■イレギュラー尽くしのミャンマー戦
スコアボードに刻まれた数字は10−0。2月のクーデター発生後、初めての国際試合に臨んできたミャンマー代表に完勝し、日本代表は早々とW杯2次予選突破を果たしてみせた。
Jリーグ開催期間中のW杯予選というイレギュラー尽くしの試合であり、相手は国内リーグすら開幕していないという万全とは言いがたい状態。しかも自分たちは欧州の長いシーズンを戦い抜き、長旅を経て日本に来たゆえの疲労もあった。そして無観客試合という外的要因もある。
正直に言ってしまうと、ここでは気持ちの抜けたゲームになってしまうのではないかという懸念も少しばかり持っていたのだが、そこはまったくの杞憂。日本の選手たちは士気高くゲームに臨み、最後まで気持ちが切れたような素振りもなく戦い抜き、圧倒的なまでに勝ち切った。
この試合で勝ち切ることはあくまでミニマムの目標ではあったが、早々に点差をつけたことで選手交代もスムーズに、また後半に森保一監督がこっそり(?)導入を進める4−3−3(4−1−4−1)システムのテストもこなすことができた。
「なぜ◯◯を使わないのか」という代表戦定番の批判もあるようだが、特に今回は欧州から帰ってきた選手たちのリーグ最終戦の時期も違えば、来日するタイミングもバラバラ。最終戦で完全燃焼するようなプレーをしてそのダメージが残っている選手もいれば、逆に出番がなかった選手もいるなど状況も千差万別だった。森保監督が事前に言及していたとおり、コンディションに配慮しながらの起用だったというだけの話だろう。
■A代表に訪れた底上げの機会
(C)Kenichi Araiそれもこれも、ここから始まる6月シリーズこそが重要だからである。欧州組のみで構成されていたイレギュラーな日本代表は、ここからA代表組と五輪代表組(オーバーエイジ枠のDF吉田麻也、酒井宏樹、MF遠藤航を含む)の2カテゴリーに分割され、それぞれJリーグから合流してくる選手を加えた編成で異なる試合に臨むこととなる。
A代表は2つの国際親善試合と、すでに突破を決めた2つのW杯予選をこなすわけだが、Jリーグ組を含めてある種の余裕を持ったテストの機会となる。3日のジャマイカ代表戦、7日のタジキスタン代表戦を経て、11日にストイコビッチ監督率いるセルビア代表との試合になるが、国際経験の少ない選手も多い編成となっただけに、チームの底上げを図る好機となるだろう。
選手たちの話を聞いていても、ここでのメンバー入りに安閑とした雰囲気はなく、五輪組が合流してくる前に代表に必要な選手であるかを示せるかというサバイバル機会だということをよく分かっている様子である。
そのプレッシャーに打ち克って「国際試合で使える選手」であることを示せるか。特にJリーグから合流する選手たちにとっては、五輪組が離れて選手層が薄くなっている今は大きなチャンスとなる。
■五輪世代は最後のサバイバル
(C)Kenichi Arai一方、五輪代表は最終メンバー選考を兼ねた最後の機会で、こちらもまさしくサバイバルレースとなる。2つの国際親善試合と練習試合1つを消化するが、ここではオーバーエイジ(OA)選手を加えて日々のトレーニングから競争だろう。吉田は「ここで良くなかったら外してくれて構わない」と森保監督に告げたそうで、このサバイバルにあっての特別扱いを自ら辞退し、この競争に臨む。
当然ながら力を示す自信があった上での発言だろうが、過去2度の五輪を経験している吉田は、五輪世代の選手たちがオーバーエイジで“下りてくる”選手たちに対して抱く心理も知っている。だからこそのメッセージであり、そういう経験値を持つ選手がいるのは実に頼もしいし、どんな化学変化が生まれるかも楽しみだ。
兼任監督のメリットをフルに活かす形で、2つのカテゴリーのチームをかつてないほど弾力的に運用しながら臨むこの5・6月のシリーズ。7月の東京五輪という本番と、その先に待つW杯アジア最終予選に向けて、“森保ジャパン”の未来予想図を描く機会となりそうだ。
取材・文=川端暁彦
