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学生コーチの策は機能、地力も証明。筑波大、天皇杯120分、プロとの戦いで残ったモノ

出し切った120分の後で

 小雨も舞い散る夜の日立台、柏レイソルと筑波大による天皇杯3回戦は、この大会“らしさ”を存分に感じさせる好ゲームとなった。

 延長含めた120分を戦い抜いた消耗戦を最後に制したのは柏。CKからU-23日本代表FW細谷真大のヘッドが決勝点を奪い、2-1で勝利。プロとしての面目を保つ白星となった。

「ちょっと苦しい展開だった。(筑波大は)フィジカルが強いし、気持ちも見えたし、サッカーとしても本当にすごく良いチームだな、と。『町田を喰ったのはたまたまではないな』という感じの力強さは感じていた」

 先制点を奪った柏FW木下康介は、対峙した大学生たちの地力の高さをそう評価する。

 スコア的には前半が1-0で柏がリードし、後半に筑波大が1点を返して追い付く流れだったが、内容的には前半こそ筑波のペースという少しあべこべな流れだった。

 学生ながらサッカー面の指揮を任されている戸田伊吹ヘッドコーチは「困らせることができた」と振り返るように、後ろを3枚で構えてボールを動かしていき、「5レーンを瞬間的に埋める形」から4-4-2で構える柏の守備を崩しにかかる戦術的シフトは一定以上の機能を見せていた。

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 もちろん、そこで「最後はやらせていなかった」(DF古賀太陽)柏の守備陣の練達ぶりもプロの技。ただ、井原正巳監督が後半の早めの時間帯に、温存していた主軸選手の細谷やMFマテウス・サヴィオらを投入していったのは、それだけサッカーの内容面で筑波に勝ち切る難しさを感じていたからこそだろう。

 この投入が「思っていたより早かった」というのが筑波側に共通した感じ方だったが、「彼らが出てきてからが本当のゲームになると思っていた」(戸田ヘッドコーチ)のも、最初から持っていた共通理解。U-23日本代表DF関根大輝も投入された後に、セットプレーから追い付き、延長まで持ち込んだのは、筑波の地力の高さを証明するものだった。

「プロで活躍するために」

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 もっとも、その延長戦では力の差を感じる部分があったことも、筑波側が共有していたものだった。先発から引っ張っていたほとんどの選手の足がつっていたという消耗があり、体力的な余裕が残っていなかったからだ。

「(普段こなしている)ゲームの強度も違いますし、それこそ柏レイソルさんの後半途中から入ってくる選手たちの質もそうです。やっぱり、(勝つためには)延長に行く前に決着をつけないといけないゲームだったと思います」(戸田ヘッドコーチ)

 とはいえ、敗退した筑波側に悲壮感のようなモノはなかった。10番を背負うMF角昂志郎(磐田内定)も「出し切ったので悔いはないです」と敗戦を受け入れ、その上で感じた課題は「自分がプロで活躍できるようになるために持ち帰りたい」と前向きに捉えてもいた。

 また柏レイソルU-18出身であり、この試合に懸ける気持ちは並々ならぬものがあった戸田ヘッドコーチも、「指導者に転身してからこんなに早くこのピッチで指揮を執れるとは思っていなかった。本当にここまで連れてきてくれた選手たちに感謝の気持ちが強いですし、小井土正亮先生(筑波大監督)へ感謝したいです」とした上で、こう語る。

「(天皇杯全体について)一定の手応えはありますけど、それこそ今日の試合も勝つために準備はしてきたので、『本当に悔しい』という思いが一番強いです。自分の采配についても、もっとやれた部分はあったと思っています」

 手応えはあり、納得はしている部分はあれど、「もっとできたはず」と持ち帰る課題もそれぞれ明確に持っている。筑波大が天皇杯を通じてのプロへの挑戦はこれで終幕。ただ、それぞれの選手、指導者が見せる「プロへの挑戦」は、ここからがスタートラインとなる。(取材・文=川端暁彦)

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