa-yamaneKAWASAKI FRONTALE

 山根が川崎Fへの移籍を決めるきっかけのひとつに、長谷川の言葉もあったという。そんな山根から見て長谷川のどこがすごいのか。聞けば、「脳みそをフル回転させているところじゃないですかね」と語る。

「華やかなのでドリブルに目がいきがちですよね。もちろん、そのドリブルもすごいんですけど、それ以上にあそこまで頭を使ってプレーする選手はJリーグにもなかなかいないと思います。マッチアップするたびにそれは感じていましたし、今も僕は嫌ですからね。正直、めんどくさいんです(笑)」

 最後のひと言は、旧知の仲だから言えるセリフだ。

 事実、長谷川に話を聞けば、理路整然としているだけでなく、視点も興味深い。

 今シーズン、川崎Fが新たに採用している4-3-3システムの強みについて尋ねれば、こう教えてくれた。

「昨季までは中から攻めようとしていたところで、幅ができたことによって、外からも中からも攻められるようになったので、より速い攻撃ができるようになった。その中でも特に守備の仕方が大きく変わったかなと思っていて、より高い位置でボールを奪うために、前線の選手をあまり下げさせないで守備をしているんです。できる限り、前の選手は前でボールを奪いに行って、取ったあとに速い攻撃につなげるというのは、昨季と変わったところかなと思います」

 ウイングというポジションもあり、攻撃の話が出てくると予想していたが、言及したのは、むしろ攻撃につながる守備についてだった。

 昨季以上に、際立っている自身のプレーについて聞けば、「自分の頭が整理されていればこのくらいは普通というか、さほど昨年と変わりはない」と前置きしつつ、教えてくれた。

「自分の中で同じようなシチュエーションを何回も作れる。意図的に。昨年からそれを再現性と表現しているんですけど、そういったプレーを増やそうと考えています」

 余談だが、山根にプレーについての課題を聞いた時に「再現性」という言葉を使ったのは、きっと長谷川の影響もあるのではないかと勘ぐった。長谷川が続ける。

「昨年は少し考えながらじゃないと再現性あるプレーができなかったのが、今年は無意識というか、それほど考えなくても身体が勝手に動いている。そういった変化はあると思います。それは新型コロナウイルス感染症によって自粛していて、過ごし方が変わったことで、サッカー以外の部分でも考えることというのが、少し変わったところもあるかもしれないですね」

 さらに踏み込んでみる。

「100の力を出し続けるというよりは、常に8割くらいは最低限でも出せるようにする。80とか90のパワーでも、より精度を上げていければと思っているんです。それは筋トレとかもそうですよね。100の力で出し切るよりは、80とかで、その分、質を意識してやったほうが、結果的に得られるものは大きいと思うんです」

 常に全力を出し続けることは難しい。ならば、8割の出力で、その一つひとつの質を高めればいい。その2割の余剰があるから、頭はクリアになるし、無意識に身体が動く余裕も生まれる。

■ケガからの復帰は間もなく

 

2020018-kawasaki-hasegawa-yamane🄫KAWASAKI FRONTALE

 現在は左ひざを痛めて戦列を離れているが、ケガに対して焦ることもなければ、何かを変えることもない。

「ケガをしたからといって、どうとかはあまりないんですよね。この1年を通して自分が抱いている気持ち、理想とするプレー、キャリアについて考える時間も増えますから。だから、ケガする前に自分が考えていることは表現できていたので、さらにその再現性を高められるように、この期間もしっかり考えていきたいですね」

 離脱している期間も、チームは快進撃を続けているが、それについても「競争はあったほうが個人にとっても、チームにとってもいいこと」とスタンスは崩さない。

 ただ、親友ともいえる山根が、その間に2試合連続でゴールを決め、並んでいたJ1通算出場数でも上回ったことを誇っていたと伝えると、「アイツほど、ギラギラはしていないですけど」と笑いながらまるで負けず嫌いの少年のように言い返した。

「出場数は抜かれましたけど、総得点では勝っているからって、今度、言ってやろうかなと思っています」

 全治4週間の見込みとされるケガからの復帰は間もなくである。川崎Fの左サイドに、長谷川が戻ってくる。

「右はアキさん(家長昭博)がしっかりキープして、周りに時間を与えてくれている感じですけど、左で自分がプレーする時は、時間を作るというよりも相手を崩しに行くスピードを意識しています。全部が速くてもダメだし、全部が遅くてもダメだと思うので。左右で違った攻撃ができるというのも、チームの良さになってくるのかなと思っています」

 再現性のあるプレーで、等々力が、そしてDAZNの画面越しにサポーターが再び沸く日は近い。

「新型コロナウイルス感染症の影響で、今シーズンはなかなかフロンターレの試合を見に来られない人も多いと思うのですが、優勝争いをしているだけでもパワーを与えられると思うんですよね。なおかつ、ここでぶっちぎりで優勝したら、川崎を盛り上げられるし、応援してくれる人たちには誇りに思ってもらえると思う。そういった意味でも今シーズンはなおさら優勝したいですよね」

 ライバルといったら大袈裟かもしれないが、互いに刺激し合う存在がいるからこそ、さらに成長もできる。右サイドで山根が躍動すれば、左サイドでは長谷川が魅せる。2020年は、そんな記憶が残るシーズンになるかもしれない。

●フロンターレの右・SBで輝く山根視来インタビューはこちら

取材・文:原田大輔/記事提供: DAZN NEWS

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