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実はアルバイトからの叩き上げ。全年代の育成に関わってきたC大阪小菊監督が語るプロサッカー選手として大切なもの

種を撒いて、みんなで水をあげて
そして、きれいな桜として

 「セレッソ大阪、アカデミーの力」。第7回はセレッソ大阪のトップチームを率いる小菊昭雄監督に話を聞いた。

 香川真司の発掘はじめ、強化、スカウトを歴任し、育成年代の指導経験も豊富な小菊監督は、様々な立場から育ち、成長していく選手たちに間近に接してきた。常に当事者であり続けるその言葉からは、育成への思いと選手たちへの愛情が強く伝わってくる。(聞き手:小田 尚史/取材日:7月22日)

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――今回のインタビューは「アカデミーの力」というテーマですが、小菊監督からご覧になったセレッソ大阪アカデミーの特長や良さを教えてください。

 ここ数年でガラっとアカデミーが変わりましたので、今はそれを根付かせていく時期だと思っています。長年、ガンバ大阪の背中を追いかけて来た過程を見て来ましたが、セレッソのアカデミーはすごいスピードで急成長していると思います。

 実際、南野拓実を筆頭に、今は他チームで活躍していますが、(柿谷)曜一朗、(山口)蛍、タカ(扇原)、(杉本)健勇、そういった選手たちがガンバに追いついてくれました。いまも瀬古歩夢に続き、(西尾)隆矢、山田(寛人)、ヒナタ(喜田陽)といった、将来セレッソを担う選手たちがクラブの顔として出てきています。

 歴史を見てきた僕からすれば、とても感慨深いことです。セレッソの育成に携わってきた人たちが一生懸命種を撒いて、みんなで水をあげて、その成果がきれいな桜として花開いた段階に来ていると思います。その花の数を増やしていく、よりきれいに咲かせる作業を、これからも驕らずにやっていきたいです。

 もちろん、それはクラブ全体で取り組むことです。育成の「組織」だけではなく、我々トップチームのスタッフも関わりながらやっていくことが大事です。ようやく結果が出てきていますので、地道な作業ですが、これからもスカウト活動、育成と全スタッフで愛情を注いでやっていくことが重要だと思います。

――アカデミーの組織が伸びてきた中で、2021年から風間八宏さんを技術委員長に招き、より技術に特化した取り組みも行っています。

 そこはすごく強烈なメッセージとして発信しています。「セレッソは技術に特化して育成します」と。実際、我々もトップと育成、常に関わりながらやっていますが、技術的なところはトップチームの選手とも遜色なくやれる子どもたちが増えています。トップチームの紅白戦に呼んでも、「止める・蹴る・運ぶ」ところはしっかりやれている。取り組みの成果が着実に出ていることを実感します。

――先ほど名前を挙げられた選手たち以外にも、J2、J3も含めて多くのプロサッカー選手を輩出しています。個性豊かな選手が次々出て来る理由はどこにあると思いますか?

 一番は、クラブとして長年育成に力を入れてきたこと。それはU-23(チーム)もそうですし、(香川)真司を始め、アカデミー以外でも、日本を代表する選手を育てよう、世界へ送り出そうとみんなで努力してきました。真司から始まり、タカシ(乾貴士)、キヨ(清武弘嗣)、曜一朗、拓実、昨年もタツ(坂元達裕)や歩夢が欧州へ行きました。

 そういった想いを持ち、監督や強化の人間は代わっても、クラブとしてブレずにやってきたことが一番だと思います。引退した選手も指導者として新たな種を撒いてくれていますし、そういった歴史がまたセレッソを強くしていく、いい選手を育てていく。いい循環になっていると思いますね。

育成年代特有の挫折、迷い
選手を見守り、愛情を注ぐ

 小菊監督にプロサッカー選手としてのキャリアはない。1998年U-15のコーチとしてアルバイト採用されて以降、さまざまな立場でクラブに関わってきた。スカウトの時代も、コーチの時代も強化部の時代もあった。

 24年にわたって多くのポジションを経験してきた。その過程で得たゆるぎない信念がある。

20221118-cerezo-kogiku©J.LEAGUE/Getty Images

――ご自身はさまざまな役職を経験してこられました。選手を育てるという部分で大事なことは何だとお考えですか?

 選手を育てるために一番必要なことは、愛情を注ぐことですね。もう、そこだと思います。育成年代の選手は、当然、失敗もしますし、サッカー以外のことに興味を持ったり、挫折をしたり、いろんな友達ができて違うことに流されたり。本当にいろんなことがある。でも、そういう時も我慢強く見ていくこと。愛情表現にもいろんな形がありますが、私は常に近くで見守ってあげる、見続けてあげる、必要なタイミングで手を差し伸べてあげる、そういったことが一番大事だと思います。

 アカデミーの年代は、プロサッカー選手になるだけではなく、サッカーを通して成長していく、心身ともに大人に成長していく過程です。もちろん、技術的なところで成長を促すことも大事ですが、やはり人間教育が一番大事。親としても、サッカーを通して立派な大人になってほしいという思いは当然ありますから。選手の育成という柱の中に、人間教育を一番大事にしていることも、セレッソのアカデミーを評価していただいている要因の一つとしてあるのかなと思います。

――育成は地道な作業が多く、忍耐、我慢強さが大事だというのは傍目から見ても思います。育成に携わる一番の喜びは、どういったところですか?

 やはり選手の成長を感じる時ですね。急激にグっと伸びる時があるんですよ。日々見ている自分たちも「良くなってきたな」というのは分かるんですけど、大きな大会で想像以上のパフォーマンスを発揮したり、乾いたスポンジがグングン水を吸うように、すごいパフォーマンスを練習や試合で発揮したりする瞬間がある。そういった時が一番嬉しいですね。それはトップチームも同じです。指導者としては、選手たちの成長を実感する時が一番嬉しい瞬間です。

――小菊監督は、スカウト時代に香川選手を発掘された話が有名です。原石と言いますか、“まだここから”の選手を見る眼、才能を見る眼としては、どういったところを見極めているのですか?

 最終的には「本人が夢に向かってどれだけ努力できるか」そこだと思うので、メンタル的なところを見ています。素晴らしい才能を持った選手でも、残念ながらプロになれなかった選手、早くに挫折して引退してしまった選手もたくさん見てきました。

 最後は、サッカーが好きで自分の夢に向かって努力を続けられるかどうか、それはご家庭のサポートも含めてです。その辺が一番大事になってくるとは思います。指導者が引き上げようとしても、本人にその意志がなければ、無理なので。

――技術も見ているが、人間性を見ている。

 日本を代表する選手になったり海外に行ったりする選手は、本当に「サッカー大好き少年」でしたね。そこは全員に共通して言えます。負けず嫌いで、自分の夢をしっかり持っていた。「なれたらいいな」ではなく、「絶対、自分はこういう選手になる」という思い。「このクラブでエースになる」「代表に行く」「海外でチャレンジする」というギラギラした思い。それは真司も曜一朗も拓実もそうでした。

 未来は誰にも分からないと思いますが、自分の未来を信じている選手は、やっぱり上に行きました。逆に、能力は高くても、「もっと大きな夢を持てよ」と、こちらが思う選手もたくさんいました。そういった選手は、残念ながらそこまで到達しないですよね。

――技術だけではないところもあるのですね。

 本当に悔しいですよ。メンタルに訴えたり、違うアングルからこちらも刺激するんですけど、なかなか響かない選手もいます。歯がゆいですが、そこで諦めてしまうと、そういった選手たちの可能性も終わってしまう。我慢強く愛情を持って、指導していくことも大事です。順調にいく選手ばかりではないです。我々トップチームもアカデミーも、どのカテゴリーでも我慢強く見守る気持ちは大事だと実感しますね。

「日常がすべて」。常に毎日を
精一杯生きてほしい

 トップチームの監督に就任したのは昨年8月26日のこと。コーチの経験はあるが、監督は初の挑戦だった。成績不振に沈むチームを立て直し、今季J1リーグ戦はACL圏争いに食い込むと最終的には5位でフィニッシュ。ルヴァンカップはファイナルに進出するも、サンフレッチェ広島の前に涙を呑んだ。タイトル獲得はならなかったが、若手、中堅、ベテラン、外国籍選手、それぞれの良さを引き出し、チームは明らかに成長した。

 アカデミーの選手たちにとってトップチームは目指すべき目標の一つ。指揮官として選手たちに伝えたいことを聞いた。

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――アカデミーからプロを目指す子どもたちに、トップチームの監督として、どういう姿を見せたいですか?

 華麗な技術といったものだけでは、この世界で成功できません。もちろん技術、戦術も大事ですが、チームのために戦う、走る、勝利を目指す姿は、見に来ていただいている方々の心にも響くモノがある。うちのアカデミーの選手たちがトップの試合を見た時に、やっぱり「これぐらい戦わないと、走らないと、勝てないんだ」とか、「プロにはなれないんだ」とか、「プロの選手って、こういうことができるからプロなんだ」と理解できるように。

 技術を伸ばすところは今、アカデミーで徹底的にやってくれているので、プラスαで、戦える選手、チームのために自己犠牲できる選手、そういったところで違うステージの、違う景色を見せたい思いはありますし、それを感じてほしいですね。

――プロを目指すアカデミーの選手たちへ、トップチームの監督という立場から送る言葉はありますか?

 今、口を酸っぱくして伝えているのですが、「日常がすべて」だと。常に毎日を精一杯、生きてほしい、努力してほしい。練習は当然ですが、それ以外のところでも。それがあって初めて、個人個人が成長する。個人個人が成長すれば、チームも成長する。そういう両輪で、チームを強化していかないといけません。そこは育成の選手たちにも声を大にして言いたいです。

 「大きい大会だからやります」とか、「スカウトが来ているからやります」とか、「トップに行ったらやります」とか。そういったことでは、絶対に通用しない。毎日の積み重ね、意識、夢に向かって努力をし続けられるかどうか。

 もちろん、中高生なので、精神的に安定しない時期も当然あると思うんですけど、やはり自分が将来どうなりたいか、何を勝ち取りたいかを考えた時に、優先順位は見えてくる。しんどい時でもやり続けられるかで、自分の将来が決まると思います。

――夢に向かう気持ちを持ち続けることが、プロになるためには最も大事なことだと。

 言うのは簡単なんですよね。求めることも簡単ですし。でも、やり続けるとか、自分と日々、向き合い続けるのは簡単なことではない。

 それは我々もそうです。僕もそこを一番大事に、日々を精一杯生きています。悩みは当然ありますし、勝った、負けた、はあります。自問自答しながら日々を過ごしています。だからこそ、続ける大変さも分かっているつもりです。

 特にアカデミー生は、勉強もしないといけないですし、その両立も当然、大事になってきます。そういうことをキチっとやっている選手は、早かれ遅かれ、頭角を現すと思います。例えば、ウチで言うと、毎熊(晟矢)や鈴木徳真は大学4年間を経てプロになりました。遠回りのように感じるかもしれませんが、彼らにとってその4年間は必要だったんですよね。

 アカデミーからすぐプロになれなくても、大学を経由したり、J3、J2を経由したりして出てくる選手もいます。自分を信じてやり続けられる選手には絶対に可能性はあると思うんです。今の大卒の選手を見ていても本当に思います。ブレない強さ、ブレない夢、そこに対する想いはすごい。厳しい状況になっても、徳真のようにメンバー外になってもやり続けられるというのは、精神的なタフさ、強さがあるからだと思うので、そういったモノを身につけてほしい。技術、戦術と同時に、そこも身につけてほしいと思います。

――来年以降もアカデミーから昇格して小菊監督の下で鍛えられる選手も出てくると思います。楽しみです。すでに北野颯太選手は、そうですけど。

 できるだけ早い時期に、トップチームが追い求めていることをユースの子どもたちにも感じてもらえるようにしたいですね。アカデミーのスタッフとは、ミーティングも含めて時間を共有していますし、常にコミュニケーションを取っています。子どもたちの将来のためにも、未来のクラブのためにも、やり続けることが、30年後、50年後、常勝クラブになっていくための一番の道だと思っています。

――もちろん選手全員に期待する部分は間違いなくあると思いますが、中でもアカデミー出身の選手に期待することはありますか?

 たくさんの方々の愛情、クラブの愛を受けて、今がある選手たちですから。常にクラブの顔として、模範として、クラブの柱になってほしいです。サッカーはもちろん、それ以外のところでも、リーダーとしてクラブを引っ張っていってほしい。それがアカデミーで育った選手たちのクラブへの恩返しだと思います。自分の背中で見せ続けるという高い意識でリーダーシップを持って、やっていってほしい気持ちはあります。

――最後に、小菊さん自身のことも伺います。ご自身の指導者としての原動力は何でしょうか?

 もちろん勝つことも嬉しいのですが、監督という立場って、一つひとつの毎日のトレーニングに選手全員が精一杯取り組んでくれていること、高い競争で日々のトレーニングをやってくれていることに幸せを感じます。いいトレーニングができたら嬉しいですし、毎日、いいトレーニングをやってくれている彼らには感謝しています。それが自分への充実感にもなりますね。

――勝ち負けの結果はどうしても出るが、日々のトレーニングが大事だと。

 そこに僕はこだわっています。選手が同じ思いで取り組んでくれていることが、本当に嬉しいし、幸せに感じます。試合に出ている選手は当然トレーニングにも一生懸命取り組んでくれますが、出番が限られても、折れそうな心を出さずに日々を精一杯やってくれている選手の姿を見た時に、監督として幸せを感じます。

――ご自身の未来、チャレンジしていきたいこと、今後どういう指導者になっていきたいという将来像はありますか?

 今までもそうだったんですけど、あまり未来のことは考えられないというか。ずっと言っているように、毎日が精一杯で、そのスタンスで生きてきたので。とにかく思っていることは、セレッソの明るい未来を作りたいということと、強いセレッソを作りたいということ。その思いだけですね。

 この仕事なので、いつまでこのクラブで監督できるか分からないですが、日々その思いを胸に、大切に、これからもやっていきたいです。自分がおじいちゃんになった時、セレッソがタイトルをずっと穫っているクラブになっていてほしいですし、将来、セレッソがタイトルを重ね、Jリーグを引っ張っている姿を見たいです。それを楽しみに、そうしたクラブになれるように、毎日を精一杯やっていきたいと思っています。

Profile
1975年7月7日生まれ。兵庫県神戸市出身。滝川二高、愛知学院大を経て、98年セレッソ大阪U-15のコーチに就任。以降、C大阪U-12/13監督、チーム統括部スカウト担当、強化部、トップチームコーチ、ヘッドコーチを歴任。2021年8月よりトップチーム監督。

■シリーズ企画「セレッソ大阪アカデミーの力」

第1回:北野颯太【インタビュー】
第2回:西尾隆矢【インタビュー】
第3回:チャウワット【インタビュー】
第4回:丸山良明アカデミーダイレクター【インタビュー】
第5回:C大阪堺レディース、田畑晴菜、小山史乃観【対談】
第6回:舩木翔、山田寛人、喜田陽【鼎談】

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