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2021-09-02-japan-oman(C)Kenichi Arai

オマーンに初の黒星を喫した日本代表。「W杯予選あるある」で済まされない現実から見える真のリスク

日本代表は2日、市立吹田サッカースタジアムでカタール・ワールドカップアジア最終予選第1戦をオマーン代表と戦い、0-1で敗れた。オマーンとは過去12回国際Aマッチで対戦し、日本が9勝3分と無敗を続けてきたが、今回初めて敗れたことになる。この事実は何を表しているのか? 手痛い敗戦から見えた日本代表のリスクを考察する。(取材・文=川端暁彦)

■この一戦に懸ける熱量の差

2021-09-02-japan-oman(C)Getty Images

「今日の試合で失うものは何もない、何があったとしても得るものしかないぞ。パフォーマンスが完璧でなかったとしても、情熱を持ってプレーしよう。そして日本を驚かせてやろうじゃないか」

 オマーン代表を率いる67歳の宿将・イバンコビッチ監督はそう言って選手たちを送り出したと言う。彼らには、戦力差を覆すのに不可欠なチャレンジャースピリットがまずあった。

 W杯アジア最終予選というのは日本の選手にとっては通過点という意識なのに対し、オマーンの選手にとってはここが最大級の晴れ舞台であり、大勝負の場なのだ。初戦という状況下でこの一戦に懸ける熱量がそもそも違っていたのはまず確かなところだろう。

「私たちにとって本当に歴史的な勝利だ。選手たちがこのビッグゲームで勝利することができたのは、まさにピッチ上に全ての心を持ち込み、そして誠心誠意を尽くして戦った結果だった。」(イバンコビッチ監督)

 スコア自体は「W杯予選あるある」なのかもしれない。前回大会、ハリルホジッチ監督が率いたチームも初戦を1-2のスコアで落としてしまっているし、同じことが起きただけだという見方もあるだろう。それは一面で正しいとは思うが、ただ“それだけ”の敗戦ではなかったように思う。

■最終予選なのに、メンバーが揃わない

2021-09-02-japan-oman-kubo(C)Kenichi Arai

 この試合に注ぐ熱量の差は、単純にW杯アジア最終予選だというのにメンバーが揃わなかったという事実がよく示しているだろう。かつてイラン代表を率いて2000年代の日本と戦った経験を持つイバンコビッチ監督は、当時の日本と今の日本の差についてこう語った。

「日本はあのときから、かなりの選手が海外でプレーしていて、国際プレーヤーがとても増えた。なので、今回の選手たちの集合に関しても、2日前にやってきたような選手が多く、長い間一緒にプレーするような状況ではなくなったという点で違っている」

 実際は3日前には来ていて、離島のチームでプレーしているため2日前の来日になってしまうMF守田英正は、3日前に入国した上での検査を義務づける日本政府の要請を受けて合流不能に。同様に8月31日の移籍期限ギリギリでの移籍を狙っていたDF冨安健洋もこの試合に参加できなかった。

 集まってきた選手たちにしてもMF板倉滉は負傷を抱えていたため離脱することとなり、MF南野拓実はベンチ入りこそしたものの、プレーできる状態ではなかったようで、練習には参加せず。その他の海外組も試合前日に行われた1度のトレーニングにしか参加できない選手が殆どで、もちろん前日なのでそれほどハードな練習はできなかった。

 コロナ禍なので代替選手は国内組から選ぶほかないが、そこで選ばれたDF昌子源は、試合前日に行われたルヴァンカップにフル出場した後に合流するという異例の対応で、ベンチ入りはしていたとはいえ、実質的に起用するのは難しい状態だった。

 そんな状態で“最終予選の初戦”を迎えたわけだ。1ヶ月間のセルビア合宿を経て、日本代表の国内組が集合するより2日も前に来日してトレーニングを開始していたオマーンとの差は明らか。ピッチでの躍動ぶりを観ていれば、コンディション面でどちらに優位性があるのかは明々白々。これがチームパフォーマンスの差、そして敗戦に繋がった一因なのは確かだろう(もちろん、それがすべてとは言わないが)。

 とはいえ、これは古くて新しい問題だ。かつて中田英寿が一人孤独にこの課題と戦っていた時代とは違う。日本代表の過半数が欧州組で占められるのが当たり前になっている時代に、別の対応策を練るべきではないだろうか。長丁場となるW杯アジア予選の存在自体が日本サッカーと選手たちの足を引っ張っているのではないかと思うからだ。

 タフな移動を経て過酷な気候で試合を行い、またタフな移動をする。そのたびに時差調整が入って効率的な睡眠も削られ、コンディションの低下は避けられない。当然ながら、負傷のリスクとも隣り合わせだ。ここから始まるのは、代表参加で状態を落とした選手が所属チームで出場機会を失って、さらにコンディションを低下させていくというスパイラル。「代表選手なら当たり前」「それを乗り越えられる選手だけが代表で生き残れる」という主張は一面で正しいと思う一方で、負担の軽減策はやはり考えていくべきではないかとも思う。

■現代の日本代表をどうマネジメントしていくのか

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 まず根本的かつ長期的には、日本サッカー協会がアジアサッカー連盟に対して予選の試合数削減を訴えていくべきではないかと思っている。

 何しろ最終予選参加国が10から12に増えたことで負担はさらに増しているのだ。アジア予選で多くの試合を戦うということは、アジア以外の国を相手にした試合を組めなくなることも同時に意味しており、“W杯で勝つ”という目標から逆算した場合、明らかにネガティブだ。放映権料収入の問題もあるので難しい部分もあると思うが、少なくともさらなる試合増にはストップをかけたい。

 もう一つは、いっそ割り切ってしまってもいいのではないかということである。今回、冨安と守田の二人がカタールから合流するが、たとえばイタリアとカタールの時差は1時間に過ぎないし、移動にかかる時間もさほどではない。つまり冨安や守田のコンディションに不安はないわけだ。今回はたまたまそうなっただけだが、計画的に「カタールだけ組」や「ホームだけ組」を配置する手もあるのではないか。

 今回、Jリーグ組ではDF酒井宏樹がホームの1試合のみで離脱となった。東京五輪から続く疲労を考慮されたとのことだが、元から右サイドバックが3名も招集されていた事実を思えば、当初からその可能性を考えられていたのだろう。こうした形をもっと自然とやっていく手はあるのではないか。

 例えば、次の10月シリーズはサウジアラビアとのアウェイゲームからオーストラリアとのホームゲームという、今回とは逆パターンの連戦になる。サウジアラビア戦を欧州組フルオーダーの布陣で臨みつつ、Jリーグの選手たちの一部はこれに参加せずに国内で並行してトレーニング。ホームのオーストラリア戦は彼らをメインに戦い、欧州組の中で疲労の大きい選手は1試合目でクラブに戻すという形だ。

 いやいやメンバー揃わなかったら勝てないでしょうと思われるかもしれないが、コンディションが揃わなかったら勝てないというほうが強い。前述の通り欧州の各クラブで選手たちがポジションを失ってしまうほうが、代表が“W杯で勝つ”という大目標はもちろん、予選突破を考えてもネガティブだ。

 11月シリーズはベトナムからオマーンというアウェイマッチ2連戦だが、これは逆パターンとなる。ベトナムとの1戦目ではコンディションの良いJリーグ組を積極起用しつつ、オマーンとの2戦目には早めの現地入りで調整十分の欧州組を投入する。こちらのほうが勝てるというだけでなく、現在のような調整メニューばかりというのではない、実のあるトレーニングができる可能性もある。その上で、新戦力の発掘や競争の活発化にも繋がるはずだ。

 もちろん、これは苦肉の策であって100点満点の解決策でないことは言うまでもないし、リスクもある。ただ、欧州組の選手たちが「東アジアへの過酷な往復」を繰り返して消耗し、パフォーマンスを落としていくという“いつものパターン”を繰り返すことこそ真のリスクではないか。

 南米や北中米のように近隣の国と移動しての連戦を行う地域と、アジアはやはり決定的に違うのだ。東西に圧倒的に広い上に、赤道直下の国もあれば、季節がひっくり返る南半球の国もあり、欧州と距離的に近い中東の国々もある。目前のW杯予選を勝つということはもちろん、その先のステージを見据えても、現代の日本代表をどうマネジメントしていくのかベストなのか。議論していく余地はあると思っている。

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