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「試合に出られない時間があったから、今の自分がある」。コヴェントリー・坂元達裕がどの監督にも起用される理由

「海外移籍なんて考えたこともなかった。日本国内で生き残ることだけだった」。そう語る坂元達裕は、ベルギーを経て今はイングランド・チャンピオンシップ(2部)コヴェントリーでプレーする。25日のミルウォール戦では待望の欧州移籍後公式戦初ゴールも決めた。サッカーエリートの人生を歩んできたわけではない。しかし、日本、ベルギー、イングランド、それぞれの国で結果として「使われる」選手になっている。その理由はどこにあるのか。話を聞いた。

◼︎海外へ目線を向けた発端は

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 FC東京U-15むさし出身。U-18に昇格ならず、前橋育英高でサッカーを続けた。高校卒業の段階で声はかからず東洋大に進んだ。プロになったのはJ2のモンテディオ山形、2019年のことだった。初年度に頭角を現すと、翌20年にJ1・セレッソ大阪に移籍し、ほぼフル出場を遂げる。翌21年に日本代表に初招集され、Aマッチデビューを果たした。それから2年が過ぎた今、コヴェントリーで先発に名を連ねている。

――海外移籍を考えたのはいつごろですか?

 僕は日本代表を目指せる選手でもなかったですし、J2の山形でスタートしました。年代別代表に入ったこともありません。それまではとにかく生き残っていこう、日本で生き残っていこうという気持ちでやっているだけでした。

 でも、セレッソ2年目の年に初めて日本代表に選んでいただきました。そこで、海外でプレーしている選手たちの強度の高さや球際の強さに衝撃を受けたんです。それまでは「海外に行きたい」という気持ちはほとんどなかったのですが、そこから「海外に挑戦したい」気持ちが強くなりました。

――22年冬移籍でベルギー1部・オーステンデに移籍します。順応はすんなりいきましたか?

 難しかったですね。サッカーが全く違いました。プレーのスピードであったり、球際の強さであったり、日本とベルギーどちらが上とかではなく、やはりサッカーの種類が違うという印象でした。僕は両サイドのウイングバックでしたが、プレースピードに慣れることと、めちゃくちゃ速くて体が強い外国人選手と対峙しなくてはいけなくて、最初は苦しみました。

――ベルギーでは複数のポジションをこなしたそうですね。

 チームがセンターバック3枚だったので、ウイングバックをやった事情もちろんあります。ただ、個人としても、いろんなところができることを自分の良さにしようと思いました。その考えは日本にいた時はなかったのですが、ベルギーに移籍してチームがなかなか勝てず、試行錯誤していく中で、僕もいろんなポジションを試されました。その過程で監督に、基本的にどこでもできる選手であることを示そうとしました。

――やろうと思っても簡単にできることではないと思います。

 僕は頭がいい選手でもないですし、いろんなところに気を遣いながらプレーする性格なので、新しいポジションで何をするべきかをすごく考えました。ただ、ベルギーでは勝てない試合が多く、結局2部に降格してしまいました。苦しい時間のほうが多かったです。

■1シーズンで3回の監督交代

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 ベルギー時代の話を振り返ると、何度も何度も「苦しかった」と口にした。わずか1シーズンの間に3回監督が交代し、チームは2部に降格。語学の課題もあった。「折れずにチームに貢献し続けるか」だけを考えた1年を経て、新天地に臨むことになる。そして、ここでも持ち前の柔軟性を発揮する。

――この夏、コヴェントリーに移籍しました。

 降格した心苦しい思いもありました。でもやはり挑戦し続けたい気持ちが強く、チームを探すなかでオファーをいただきました。世界最高のプレミアリーグがあるイングランドにいつかは行きたい気持ちがあって。僕は海外のサッカーをすごく見るタイプではないのですが、2部でもレベルが高いことは見たり聞いたりしていましたし、そんな舞台に挑戦できるということに気持ちも高まりました。すごく嬉しかったです。

――最初は出られませんでしたが、次第に出場機会をつかみます。実際にプレーしての印象は?

 イングランドは日本ともベルギーとも全然違いました。スピード感、強度が1段階、2段階上がった感覚です。ガッツリ削ってきます。リーグのレベルに応じるように、どのチームもレベルが高い。毎試合、難しい中で試合をしています。

 身体能力が図抜けていてテクニックもあって、体も強くて、スピードも強い、そういった選手たちがゴロゴロいます。そんななかで、僕のような体の小さい選手は工夫しないと簡単にボールを取られてしまいます。子供と大人みたいなやられ方をするので、そこをテクニックや工夫でいかに対等にそれ以上に戦えるかを意識しながらのプレーは楽しいです

――特にここは通用すると感じたところはありますか?

 ドリブルですね。ずっと自分の武器にしてきたので、そこは通用する感覚はあります。ベルギーで守備的なウイングバックを中心にやってきましたが、コヴェントリーではトップ下も少しずつ増えています。真ん中でボールを繋ぎながら、間に顔を出して、チャンスを作る。今までの自分になかった新しい一面を楽しみながらチャレンジできています。

 もちろん試行錯誤しているのも正直なところなんですけど、振り返るとチームによってポジションを変えてやってきましたね。日本ではサイドに貼るウイングでとにかく仕掛けていましたし、ベルギーでは守備を求められました。今は間で受けて前を向いたり、ボールを捌いたり。「このポジションでは何が求められるのか、何をするべきか」「監督からは何を求められているのか」を頭の中で整理しながらやってきました。それは今も同じです。

――ファンが選ぶMOMにも選出されました。

 イングランドのサポーターはめちゃくちゃ熱く人数も多いです。今まで感じたことのない熱量の中でサッカーができていますし、期待も感じます。ただ、前目のポジションをやるなら結果を求められますし、そこを突き詰めていかないといけない。MOMに選んでもらいましたが、個人的には足りないことばかりです。監督やチームメートに自分のできることを示して、出場時間を伸ばして絶対的な存在になっていかなきゃいけないなと思っています。

■誰からも使ってもらえること

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 坂元の経歴を振り返ると、プロになって以降、コヴェントリーのマーク・ロビンズ監督で8人目の監督になる。山形では木山隆之監督、C大阪の2シーズンではロティーナ監督、レヴィー・クルピ監督、そして小菊昭雄監督。オーステンデ時代は1シーズンに監督が3回代わっている。

――坂元選手は最初試合に出られなくてもどのチームでもどの監督からも起用されています。この理由はなぜだと思いますか?

 絶対に必要なのはハードワークや諦めない気持ちだと思います。ハードワーク、球際、守備をしっかりとサボらずにやる選手が嫌いな監督はいないと思います。その大前提でやり続けることが一つ。あとはその監督が何を求めているのか、どういうことが好きな監督なのかを見るようにしています。それに合わせてプレーの仕方やポジションの取り方を変えてきました。その点が一つなのかなとは思いますが、どうでしょう?

――監督の信頼をつかんでイングランドまでステップアップしてきたと思いますが、試合に出られない時は苦しいと思います。そんなときの心構えを教えてください。

 中学のころから試合に絡めない時間がたくさんあった中で、プロになれました。逆に試合に絡めない時間があったから、今の自分があるとも思っているんです。試合に出られなくなると態度に出て練習からなかなか力が入らなかったり、適当にやったりする選手はいると思います。

 でも、それをやっていたら、試合にはそのまま絡めなくなってしまいます。苦しい時間こそどれだけ自分のメンタルを奮い立たせられるかが本当に大事なので。今まで奮い立たせ続けてきたから、壁を乗り越えて来られました。メンタル的に折れないことが1番。そのなかで、今の自分に何が足りないのか、何をするべきなのか意識しながらプレーすることが大事だなっていう風に思っています。…なんか、全然話まとまってないですね。

――その姿勢が、日本代表、そして海外につながりました。サッカー人生を変えるきっかけにもなった日本代表へは復帰を目指しておられると思います。初招集された当時と今とで気持ちの変化はありますか。

 海外に来て、日本代表で初めて感じたプレッシャーや強度の高さが今はアベレージになっています。そういった当たり前の強度の中でプレーできていること自体が成長だと思います。もちろん、代表にもう一度入りたい思いはあります。今このリーグでチームとしても個人としても結果を残すことができれば、見えてくるはずです。とにかく今はこのチームでやっていくだけです。

――今の代表でいうと、ポジションを争う攻撃的MFは、三笘薫選手、久保建英選手、伊東純也選手など錚々たるメンバーです。ご自身がそこに割って入るためには何が必要でしょうか?

 彼らはそれぞれの(クラブ)チームで、しかもトップリーグで絶対的な存在になっています、これだけ攻撃陣のレベルが高い日本代表って本当に今までにないレベルだと思います。クラブで結果を残して活躍している選手たちが集まっている日本代表ですから、そこに食い込んでいくのは簡単ではないことは分かっています。そのためにやることは一つで、自分の良さをもっともっとこのチームで出して結果を出すこと。ここで頑張っていくだけです。

――最後に山形、C大阪、日本のファン・サポーターにメッセージをお願いします。

 山形が獲ってくれていなければ、今の僕は間違いなくいません。C大阪は、僕を海外に送り出してもらって本当に感謝しています。この2つのチームでなければ僕はここに来られていない。この2チームに行けて運が良かったと本当に感じます。だからもっともっと活躍して成長していきたいので、なかなか配信もなく見られる試合は少ないかもしれないですけど、少しでも気にしてもらえたら嬉しいです。

支えてくれる家族とともに過ごす「こぢんまりとした街」コヴェントリーを歩くと、ファンからもよく声をかけられ、熱い思いを伝えられるという。「試合に出られない時もありましたが、それ以上に得られるものが多くて。本当に充実しています」と笑顔を見せる。

 なぜどの監督にも重用されるのか――。例えば攻撃的な選手であれば攻撃でアピールしようとするが、坂元はそうではない。それ以外の部分でチームに貢献する。その姿勢が監督の信頼を獲得し、出場機会につながってきた。いったん出場機会をつかめば、そこから自分の良さを出していく。なかなか試合に出られない時でも、自分の苦手な部分を要求された時にも、それに懸命に応えようとする。その姿勢が坂元達裕という選手の極めて強烈な個性なのかもしれない。

取材・文=吉村美千代(GOAL編集部)

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