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バルサ撃破でEL制覇へ突き進むフランクフルト、カンプ・ノウ勝利の凱歌は熱狂とともに…

 アイントラハト・フランクフルト(街名との混同を避けるため、アイントラハトと表記)がバルセロナを下す。率直には想像しづらい予測を、フランクフルトの市民とサポーターたちは確信的に信じていたように思う。

 UEFAヨーロッパリーグ(以下、EL)準々決勝第1戦が始まる1週間前から数えて約半月、この街ではそこかしこで試合の情報が流れ、その一挙手一投足を追いかけていた。それはチームの動向だけに及ばず、イースター期間突入のタイミングで組まれたスケジュールも影響してスペイン・バルセロナ行きの航空チケットが売れに売れまくっている状況や、当地の宿泊施設を物色するYouTubeの動画企画が乱立する事態からも、それは容易にうかがえた。如何にこのクラブを支える方々がELに心血を注いでいるのか。それを実感する日々だった。

 4月7日、『ドイチェ・バンク・パーク』でのEL準々決勝第1戦が終了した直後、フランクフルト市内のそこかしこから深い溜め息が漏れたように感じた。アンスガー・クナウフの強烈な右足シュートが炸裂したとき、アイントラハトは確かにバルセロナを圧倒していたし、その周囲を囲むサポーターもまた、勝利を確信したはずである。何より、その試合展開がチームとサポーターの自信を深めていた。ショートパスを駆使するバルセロナの攻撃はアイントラハトの面々が浴びせる力強いプレス&チェイスの前に無効化され、逆にホームチームが繰り出す鋭利なカウンターに晒されて何度も窮地に陥っていた。チャビ・エルナンデス監督の表情からは余裕が消え、焦燥の念が深く滲んでいた。

Knauff Eintracht Barcelona Europa LeagueGetty

 それでもカタルーニャの雄のアイデンティティは息づいていた。途中出場のウスマン・デンベレの縦パスを受けたフェラン・トーレスが同じく途中出場のフレンキー・デ・ヨングとのワンツーリターンから突き刺したゴールは、バルセロナが築き上げてきたティキ・タカの理念が色濃く反映されていたように思う。

 アイントラハトは78分に右ストッパーのトゥタが2枚目のイエローカードを掲示されて退場を余儀なくされ、アディショナルタイムを含めて残り約15分間を10人で戦う窮地に陥りながらも第1戦を1-1のドローで終えた。この時点でのアイントラハト側の感想はずばり、勝利に値するゲームだった。だからこそ試合終了直後のスタジアム、そしてフランクフルト市内広域に安堵と落胆が入り混じる雰囲気があった。

 そんな中、バルセロナ戦における鎌田大地は“マジシャン”の色香を醸していた。可動域の広い足首を駆使したトラップはジェラール・ピケやエリック・ガルシア、はたまた交代出場したクレマン・ラングレといったDF陣を混乱させたし、アイントラハトの主な攻撃手段であるフィリップ・コスティッチやクナウフを主軸とするサイドアタックを促進させる“クッション役”としても効果的なアクションを施していた。スペイン、そしてドイツの中で特殊な挙動を見せる鎌田のプレーメイクは、それを十全に知るアイントラハトのチームメイトの支えになり、一方でバルセロナの面々には戦慄する脅威として成り立っていた。したがってバルセロナへと移る第2戦も、鎌田がゲームに変化をもたらす期待は確かに高まっていた。

■「すべての人々に楽しむ権利」があった大一番

Galería: aficionados del Eintracht Frankfurt toman el Camp Nou y montan una fiesta en BarcelonaGetty Images

4月14日、第2戦当日の午前中に、熱狂的なアイントラハトサポーターであるドイツ人の友人から電話が来た。

「もうバルセロナの街にいるよ! フランクフルト国際空港から旅立つときに、すでに多くのサポーターたちと出会って、街中に入ってからもアイントラハトのマフラーやユニホームを着た奴ばかりを見るよ(笑)。たぶん今日の試合には3万人くらいのアイントラハトサポーターが来るんじゃないかな」

 バルセロナのホーム『カンプ・ノウ』は99,354人収容の大スタジアムだが、それでもフルハウスで約3割のアウェーサポーターがスタンドを埋める姿は圧巻だ。アイントラハトのサポーターたちは2018-19シーズンのELで準決勝に勝ち上がるまでの過程でもイタリア・ミラノ、ポルトガル・リスボン、そしてイギリスのロンドンへ大挙詰めかけて我がクラブへの忠誠心を示し続けた。

 そして今季もスペインのベティス、そしてバルセロナと、輝かしいEL戴冠への道のりを堂々と突き進んでいる。ただし、公にはアウェークラブのアイントラハト側には約5,000枚のチケットしか充てがわれていない。フランクフルトから現地へ向かったサポーターの中にはチケットを入手できる確約が得られないまま飛び立った者もいた。すでにチケットを手にしていた先述の友人が言う。

「最悪カンプ・ノウに入れなくてもいいんだよ。この試合に参加する権利はスタジアムに居る人たちだけがあるわけじゃないから。バルセロナまで行って街を練り歩いている人、そしてフランクフルト市内のバーやレストランのテラスでテレビを観ながら応援している人、それらすべての人々が、今日の試合を楽しむ権利があると思うんだよね」

 フランクフルト在住の筆者は、あえてバルセロナには赴かずに街の雰囲気を体感するためにフランクフルト中心部に向かった。住居から地下鉄に乗った時点で、すでにアイントラハトのマフラーを巻いて気勢を上げている人々が数多くいる。事前に予約した試合が観られるレストランへ行くと、飛び込みで来たお客が店員から入場を断られている。この後、このレストラン周辺が熱狂の渦に包まれることを、筆者を含めたこの辺りの人々は誰も知らない。

■鋭いカウンターの姿勢を崩さず

Kostic celebrando el 0-3Getty Images

 EL準々決勝第2戦の試合開始を告げるホイッスルが鳴った直後、アイントラハトの選手たちがバルセロナ陣内に殺到していった。アウェーサポーター、そして地元フランクフルトで見つめる者たちの思いが伝播したかのようなチームの迫力に、否が応でもボルテージが高まる。相手ペナルティエリア内でイェスパー・リンドストロムがエリック・ガルシアに後ろから引き倒されてPKを得るまでの数分間はアウェーチームの怒涛の攻撃が続いていた。“悪魔の左足”を持つフィリップ・コスティッチのPKを心配する必要は一切なく、試合開始からわずか4分で先制したアイントラハトは明確に今試合のゲームプランを定めた。

 3-4-2-1改め5-4-1のディフェンスブロックを築いたアイントラハトに、バルセロナの面々は成す術がなかった。アンカーのセルジ・ブスケッツが通そうとするパスコースには常にFWラファエル・サントス・ボレが立ちはだかり、それに加えてシャドーの鎌田大地とリンドストロムもバルセロナMFのペドリとガビへ入る縦パスを遮断している。バルセロナはやむなく遠回りのサイドエリア攻略を選択するが、ここにはフランクフルト自慢の5バックが立ちはだかっている。

 しかもアイントラハトの5-4-1ブロックは自陣で亀のように息を潜めているわけではない。バルセロナの安易なショートパスをカットすると一点、凄まじいスピード&パワーでスーパーカウンターを発動する。自陣奥深くから敵陣ゴール前までの約80メートルの距離が短く感じる、通常はあまりのロングディスタンスに辟易して専守防衛に走る傾向が強まるが、EL準々決勝でバルセロナと対峙したアイントラハトは第1戦、第2戦ともに好戦的な姿勢を崩さなかった。

 一方で、36分の2点目は相手陣内で激しくアプローチして高速攻守転換した末にボレが強烈なミドルシュートを突き刺した形だった。何処でボールを得るか、何処で力を込めるか。それはボールポゼッション率でホームチーム74パーセント、アウェーチーム26パーセント、シュート数10本vs14本、枠内シュート4本vs7本という数字に答えがある。アイントラハトは自らのストロングポイントを最も表出しやすい形でゲームをコントロールした。ボールを“握る”ことだけが勝利を得るための最適解ではないことを示した意味において、この日のアイントラハトはサッカーという競技の多様性と魅力をも提示してくれたように思う。

■“現実的な夢”へ突き進む

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 そんな中、アイントラハトのシャドーポジション、鎌田は実に効率的なプレーを実践していた。ボールに関与する機会が極小な中で、鎌田は常にアクティブな存在であり続けた。シンプルなワンタッチ、正確無比なフィード、相手の逆を取るトラップ、突如発動するカットインシュート、そしてコスティッチのダメ押しゴールをお膳立てした絶品のアシストパスと、ダイレクトプレーを駆使するチームの中で、鎌田は異質な“マジック”で融合を果たしていた。

 アイントラハトの戦いぶりは今冬のカタール・ワールドカップでの日本代表の戦いを占うかもしれない。スピード&パワーを全面に押し出すプレースタイルの中でも、日本人の特性である“マジック”を発現させる余地はある。強固なインテンシティと卓越したスキルの共存は変幻自在なプレーテンポへと昇華され、それが相手の脅威になり得る。鎌田はそれをELだけに留まらず、ドイツ・ブンデスリーガの舞台でも日常的に体現してきた。その日々の取組みがバルセロナ戦という重要な一戦でも生きた。これは誇るべき成果であり、日本が世界の列強と伍して戦う上でのヒントにもなる。

3点ビハインドで進退窮まったバルセロナは最終盤にブスケッツのミドルとメンフィス・デパイのPKで追撃したが、すでに雌雄は決していた。アウェーサポーターの壮大なコールが轟くカンプ・ノウで、鎌田、途中出場した長谷部誠を含めたアイントラハトの全選手が勝利の凱歌を揚げ、それと同時に、フランクフルトの街のそこかしこで、祝砲に模した車のクラクションが鳴り響いた。

 アイントラハトにとってELは現実的な夢だ。たとえUEFAチャンピオンズリーグへの挑戦権を得られなくとも、その情熱は絶えない。そのタイトルを希求する者が正当な結果を得た。意義ある旅路はこの後、イギリス・ロンドンを経由する。EL準決勝の相手はイングランド・プレミアリーグのウェスト・ハム。しかも準決勝は第1戦がアウェー、すなわち第2戦の決着の場はフランクフルトの本拠『ドイチェ・バンク・パーク』だ。今はまだ、スペイン・セビージャでの決勝は頭の片隅にも置かない。アイントラハト・フランクフルトを支える者たちは、まずはホームタウンで、カンプ・ノウ以上のパワーで相手を叩きのめす準備を進めている。

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