イギリスの大手メディア『The Athletic』が、「なぜ日本はサッカーの"最も価値ある"市場なのか」と銘打った特集を組んでいる。
ブライトンでプレミアリーグを席巻している三笘薫やアーセナルで活躍する冨安健洋、リヴァプールで加入一年目から定位置を確保した遠藤航など、現在多くの選手がヨーロッパでプレーする日本人選手たち。
最近の日本人選手の活躍ぶりに『The Athletic』が着目。「2010年のワールドカップでは、日本以外を本拠地とする選手はわずか4人だったが、その偏狭さ、そしておそらくヨーロッパのJリーグに対する冷淡さは変わった」とJリーグにフォーカスを置きながら分析した。
まず、Jリーグからヨーロッパへのプレーという点で大きな流れを作ったのが、現シント=トロイデンCEOの立石敬之氏。「言葉も文化も違いますが、ヨーロッパに適応する最初の2、3年がうまくいけば、選手は大きな一歩を踏み出すことができます」と立石氏は『The Athletic』に語っている。
「冨安健洋(現アーセナル)は最初に獲得した選手です。2人目は遠藤航(現リヴァプール)で、それから鎌田大地(現ラツィオ)と契約しました。この3人の選手がクラブの認知度を向上させ、我々は日本人選手にとって自然なホームとなりました」
日本人選手のベルギーサッカー界への参入は、モレンベークで採用責任者を務めるトム・チェンバース氏も驚いたようだ。
「突然、トレンドが現れ始めたんだ。三好康児(現バーミンガム・シティ)をはじめ、移籍を果たした日本人選手は一際目立っていた」
「私は『そうか、これは私にとってまったく新しい市場だ。彼らは50万ユーロから150万ユーロ、43万ポンドから130万ポンド、55万ドルから160万ドル。(約8000万円〜約2億円)これは破格だ。どうすればこれに参加できるのか』と考えたんだ」
「現在ではJリーグの全チームを網羅したビデオ映像が入手できるようになり、ヨーロッパのクラブが日本の才能をスカウトすることにもはや障壁はない」
当時KVオーステンデのスカウトだったチェンバーズ氏は、J1でのデータを依頼し、各ポジションのベスト・プレイヤーのリストを作成。そこで当時セレッソ大阪でプレーしていた坂本達弘を発掘。所属事務所と最初に連絡を取ったとき、嬉しい驚きがもたらされたという。
「とても奇妙な瞬間だったよ。100万ユーロ(約1億6000万円)で買い取りオプション付きのレンタルが可能だというんだ。興味があるか?もちろんだ!その後、彼はそのポジションでリーグ屈指の選手となり、我々は彼をコヴェントリー・シティに売却した」
「予算の関係で日本には行っていないが、リーグのデータを見ると、優秀な選手が非常に多いことに気づいた。歴史的には評価されていなかったが、Jリーグが非常に優秀な選手を輩出していることがわかると、人々の意識も変わってくる」
「"日本は世界で最も価値のある市場なのか?"今はそうだが、プールは有限だ。Jリーグはスローペースで、試合中にロングボールがほとんどないため、フィジカルはそれほど強くない。でも、おそらく世界最高のテクニカルリーグのひとつだろうね」
現在、プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーの監督を務めるアンジェ・ポステコグルー監督は横浜F・マリノス時代に目にした三笘薫(当時川崎フロンターレ入団直後)のレベルの高さに衝撃を受けたとのことだ。
「彼は我々を破壊したんだ。私は彼のことを何も知らなかった。私は対戦相手の選手たちに『この男は誰だ?』と言った」
「彼らはこう言ったよ。『彼は大学から来たばかりだ。』あの日、彼は我々を圧倒した。私はこの異なる旅路に触れて、突然考え方が変わったんだ。彼が大学にいたかどうかなんて誰が気にするんだ?他に獲得できるような大学選手は出てこないのか?」
「そして、そのオープンマインドを次の仕事にも生かすんだ。スコットランドに行ったとき、『そうだ、日本人選手を3、4人連れて行こう』とね。みんなには『それはちょっとやりすぎだ』と言われたよ。でも、私は『いや、そんなことない』と言い切った」
その言葉通り、ポステコグルー監督はセルティックに古橋亨梧や前田大然、旗手怜央ら日本人選手を積極的に補強し、瞬く間にセルティックの3冠達成に欠かせないメンバーに。
『The Athletic』は「では、なぜ日本は欧州クラブにとってこれほど人気のある市場になりつつあるのだろうか?」という問いへの結論へ向かい、同質問を冨安をボローニャからアーセナルへ移籍させる取引を仲介した代理人で『ユニーク・スポーツ・グループ』運営責任者であるイアン・ライダー氏に展開。
ライダー氏は「プレミアリーグやセルティックでの選手たちの成功が、クラブがこのマーケットに自信を持つのに役立っている」と切り出し、ヨーロッパサッカー界の日本人選手に対する見方の変化について説明している。
「セルティックとスパーズでポステコグルーが採用したフットボールのブランドは、クラブが買い物をする場所としてJリーグをさらに正当化したんだ」
「ブレグジット後に労働許可証のルールが変更され、ブレグジット前であれば不可能だった地域からの選手の直接移籍が可能になったことも、市場を広げているね」
「今ではイングランドのいくつかのクラブから『一緒に行って市場を紹介してほしい』あるいは『ビデオで気に入った選手を獲得するために駒をつなぐ手助けをしてほしい』と頼まれたこともあるよ」
