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【徹底分析】「このイタリアには選手名より先にチームがあった」。分析官が紐解く、マンチーニが施したこととは?

イタリアとフットボールの勝利だった。数年前、そんなことを考えられた人はいたのだろうか。イタリアとフットボールは今回のEUROを通して、ずっと手を繋ぎながら、栄冠をつかんだ。そしてその舞台は、イングランドにとっては不幸続きのスタジアムであるウェンブリーでなければならなかったのだろう。イタリアはロシア・ワールドカップ予選敗退の悲劇を乗り越えて、贖罪たるEURO優勝を果たしたのだった。

この成功にはれっきとした理由がある。マンチーニはナツィオナーレのプレーを現代化して自身のフットボール哲学を植え付けたが、加算的、文体的に成功だった。現在のイタリアのパフォーマンスは素晴らしく、伝統と言えば聞こえはいいが、じつのところ老朽化が目立っていたスタイルを打ち破っている。旧来のイタリアの顔はほとんど、もっと言えば準決勝のスペイン戦だけしかのぞかせることがなかったし、それも競争心や堅牢さなど、面魂と言える性格的な部分が見えたのみである。その一方でイングランドは、イタリアと同じく自分たちのプレーを進化させようとしているが、その道を完全には信じ切ることができず、これ以上はない日に倒壊することになった。

イングランドはキックオフからわずか2分後に、もう勝利を手中に収めたと自惚れていた。これ以上の過ちなど存在しない。ルーク・ショーの喜ぶべきはずのゴールが、彼らをダメにしてしまったのだ。

■誘惑

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イングランドの出だしはこれ以上ないもので、サウスゲートの狙いはまさしく的中した。彼は3バックを敷いて、トリッピアーとショーにウィングバックを務めさせると、スペインがイタリア戦でダニ・オルモをそう使ったように、ハリー・ケインをトップ下として振る舞わせている。その狙いは、バレッラとヴェッラッティの背後を突くことでジョルジーニョを動揺させ、そこからボヌッチとキエッリーニを本来いるべきゾーンから引き離すことだった。加えてサウスゲートは、マンチーニが守備のシステムでサイドより中央を重視していることも把握。そのためにトリッピアーとショーは、キエーザとインシーニェが守備の手を緩めることがあれば、はっきりとした道を見つけられた。

イングランドはこの前提から傑出したゴールを導き出した。が、その見事なパフォーマンスはわずか15分しか続かなかった。7試合中6試合をホームで戦うなど今大会を通じて受け続けたような完全なる追い風の中で、一気に失速した。ボールを、フットボールを軽んじて、自陣に閉じこもって過ごしてしまった。

イングランドの後退、イタリアの旋回によって試合の様相は一変している。サウスゲートはコンパクトな1-5-3-2(または1-5-4-1)を使って自陣で守ることを選択。手にした利益を守る誘惑に負け、イタリアのリアクションを呼び起こした。ピッチ上の指揮官はヴェッラッティだ。中央及び左サイドで、いつボールを受け取り、飛び込んでくるフィリップスをどう罰すればいいのかを理解していた。まず左に開いて、次にスターリングとフィリップスを迷わせるための高さを獲得。そうしてイングランドを前へ誘き寄せた。ヴェッラッティ、それと少し遠慮がちながらジョルジーニョもそうした駆け引きを行ったことでイタリアの勢いは増し、怖気づくイングランドのプレーエリアはGKピックフォードにどんどん近づいている。

エメルソンとインシーニェはヴェッラッティと連係を取り、インシーニェ個人の仕掛けもボディブローのように効いた。イタリアでケチがつけられるのは、バレッラの消えっぷりとインモービレのサポート能力の欠如か。インモービレはマンチーニが志向した1-4-3-3仕様のポジショナルな攻撃で、最も苦しんでいた選手だった。ラツィオではトランジションの中で輝きを放っていたために無理もない話かもしれないが、大会を通してハマっていなかった。

■采配

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ハーフタイム後、サウスゲートは何も変化を起こさず。それは、あまりにも失望的なことだった。結果だけを見た順応主義は、ただ自滅の道を歩むだけ。そしてイタリアのプレッシングが、そうしたイングランドに何一つ物言うことを許さなかった。マンチーニはケインに対する圧のかけ方を調整して、イングランドが彼をサイドに動かすよう仕向ける。すると、サウスゲートは本当にそのようにしてしまい、ケインをビルドアップの出口として使えなくなった。イングランドは中央でもサイドでも前進する術を失い、ディ・ロレンツォとボヌッチの間で面白い動きをするマウント以外は効果的なプレーを見せられていなかった。確かに現代フットボールにおいてサイドバックとセンターバックの間を突くプレーは定石であり、うまく利用できればセンターバックを引きつけて、空いた中央レーンをチームメートに使わせることができるのだが……。それでも、スコアがタイに戻るのは時間の問題だった。

イタリアは時間が経つにつれて、より快適にプレーすることができた。マンチーニはクリスタンテとベラルディを投入。クリスタンテはスペースを狙う縦の突破で攻撃に深みを与え、ベラルディの起用はキエーザを逆サイドへと動かし、インシーニェを偽9番に仕立て上げた。イタリアはこの交代策によりアタッキングサードの崩しのオプションを増やし、ボヌッチがCKから決めたゴールによって優勢ぶりをしっかりとスコアに表している。

■強さ

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サウスゲートはイタリアの同点弾が決まる前に何か策を講じるべきだった。しかし、すでに時遅しで、なおかつその後の策は無益なものだった。彼は5バックを解体して、ウォーカーを右サイド、サカを前に置く1-4-1-4-1にシステムを変更。最も安定していたライスをヘンダーソンに代えてしまったのも奇妙なことだ。昏睡状態のイングランドで唯一希望を持てたのはグリーリッシュくらいもので、もはや何かを望めるようなチームではなかった。

イタリアはその後も主導権を握り続けた。キエーザが負傷後退を強いられ、その後には疲労困憊のヴェッラッティもピッチを後にしたが、以降もそのプレーぶりは変わらず。マンチーニにとってはヴェッラッティ、キエーザ、インシーニェがロカテッリ、ベルナルデスキ、ベロッティになろうとも、さして変わらないようだった。ベロッティはフィリップスの背後で見事なプレーを見せ、延長戦を素晴らしいものとしていたし、それがこのイタリアの素晴らしいところなのだろう。このナツィオナーレは選手名より先にチームがある。確かに、PK戦ではGKドンナルンマが凄まじい活躍を披露したが、それでも彼らは強かった。それも魅力的な、痺れさせるような強さだ。

イタリアはただ53年ぶりにEUROを制したわけではない。彼らはフットボールをプレーした。それこそ私たちが、こうした大会で真に必要としているものにほかならない。

文= ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間 慎一郎

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