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緩慢で無秩序だった日本代表に西紙分析担当が提言。指揮官が肝に銘じるべき「迷いの森」で灯火となる若手の存在

敵地・マスカットでのオマーン代表との戦いを1-0で終え、日本代表は勝ち点3を積み上げた。これでカタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選のグループBで2位に浮上、本大会に向けて一歩前進した。

3勝2敗のグループ3位で迎えたアウェイ戦だった。オマーンは初戦、日本がホームで苦杯を喫した相手である。チームは11日、ハノイでのベトナム代表戦を終えてマスカットに移動、十分な練習時間も取れないままこの試合に臨んだ。

アウェイ2連戦の中で森保一監督が変更した先発メンバーは1名のみ。結果、日本代表が見せたのは、停滞した前半と三笘薫の投入で蘇った後半――。ここ数年間、日本代表の試合を追い続けるスペイン大手紙『as』の試合分析担当ハビ・シジェス氏は、この一戦をどう捉えたか。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎

■機能不全に手を加えない罪

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たとえ無理だと思えても、やり直すための時間は残っているものだ。

日本はオマーンに勝った。ハーフタイムに投入された三笘の決定的な活躍が、試合状況、ひいては順位表の状況すら一変させた。この大きな価値がある勝利は、森保監督の臆病なゲームプランを覆い隠すものにもなっている。前半の日本のパフォーマンスは貧弱そのもので、誰の関心も引くことができないレベルだった。ただ後半に入ると、選手交代とシステムの微調整によって、少なくともリアクションは見せることができた。

緩慢で、見え透いていて、無秩序……。この試合の立ち上がりに日本が提示したものである。森保はオーストラリア、ベトナム戦に続いて1-4-3-3を使用し、スターティングメンバーの変更は守田英正の代わりに柴崎岳を起用したのみにとどまった。過去2試合のポジティブな結果から考えて、森保監督が同じシステムを継続して使用したことは理解できる。が、序盤の展開を受けても一向に動こうとしなかったことは理解しかねる。

日本はすべてが足りていなかった。中盤ダイヤモンドの1-4-4-2(もしくは1-4-1-3-2)のオマーンは、中央でパスを回したい日本を怖気づかせることに成功。ストライカー2枚が吉田麻也、冨安建洋、遠藤航をマークし、プレーゾーンをできるだけ狭めてサイドからの攻撃を義務づけた。このオマーンの戦術に対して、森保のチームは文字通りなす術なし。柴崎はまったくプレーに関与できず、田中碧もオープンなポジション取りで創造性を供せず……と、ワイドに攻撃せざるを得ない彼らの攻撃は限りなく広く浅いものになっていた。

日本はあらゆる点でひどかったが、試合展開が求めてくることを理解できていないのが一番まずかった。オマーンの守備的なシステムに対抗するためには、ボールをできる限り素早くサイドからもう一つのサイドへつなぐ必要があった。そうしていればオマーンの両インサイドハーフが対応し切れず、サイドで数的優位性を生み出せていたはずだ。しかしながら現実では、試合展開がどれだけ声高にそうしろと叫ぼうとも日本の耳に届かず。遠藤が塞がれると中盤の“機関室”は機能を停止してしまい、グズグズとボールを回すだけとなった。

加えて、南野拓実はまたもサイドに開くべきところで内寄りのポジションを取り、日本の左サイドはずっと塞がれてしまっていた。昏睡状態の彼らが目覚めたのは、長友佑都の個人技から伊東純也がチャンスを迎えた場面のみ。右サイドについても、伊東はベトナム戦よりプレーに参加する回数が少なく、攻撃に厚みを加えられなかった。こうして、ただ無意味に時間だけが流れていたにもかかわらず、森保監督は何もしなかった。フットボールにおいて機能しているものに手を加える必要はない。だが機能していないものにそうしないのは、罪である。

オマーンにとっては、あまりに楽な展開だった。が、彼らが日本の守備を崩すには至らなかったのも、また確かだ。日本は吉田と富安がオマーンのアタッカーたちに睨みを利かせていたほか、前回の対戦と比較してサイドや2列目からの飛び出しもしっかりと封じ、権田修一に快適な夜を提供した。しかし日本はベトナム戦でもそうだったが、ボールを保持していないときには最低限とはいえど、こなすべきプレーをこなしている。攻撃がうまくいかないならば、守備があるに越したことはない。

■スタメンに名を連ねるべき若手たち

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日本はほとんどチャンスを得られぬままハーフタイムに到着。感触的には、それはもうひどいものである。そして迎えた後半、柴崎との交代で三笘が入ると、ここからまったく異なる試合が展開されることに。止めらないほどの勢いを日本が得た、または流麗な攻撃を見せたというわけではない。しかし、少なくとも三笘が新鮮な空気、ドリブル突破、勇敢さをチームにもたらしている。彼はピッチ上の誰よりも生産性があった。その厚かましいまでの個人技の押し付けは、日本の攻撃を急激に変化させたのである。

森保は選手交代のほか、システムを遠藤と田中を軸にした1-4-2-3-1に変更。同システムでボールポゼッションの質は改善され、両ウイングがサイドで勝負を仕掛ける機会を与えられるようになった。三笘と伊東はサイドに開きながらパスを待ち、オマーンのディフェンスラインを横に広げている。また彼らと両サイドバックのコンビネーションも良好で、とりわけ長友との交代でピッチに立った中山雄太は左のレーンを占有して効果的な攻撃参加を見せていた。

さらに、良い所がないままベンチに下がった南野の代わりに投入された古橋亨梧も、鍵を握った選手である。日本は、彼のマークを外す、相手の守備にズレを生じさせる動きで、間違いなく攻撃を活性化させた。こうして、休むことなく繰り返し仕掛けられた攻撃は、三笘を主役として伊東がネットを揺らす決勝ゴールにつながったのだった。

日本にとってこのオマーン戦の前半は、W杯予選の中で最もひどい出来だったが、途中から歩む方角を修正した。チーム全体のパフォーマンスを変化させたわけではないにしても、いくつかの欠点を取り除くことはできた。活躍を披露した中山、三笘、古橋に加えて、負傷が明けてベンチを温めた堂安律、負傷離脱中の久保建英……。彼らは迷いの森に入り込んだ日本を出口に向かわせるための灯火、希望となりそうだ。

森保監督はそのことを、今の日本にはスタメンにも名を連ねるべき若手選手たちがいることを、肝に銘じていなくてはならない。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎

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