■参加は「一生に一度だけ」
居住状況が安定していないホームレス状態の人の社会復帰などを目的としたストリートサッカーの大会「ホームレス・ワールドカップ」。2003年にスタートし、コロナ禍の20〜22年を除いて毎年開催されている。50カ国以上から約500名が参加し、8日間にわたって男女それぞれトーナメントが行われる。
大会出場を契機に「自立」を目指しているため、選手としての参加資格は「一生に一度だけ」。今回の開催地・韓国では、ホームレスサッカーをモチーフにした『ドリーム〜狙え、人生逆転ゴール!~』というNetflix映画が制作され、パク・ソジュン、IUが出演したこともあり、話題となっている。
日本では、NPO法人ビッグイシュー基金が運営の中心となって、代表チームを「野武士ジャパン」と命名し、04年スウェーデン大会、09年ミラノ大会、11年パリ大会に出場した。12年以降は資金不足などにより出場がかなわなかったが、このたび株式会社LIFULL(東京都千代田区)がオフィシャルスポンサーに就任し、13年ぶりの出場が決定した。
日本において「ホームレス」は、一般にも法律上でも「路上生活者」とされていた。今回のチームを派遣するNPO法人ダイバーシティサッカー協会は、ホームレスの定義を国際的な基準に合わせて「不安定な居住状態」と広い意味で捉え直して、代表選手選考を行ったという。
具体的には、ネットカフェや漫画喫茶などの商業施設、友人・知人宅、カプセルホテル・ドヤなどの安価な宿泊施設、行政のシェルター等で暮らす人たちも「ホームレス」に含むこととした。16歳以上であること、1年以内に「不安定居住」を経験したことなどの参加条件を満たす人たちを対象に選考を開始。4月から練習会を開き、8月に最終的な代表選手8人が決定した。
◾️この大会出場をきっかけに
5日、記者会見および新ユニフォーム発表会に参加した選手の山田裕三さんは、普段、京都・四条でホームレスの自立支援雑誌『ビッグイシュー』の販売をしている。
「ビッグイシューの販売からつながりができて、フットサルにも参加するようになりました」とサッカーとの出会いを話す。「まさかホームレスワールドカップで韓国に行けるなんて夢にも思っていなかったので、感激していますし感謝しかないです。選ばれたからには楽しんで、各国の皆さんとも交流して、 素晴らしい大会となるよう務めたいと思います」と決意を述べた。
もう一人、岩崎零さんはサッカー経験者だ。「 小さい頃からサッカーをしてきましたが、まさか日本を代表する機会に恵まれるとは思ってもいませんでした」と語り、「この貴重な経験を何か別のことに活かしていく、サッカーをこれからも続けていくモチベーションにしていきたい」とその先に向けての思いも述べた。
【ホームレス・ワールドカップ2024 日本代表記者会見】今回、スポンサーとなったLIFULLは、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」を通じて、生活困窮者や家族に頼れない若者など、住まい探しに困難を抱える人々のサポートや、支援団体への寄付などを行ってきている。同社執行役員でCCOの川嵜鋼平さんは「『ホームレスの存在しない世界』を目指すという大会のビジョンと、大会を通じて当事者の方々の自立を目指すという目的に強く共感したため、オフィシャルスポンサーに就任いたしました」とスポンサー契約の理由について説明した。
大会の目的は社会復帰にある。04年大会後は、代表選手8人のうち7人が仕事を見つけたという。しかし、ダイバーシティサッカー協会代表鈴木直文さんは言う。「大会に出場するだけで生活困窮から抜け出すことができるわけではなく、 継続的な支援こそが重要です。今回の大会出場がホームレス問題への理解と、支援に取り組む各団体への一層の支援につながることを願っています」。
◾️楽しんで、初勝利を!
11年のパリ大会では日本代表は全敗。前後半各7分の試合で喫した失点は138点で大会記録となった。「世界で一番負けた日本代表サッカーチーム」としての異名も持っている。岩崎選手は「日本は不戦勝とPK以外でこれまで勝ったことがないとうかがっているので、チームとして初勝利したい。個人としては 3得点3アシストを目標としていきたい」と具体的な目標を語る。
「練習をやっていく中で厳しいこと、いろんなことがありました。だけど、徐々にサッカーがやりたいという気持ちが強く出てきました」と話したのはヘッドコーチである田中三千太郎さんだ。「選手たちは様々な背景を持っている」ことを前提としつつ、「選手、コーチ、そして皆さんと一緒に一枚岩となって、この大会を思いきり楽しめるように 頑張っていきたい」と続けた。
今後チームは都内で練習を実施し、9月21日に開幕する本大会に向かう。日本をはじめ大会中の試合は「ホームレス・ワールドカップ」公式YouTubeチャンネルで配信される予定だ。
【ホームレス・ワールドカップ】
日程:9月21日(土)~9月28日(土)
場所:漢陽大学校大運動場/韓国・ソウル
▶「ホームレス・ワールドカップ」公式YouTubeチャンネルで配信(予定)
【ルール】
男子チーム(女子やその他の性別の選手も出場可能)、女子チーム、それぞれトーナメントが行われる。 各チームはフィールドプレーヤー3人・ゴールキーパー1人がコートに立てる。控え選手は4人まで。 試合は7分ハーフでハーフタイムは1分間。
