内田篤人ロールモデルコーチ。指導者としての未来を感じさせたU-19日本代表との3日間

🄫Akihiko Kawabata

「世界を目指す選手たちのロールモデルとして多くのものをもたらしてくれる」(反町康治技術委員長)役割を期待された内田氏。合宿期間中の内田コーチはチームに何をもたらし、選手たちは何を感じたか。(文・写真=川端暁彦)

■指導者としては「素人」だが

2020-09-17-uchida-atsuto-U-19

「自分は一番下からやりたいので、普通に何でも言ってください!」

 ロールモデルコーチという耳慣れぬ役職に就いての初仕事。U-19日本代表候補合宿に向けたスタッフミーティングに臨んだ内田篤人氏は、そんなことを言っていたそうである。実際、合宿ではゴールの設置から練習の支度、紅白戦の副審役までこなして汗を流した。

 U-19代表を率いる影山雅永監督は「選手として大したことがなかった」と自認している。内田コーチのように飛び抜けた実績を持つ部下というのは、一歩間違えるとやりづらさを感じてしまうものだろう。だが、内田コーチはそこに先回りして配慮しつつ、「勉強させてほしい」という意欲を示し続けた。「本当に積極的にやってくれた」(影山監督)3日間の結果、最終日は「昔から(U-19代表の)スタッフをやっているみたいな感じなんですよ」と指揮官が語るほどの馴染みっぷりだった。

 欧州チャンピオンズリーグの4強を経験し、W杯にも2度出場している内田は、日本人選手の中でトップクラスの国際経験と実績を持つ選手である。ただ、指導者としては「素人」だ。

 例えば、今回のU-19合宿では練習の映像をリアルタイムで分析し、ピッチ脇のモニターを使って練習中の選手たちへフィードバックするという新たな試みが行われていた。経験を積み、スキルを磨いてきたテクニカルスタッフの「技」の賜物であり、影山監督も彼らの仕事ぶりを絶賛していたのだが、これを今の内田に「やれ」と言っても、できはしないだろう。

 2泊3日の短期合宿で、試合の出場状況もバラバラ、コンディションもチグハグな選手たちを、ケガのないような範囲の負荷で鍛えて試し、チーム力を高めるトレーニングメニューを作成しろと言っても、これも難しいだろうと思う。そこには前提の知識が必要で、経験も重要な要素となる。プロ選手としてのキャリアの中で多くの知見を蓄えているから、ショートカットはできるだろうけれど、そこには勉強が必要だ。

 ただ、だから内田は「お客さん」だったのかと言えば、これは明確に「否」だった。「内田コーチにしか言えないことがある」と言ったのは影山監督だが、欧州のトップレベルを知る男だからこそ伝えられる経験があり、内田篤人という個人の持つ資質ゆえに伝わるモノもある。

■「ぬるい」と指摘された選手たち

2020-09-17-uchida-atsuto-yudai-fujiwara

 2カ月ぶりの招集となった今回の合宿、初日午前の練習内容は、習熟度も強度も、指揮官が想定していたモノを大幅に下回るものだった。前日の試合に出ている選手たちの多くが午前練習は不参加だったことも影響していたとはいえ、それにしても低調である。

 あらためて全員が集まったところで、午後練習に向けてのミーティングを開催し、「われわれが目指すところはどこなのかを確認する」機会を作ったのだが、そこで出番を得たのが内田篤人ロールモデルコーチだった。

「そんなんじゃ、まだまだ届かないよ」

 3,4分ほどの短い話だったとは聞くが、言った内容はシンプルで明瞭。「優しい口調ながら厳しいことを言う」と指揮官が評した語り口で、要するに「ぬるい」と指摘された選手たちの反応は素直なものだった。

「もっと集中して一個一個のプレーを大切にしないといけなかった。(午後の練習は)最初のパス&コントロール(のメニュー)から集中してやった。経験のある選手の言葉なので、みんなちょっと説得力を感じて、ビシッとなった」(FW櫻川ソロモン/ジェフユナイテッド千葉)

「経験してきたものがやっぱり違うので、内田さんの言葉は一つひとつが重みがあります。午後の練習の雰囲気は変わっていた。そういう経験をしてきたコーチが僕たちに教えてくれるのはありがたい」(MF松村優太/鹿島アントラーズ)

「内田さんからは『世界を目指すのであればもっともっと突き詰めてやる必要がある』と言われた。もっと本気を出して、まだまだやれるんだという向上心を持ってやらなければいけないと感じた」(DF藤原優大/青森山田高・浦和レッズ内定)

 影山監督が、「指導者がギャーギャー言うよりも、彼のような経験をしてきた者に言って貰ったほうがスッと入っていくところはあると思う」と語ったように、内田コーチを選手たちに活を入れるためのスタッフグループの「戦力」として使った形だった。

 実際の指導でも細かいアドバイスは選手に響くものがあったのだろう。特に同じサイドバックの選手たちが話を聞きたがっていたのも当然で、10月に予定されていたアジア予選がコロナ禍で延期となる中で、ともすると位置付けが曖昧になる可能性のあった合宿を活気づける要素にもなっていた。

「指導者としてはこれからいろいろなことを学ばないといけないし、選手とやりとりしていくには経験も必要。ただ、指導者として伸びしろが大きいと思ったし、その(成長の)スピード感はきっと早いんだろうなとも思っています」

 影山監督は内田篤人ロールモデルコーチの仕事ぶりを受けて、そう評した。指導者としてはまだ一歩目を踏み出したばかりで、あくまで「これから」次第なのは当然のこと。ただ、その「言葉」と「行動」の双方で、指導者としての未来を感じさせる3日間だった。

▶サッカー観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

【関連記事】