italy euro2020(C)Getty Images

メンツは地味もいいところ…それでも躍動!歴史作ったイタリアが示す「サッカー的国力」

■イタリアの復活

決勝トーナメントに入ったEURO(ユーロ)2020で、予想以上の強さを見せて大きな注目を集めているのがイタリアだ。グループステージは3連勝、26日のラウンド・オブ・16でも、延長戦にもつれ込みながらオーストリアを2-1で押し切り、4戦4勝(9得点1失点)という好成績でベスト8に勝ち上がってきた。

W杯で優勝4回準優勝2回、EUROでも優勝1回準優勝2回という数字が示すように、イタリアはヨーロッパでも有数の伝統を誇る強豪国である。しかし近年は、ドイツW杯優勝の2006年をピークとして、緩やかな下り坂を転がり落ちるような低迷が続いてきた。前回のEURO2016はベスト8止まり、そして2018年のロシアW杯ではついに予選敗退という屈辱にまみれている。

しかし、今大会は見違えるような復活ぶり。どん底からわずか3年あまりでここまでのV字回復を遂げた理由はいったいどこにあるのだろうか。

■見劣りするメンツ

Italy World Cup 2006Getty Images

戦力的に見れば、このイタリアは他の強豪国に比べるとむしろ見劣りすると言っていい。キリアン・エムバペ(フランス)、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)、ハリー・ケイン(イングランド)、ケヴィン・デ・ブライネ(ベルギー)といった、誰もがその名を知る超ワールドクラスは、イタリアのメンバー表には見当たらない。

例えば、2006年のドイツW杯を制したチームには、フランチェスコ・トッティ、アレッサンドロ・デル・ピエーロからアンドレア・ピルロ、ジェンナーロ・ガットゥーゾ、そしてファビオ・カンナヴァーロ、アレッサンドロ・ネスタ、ジャンルイジ・ブッフォンまで、それぞれのポジションで世界のトップを争うスター選手が顔を揃えていた。

それと比べれば、今大会のイタリアはまったく地味もいいところ。チャンピオンズリーグ(CL)で主役を演じるようなトップクラブで主力として活躍している選手も、せいぜいジョルジーニョ(チェルシー)、マルコ・ヴェラッティ(PSG)、レオナルド・ボヌッチ(ユヴェントス)くらいのものだ。

「個のクオリティ」という観点から見れば、出場国の中ではフランス、イングランド、ベルギー、ドイツに及ばず、スペイン、オランダ、ポルトガル、クロアチアと同レベルというところだろう。

では、このイタリアの強みはいったいどこにあるのか。それをひとことで言えば「チームとしての戦術的完成度」ということになる。そしてその戦術は、イタリアサッカーの伝統的なそれとは明らかに一線を画すものだ。

今でも決まり文句として使われる「カテナッチョ」(ドアにかける閂錠)という言葉が象徴するように、イタリアといえば堅守速攻、守備的なスタイルというのが通り相場だった。ボール支配にこだわらず、堅固な守備で相手の攻撃を受け止め、鋭いカウンターアタックで数少ないチャンスをモノにして結果をもぎ取る、というイメージだ。

しかし現在の「アッズーリ」(イタリア語で青。イタリア代表の愛称)は、そんなステレオタイプのイタリア像とはかけ離れたチームだ。ここまでの4試合で9得点1失点、平均ボール支配率は58.0%。常にボール支配を通じて主導権を握り、敵陣で試合を進めるという攻撃的かつ積極的な姿勢を貫いてきた。

R16ではオーストリアのアグレッシブに前に出てくるフィジカルな守備、リスクを怖れず人数をかけてくる思いきりのいい攻撃に手を焼き、自陣に押し込まれる時間帯もあった。しかしそれでも、あえて相手にボールを持たせて受けに回ることはせず、ボールを奪えば自陣からパスをつないでポゼッションで主導権を手元に引き戻そうと試みる姿勢は(2-0とリードしてオーストリアがごり押しのパワープレーを仕掛けてきた延長後半を除けば)、一貫して変わることがなかった。

■育成改革

Mancini Italy Austria EuroGetty

イタリア代表とポゼッションサッカー。この語義矛盾のような組み合わせは、ロシアW杯予選敗退の後、2018年5月に就任したロベルト・マンチーニ監督の就任と共にスタートした。マンチーニは当初から、ジョルジーニョ、ヴェラッティというヨーロッパでも指折りのゲームメーカー2人を中核に据え、ポゼッションによるゲーム支配に基盤を置くテクニカルで攻撃的なチーム作りを進めてきた。

しかしこのスタイルは、何の脈絡もなく突然導入されたものではない。U-21以下、育成年代のイタリア代表では、過去10年近くにわたって一貫して採用され、結果を残してきたモデルを踏襲しているからだ。

イタリアサッカー連盟(FIGC)は、ドイツW杯優勝からわずか4年後、南アフリカW杯でグループステージ敗退を喫したことを踏まえ、2010年夏、かつての名監督アリーゴ・サッキを総責任者とする育成年代代表の改革に乗り出した。U-15からU-21まで、育成各年代の代表に同一のゲームモデルを導入し、一貫して強化を図っていくというのがその骨子。

この育成改革プロジェクトは、2016年にサッキの片腕だったマウリツィオ・ヴィシディが総責任者の座を引き継ぐ形で現在まで継続的に進められ、着実に結果を残してきた。年代別代表の成績に基づくUEFAのユースランキングは、10年前の16位から4位まで上昇。U-17、U-19の欧州選手権では、優勝こそないものの近年は毎回のようにベスト4以上に勝ち進んでいる。

このプロジェクトで一貫して採用されてきたゲームモデルは、4-4-2や4-3-3といった特定の「システム」に縛られるものではない。そのかわり「後方からパスをつないで攻撃を組み立て、ボールと地域の支配を通じてゲームを支配する、攻撃的でコレクティブでテクニカルなサッカー」「ビルドアップによる攻撃とプレスによる守備を通じて、攻撃でも守備でも敵陣で戦うサッカー」といったプレーコンセプト、プレー原則をどんな時でも守ってプレーするというものだ。

これをはじめてA代表にも取り入れたのがマンチーニ監督だった。マンチーニは就任直後から、年代別代表でこのゲームモデルに親しんできた若手を積極的に抜擢、世代交代を進めると同時にプレーコンセプトと戦術の浸透を進めてきた。数試合の試行錯誤を経てチームが固まった2018年10月以来現在まで、31試合の無敗記録を更新中(現在12連勝中)という数字も、その成果である。

今大会で大きな活躍を見せているマヌエル・ロカテッリ、ニコロ・バレッラ、フェデリコ・キエーザ、マッテオ・ペッシーナ、ジャンルイジ・ドンナルンマといった若手は、アンダー年代から一貫してこのゲームモデルで育ってきた選手たち。まだA代表でのキャリアが少ない彼らが、それにもかかわらず水を得た魚のように躍動している理由は、まさにそこにある。そして、強豪国のほとんどが単なる「個の寄せ集め」以上ではない戦いを見せる中で、イタリアがチームとして高い戦術的完成度を見せている理由も、またそこにある。

■サッカー的国力

Italy celebrate Italy vs Austria Euro 2020Getty Images

とはいえ、EUROのような一発勝負の短期決戦では、たったひとつのプレーで決定的な違いを作り出す「個のクオリティ」が勝負を決めることが少なくない。その意味で「個」のレベルがどんどん上がってくる準々決勝以降、イタリアがどこまで勝ち進めるかはわからない。

現時点で言えるのは、このイタリアには過去10年間、育成年代代表で地道に進められてきた変革がすべて詰め込まれており、その意味で「今この国が持っているサッカー的なポテンシャルが最大限に反映されたチーム」だということ。勝つにしても負けるにしても、そこには今のイタリアサッカーが持っている可能性と限界がはっきりと現れるに違いないということだ。

育成を通したサッカーの変革というのは、結果が現れるまでに10年、15年を必要とするもの。実際、それが反映されたA代表がビッグトーナメントを戦うのは、これが初めての機会である。キエーザやバレッラやドンナルンマはまだ20代前半であり、2026年まで契約を延長したばかりのマンチーニ監督の下で、彼らが大きな果実を実らせるのはむしろこれからだろう。その意味で、どういう形で大会を終えるとしても、このEUROがイタリアにとって復活に向けた大きな、そして明るい一歩であることは確かだ。次のベルギー戦が楽しみである。

取材・文=片野道郎(イタリア在住ジャーナリスト)

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