■内容の格差につながった理由
©Tsutomu Takasuシュート数19対6という数字が象徴するとおり、韓国を圧倒しての3-0での勝利。立ち上がりから完全に日本が上回った内容だけに、試合前から良い流れが生まれていたのだろうと思われたが、選手たちの反応は少々違っていた。
「正直、試合前は久しぶりに不安だった」
MF鎌田大地(フランクフルト)は日韓戦を前にした心境を率直に振り返る。日本で行われる国際試合は、欧州組に地球半周の「移動」という久々の負荷を与えた。
「欧州から帰ってきての練習でみんな体が重そうだったし、僕自身も体が動かなくて(練習で)国内組にめちゃくちゃやられていた」(鎌田)
主将のDF吉田麻也(サンプドリア)も「正直、みんな余り良い状態には見えなかった」と前日トレーニングの様子を振り返る。移動慣れしていたベテラン選手にとっても、欧州組として日本での試合に臨むのは1年以上のブランクがあったわけで、そういう意味でも簡単ではなかったのだろう。
ただそれでも、キックオフの瞬間には戦える状態へ心身を持っていけるのが代表選手ということだろう。「試合になったらみんなスイッチが入った」という鎌田は「不安を持っていたからこそ(試合の)入りから上手くやれた」と分析する。状態に不安があるからこそ最初からスロットルを全開に入れる。そんな姿勢が日韓両国の立ち上がりの温度差を生み、内容の格差に繋がった。
■「ずっと緊張していた」初招集の山根
©Tsutomu Takasu不安と言えば、「ずっと緊張していた」という初招集・初先発になった右サイドバックの山根視来(川崎フロンターレ)も、どこまでやれるか見えない存在だった。地力のある選手だからこその抜擢とはいえ、海外組は直前の合流で、短い練習で合わせたのみ。出たとこ勝負だったのは否めない。
ただ、ここもさすがは歴戦の選手たち。ここが弱みになる可能性も把握した上で、サポートも万全だった。「試合前もそうだし、試合中も後ろから麻也くんがずっとポジティブな声をかけ続けてくれた」(山根)といったメンタル面に加え、FW大迫勇也(ブレーメン)も山根の得意なプレーを事前に把握し「『ゴール前に入ってきていいぞ』と伝えていた」と振り返るとおり、心憎い位置取りと演出で山根の強襲をサポート。
右サイドでコンビを組む伊東純也(ヘンク)との「相手を見て自分か純也くんのどちらかが幅を取る」(山根)という関係性も初めて組んだにしてはスムーズだった。山根自身の強心臓と地力の高さがあるのは大前提だが、同時に“大人の集団”としての機能性を日本代表がしっかり持っていたことが大きかった。
戦いの中でも“大人の集団”と思えるシーンは随所にあった。この日、ゼロトップを採用した韓国の布陣は奇策に近く、「事前の予想とは違っていた」(吉田)のも無理はないもの。相手の攻撃の形もプレスの掛け方も事前の予想と異なる中で、選手間でその気付きを共有して、戦い方をアジャストさせることに成功。韓国の狙いを無力化させ、後半に入ってからの変化にも(こちらは予想した上で)対応してみせた。
そもそも韓国が吉田と冨安健洋のCBコンビとの真っ向勝負を避けてセンターFWを置かないシステムを採用してきたことに驚いたが、それだけ“守備の国”イタリアの第一線で戦っている二人の安定感が図抜けて見えたということだろう。
■最終予選に向けての収穫
©Tsutomu Takasuもっとも、「これでW杯最終予選も安泰だ」などと言うのは早計に過ぎる。吉田自身が「そんなに甘くない。韓国も意地があるだろうし、予選はまた違う。ソン・フンミン(トッテナム)が来たら違うチームになる」と語ったように、この日の韓国の出来はお粗末なもので、この状態が最終予選でも継続されていると思うのは楽観的に過ぎるというもの。兜の緒は締め直しておいてほうがいい。
その上で言うなら、最終予選に向けての収穫は確かにあった試合だろう。山根が得難い個性を発揮して結果を出したことに加え、MF江坂任(柏レイソル)、川辺駿(サンフレッチェ広島)、脇坂泰斗(川崎F)、DF小川諒也(FC東京)といったJリーグの選手たちが代表デビューを飾り、優位な状況だったとはいえ、破綻なく役目を果たしてみせた。
最終予選はタフな戦いとなることが予想され、コロナ禍の状況によってはセントラル開催での連戦となることも考えられる。選手層の厚みは確実に求められる中で新しい選手たちに経験を積ませることができたのはポジティブな材料だろう。
また今回の代表を観て、「アイツがやれるなら俺も」と思ったJリーガーが数多くいたであろうことも大きな収穫。代表は雲の上の存在ではなく、手を伸ばしていけば届き得る場所にあるものだと日本でプレーする選手たちに感じさせたことは、今後のJリーグへの波及効果としても期待できる。
繰り返しになるが、「これで最終予選は安泰」などということはまったくない。ただ、日本サッカーが積み重ねてきた成果の一端を示し、今後に向けての前向きな手応えを得た夜だったことも、また確かだろう。
