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指揮官の信念に“日替わりキーマン”の誕生、圧倒的大歓声…「たくましい」イングランド、いざ55年ぶりの決勝戦へ

■55年ぶりのファイナル

イングランドが、欧州No1の称号をかけて聖地ウェンブリーでイタリアと激突する。彼らがEURO(ユーロ)の決勝に勝ち進むのは初めてのことだ。A代表の主要国際大会のファイナルとなると、母国で世界の頂点に立った1966年ワールドカップ以来、実に55年ぶりのことになる。

今大会のイングランドは「強い」というよりも「頼もしい」「たくましい」といった表現が似合う。ここまで失点は準決勝のデンマーク戦の直接フリーキックによる1点だけ。守護神ジョーダン・ピックフォードを中心に安定した守備を誇っているのだ。

しかし、開幕前には不安要素もあった。最終ラインの主軸であるDFハリー・マグワイアがケガの影響でグループステージ第2戦まで欠場。さらに副キャプテンのMFジョーダン・ヘンダーソンも2月から離脱しており、コンディションが不安視された。

加えて、5月末のチャンピオンズリーグとヨーロッパリーグの決勝にイングランド勢が3チームも勝ち上がり、チェルシーとマンチェスター・シティに所属する7選手に至ってはEURO直前の親善試合に一度も出場することなく“ぶっつけ本番”となったのだ。

■サウスゲイト監督の揺るがない信念

england-southgate-euro2020-202107100830(C)Getty Images

だが、2018年W杯のベスト4、2019年ネーションズリーグの3位と着実にチームを作り上げてきたガレス・サウスゲイト監督に焦りはなかった。「通常ならば親善試合のどちらかでは本大会のベースとなるチームで戦いたいと思うだろう。しかし我々は選手が必要とする心理的、そして肉体的な休息の方を重要視した」のだ。

追い風もあった。コロナ禍による登録メンバー枠の拡大である。どの国にも負けない選手層を誇るイングランドにとって「3名増」は大きなアドバンテージになった。おかげでコンディションを整えながら勝ち進めるだけの戦力を揃えられたのだ。

グループステージ初戦のクロアチア戦では、いきなりチェルシーとシティの選手を計5名も先発起用した。するとシティのラヒーム・スターリングが試合唯一のゴールを決めて監督の期待に応え、最難関とされた試合を制して白星スタートを切れたのだ。これが3ポイント以上の価値を持つのは明白だった。イングランドがEURO本大会の初戦で勝利するのは、出場10大会目にして初めてのことだった。

続くスコットランド戦は、少し受け身に回って退屈なゴールレスドローを演じた。ファンは英国決戦という特別な試合で攻撃的なサッカーを期待していたが、「形を崩してでも前に出ることをファンが切望している試合は難しい」と監督は語り、「我々の最初の目標はグループ突破。1試合だけでなくトーナメント全体を見越す必要がある」と説明した。

サッカー協会に従順な“イエスマン”や“ミスター・ナイス・ガイ”と過去に揶揄されたこともあるサウスゲイトだが、彼には世論に流されない強い信念がある。それは、大会前の親善試合で結果を出してスタメン起用の待望論が出ていたジャック・グリーリッシュの起用法に表れている。グループ突破が決まっていた第3戦のチェコ戦(1-0)では先発起用したものの、それ以外では交代の“切り札”として使っているのだ。短期決戦だからこそ、他のウィンガーとはテンポが異なるプランBを用意しているわけだ。

注目の集まったベスト16のドイツ戦では、昨年まで多用していた3バックを採用してミラーゲームを仕掛けた。前半は高いDFラインの背後を狙われるなど危ない場面もあったが、右ウィングのブカヨ・サカが狭いスペースでボールを保持して落ち着きをもたらすと、イングランドは後半の2得点で宿敵を退けた。

■日替わり“キープレーヤー”

Bukayo Saka Gareth Southgate England Euro 2020Getty

サカを筆頭に、日替わりで“キープレーヤー”が誕生したのもイングランドの強みだ。準々決勝のウクライナ戦では左SBルーク・ショーが2アシストで4-0の完勝に貢献。ブラジルの英雄ロベルト・カルロスにちなんで「ショーベルト」とチームメイトに冗談を飛ばされるほどの活躍だった。準決勝のデンマーク戦では、決勝トーナメントに入って復調した主将のハリー・ケインがチームを引っ張った。

前半は縦に速いデンマークに先手を許す苦しい展開になったが、FWケインが普段よりも下がって中盤でボールを収めた流れを引き寄せると、同点ゴールの起点になった。DFラインからパスを引き出すと、反転した瞬間に完璧なスルーパスを繰り出してオウンゴールを誘発。延長戦では“幸運な形”で得たPKを一度は止められながら押し込んでチームをファイナルへ導くとともに、グループステージ中は不発で批判を集めながら、気づけば3戦連続ゴールで得点王を狙える位置にいる。

もちろん、彼らだけではない。デンマーク戦で15.27㎞も走ったMFカルヴィン・フィリップス、かゆいところに手が届くMFデクラン・ライス、そして今大会のMVP候補筆頭のスターリングなどは常に及第点以上の活躍を見せている。

今の彼らは、監督の手腕だけに頼らず、状況に応じて選手個々が能力を発揮する、まさに「頼もしい」チームなのだ。さらにマンチェスター勢(ユナイテッドとシティ)の協調というクラブの垣根を超えたチームの絆も育まれている。

■Football will...

England fans, Euro 2020Getty Images

そして、彼らには圧倒的なファンの後押しもある。イングランドは準々決勝を除けば全て本拠地ウェンブリーで試合ができている。準決勝では、後半途中からデンマークが失速するなか、大声援を背に受けたイングランドの足は止まらなかった。コロナ禍の影響で、対戦国のファンは英国在住者を除けばほとんど応援に来られないのだ。決勝戦でも、特別にチャーター便でイタリアからやってくる熱狂的なファンは1000人に限られるという。

無論、ここまで組み合わせに恵まれてきたイングランドにとって、代表戦で33試合も負けていないイタリアは間違いなく過去最強の敵となる。それでも、イングランドはウェンブリーで開催されたW杯とEUROの本大会は無敗を誇っている(11勝5分け)。一度だけPK戦での敗戦があるが、今回に限ってはその心配も不要だろう。EUROの歴史において、一大会で2度もPK戦に勝利したチームはいない。スペインとの準決勝をPK戦の末に勝ち上がっているイタリアは、その運を使い果たしているかもしれない。

それならば、もう断言しても良いだろう。「Football will come home」と。

文=田島大

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