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買収から1000試合…アブラモビッチが変えたチェルシーの運命

日曜日にジョゼ・モウリーニョ率いるトッテナムをスタンフォード・ブリッジに迎えた試合は、チェルシーのロマン・アブラモビッチ体制1000試合目だった。

アブラモビッチは2004年の夏にジョゼ・モウリーニョを監督としてチェルシーに迎え入れると、自らを「スペシャル・ワン」と称したこのポルトガル人は就任1年目にして、クラブに1955年以来の国内リーグタイトルをもたらした。

また、結局のところアブラモビッチは2003年にチェルシーを1億4000万ポンドで買ったわけだが、その決断の前にはスパーズを買収することも視野に入れていたのだ。

当時のチェルシーは8000万ポンドもの借金を抱えていたが、アブラモビッチにとっては魅力的なクラブだった。それは彼らがチャンピオンズリーグ出場権を有していたことだけでなく、当時のオーナーであるケン・ベイツが、完全売却の交渉に前向きだったからだ。報道によると、アブラモビッチがスパーズの最高権力者であるダニエル・レヴィに接触した際には、部分的な経営権の売却しか提案されなかったという。

Reece James Son Heung-min Chelsea vs Tottenham Premier League 2020-21Getty Images

そして、アブラモビッチがこの西ロンドンのクラブの経営権を握ったことが、イングランドひいてはヨーロッパのフットボールの歴史を変えてしまったといっても過言ではない。

「突然、僕らにマンチェスター・ユナイテッドやアーセナルとプレミアリーグやチャンピオンズリーグで渡り合えるほどの金が舞い降りてきたんだ」

そう語るのはチェルシーを2003-04シーズンのチャンピオンズリーグ出場に導くゴールを挙げたイェスパー・グレンケアだ。オーナーが変わったことで大きな変化があったと証言している。

「過去にオーナーが変わるという経験をしたことがなかったから、特に何かが大きく変わるとは思っていなかった。だけど、すぐにこれが本当の話で、クラブに大金が流れ込んでくることが分かったんだ。これから何が起こるのか、誰にも想像できなかった。すぐに、各紙はチェルシーに加入するかもしれない選手と監督の名前で埋め尽くされたよ。すべてのポジションに新たな選手の名前が挙がっていたね」

「当時のプレシーズンで、自分のポジションを確保していると思っていた選手はクラブの中に一人もいなかったと思うよ。トレーニングキャンプは山に囲まれた、イタリアの小さな街で行われたんだ。そこに選手が顔を出すカフェがあってね、いつも代理人やメディアでごった返していたよ。誰にもこれから何が起こるか分からなかったから、選手たちが腰を下ろし、代理人に何をすべきか聞いていた姿が印象的だったね」

そして実際に起こったのは、センセーショナルな出来事だった。アブラモビッチは経済力にものを言わせて移籍市場で前代未聞の規模での支出を行うと、アーセナルとマンチェスター・ユナイテッドをプレミアリーグの頂点から引きずり下ろしたのだ。

■資金力は一気に欧州トップへ

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そして、チェルシーは一瞬にして、世界で最もリッチなクラブとなった。

当時、レアル・マドリーの会長を務めていたラモン・カルデロンはアリエン・ロッベンとの交渉を例に挙げ、チェルシーを大きくしたアブラモビッチを「タフな交渉人」と表現している。

「彼とはロッベン(2007年にレアル・マドリーに移籍)の契約について交渉する必要があった。彼は移籍金について最初の金額を定めて、そこから1ユーロたりとも下げようとはしなかったんだ。アブラモビッチは自分とクラブに必要なものをしっかりと理解している、優秀でタフな交渉人だ」

カルデロンが「良好な関係を築いている」とも話したアブラモビッチは交渉人としてだけではなく、クラブを愛する会長としても稀有な存在であったようだ。カルデロンは敬意を払いつつ、ライバルとして認識していたという。

「彼はクラブを導くためにあらゆる才能や能力を用いて、チェルシーをヨーロッパやプレミアリーグの中で上位争いができるチームにするために、とても優秀な選手を集めたんだ」

「ロマンは彼のクラブを世界有数のクラブにするために、大金を投資してリスクを冒す必要があった。その行動は私を苛立たせるよりもむしろ、市場に大きなライバルが現れたことを認識させてくれた。ライバルの存在はいつだってポジティブなものなんだ」

「このスポーツは私たちの生活のあらゆるエリアに浸透しているから、良くも悪くも影響力は大きい。だからフットボールで大きな金が動くことは、いたって普通のことなんだよ」

だが、アブラモビッチに対する批判がないわけではない。バイエルン・ミュンヘン代表取締役のカール=ハインツ・ルンメニゲは、こうした億万長者による恩恵や、儲かるテレビ放映権の取引が、チェルシーや他のプレミアリーグのクラブが移籍市場で費やすマネーを膨張させていると感じている。「私はこうしたアブラモビッチの度を越した行為や、外国でのテレビ放映権の取引について、欧州連合(EU)が止めに入ってくれることを願っているよ」と苦言を呈した。

しかし、EUは干渉してこなかった。実際、イングランドのほとんどのクラブが放映権料によって、資金力をつけていったことも影響している。チェルシーに限らず、多くのクラブが移籍市場で多くのお金を使うことができていたのだ。それでも、チェルシーの資金力は別格だった。

■気前の良さも魅力

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当時はマンチェスター・ユナイテッドでさえ、トッププレーヤー獲得のためにチェルシーと争うのは難しい状況だった。

伝説的監督であるサー・アレックス・ファーガソンは、アブラモビッチ体制が始まってからの数年で、ロッベンだけでなく、ミヒャエル・バラック、ジョン・オビ・ミケル、マイケル・エッシェンといった望んだ選手たちを、ブルーズにかっさらわれることとなった。

エッシェンにいたっては17歳の時にユナイテッドのトライアルに合格していたにもかかわらず、最終的な契約には至らず、結局このガーナ代表MFは2440万ポンドでチェルシーに加入した。エッシェンは「チェルシーを選んだ時、ユナイテッドからのオファーももらっていたんだけど、納得のいく提示をしてくれたのはチェルシーだったんだ」と決断の理由を説明している。

その一方で、アブラモビッチの散財によって恩恵を受けたイギリスのクラブもある。たとえばウェスト・ハムは、2003年にプレミアリーグ降格となって以来経営難に直面していたため、チェルシーが2人の若く優秀なプレーヤーを引き抜いてくれて助かったはずだ。

実際、ジョー・コールとグレン・ジョンソンの取引は、ハマーズ(ウェストハムの愛称)のバランスシートを改善した。特にジョンソンについては、彼がトップチームでの出場がわずか24試合に限られる右サイドバックであったが、チェルシーは彼の市場価値をはるかに上回る600万ポンドの取引に応じたのだ。

そうした場面では気前のよいアブラモビッチだったが、情け容赦ない一面もある。彼が監督に対して辛抱強くないという事実は、すぐに知れ渡った。たとえその相手がモウリーニョであったとしてもだ。

■影響力は今もなお…

Roman Abramovich ChelseaGetty

アブラモビッチ体制での人の入れ替わりの早さから、彼には冷酷なビジネスマンといったイメージがつきまとうが、それは彼のプライベートには当てはまらない。

グレンケアは、普段のアブラモビッチについて「寡黙なナイスガイだよ。彼とは通訳を介してよく話したけど、ごく普通の男に見えたね。練習場やスタジアムで会うと、あまり多くを語るタイプではなかったけどフレンドリーだったよ」と話している。

今となっては、アブラモビッチは自身が建てたスタンフォード・ブリッジやコブハムの練習場に姿を現すことはほとんどない。かつてフランク・ランパード、ジョン・テリー、ペトル・チェフ、ディディエ・ドログバ、ブラニスラヴ・イヴァノヴィッチといった選手はアブラモビッチと直接連絡を取り合っていたが、今ではそれもストップしている。それは、現在クラブのほとんどの移籍は彼が最も信頼を寄せるディレクター、マリナ・グラノフスカイアの手によって進められているからだ。

とはいえ、彼の影響力がチェルシーから無くなったわけではない。彼がチャリティ・プロジェクトを主導することもあるし、必要とあらば取締役会に出席することもある。また今夏、カイ・ハヴェルツについてのレヴァークーゼンとの交渉が両者一歩も譲らず難航した際には、コンサルティングも行っている。

ハヴェルツ獲得は、2億2200万ポンドで新たなプレーヤーを買い漁ったうちの1つであり、これはアブラモビッチ体制初期の記憶を呼び起こすものだ。ちなみに、そうした億万長者による度を超えた支出を防ぐためにUEFAによってファイナンシャル・フェアプレー制度が導入されたのはかなり前の話になる。

無論、この規則は機能していない。代わりに私たちが目の当たりにしたのは、近年マンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンといったメガクラブのオーナーが、過去には想像もできなかったレベルでの支出を実行していることだ。

対照的にアブラモビッチは現在、慎重なアプローチをとっている。つまりチェルシーは持続可能なビジネスモデルを採用する努力をしてきたわけだが、今なおオーナーの資金力に強く依存していることは否定できない。

アブラモビッチは長年にわたって12億ポンドもの負債を帳消しにしてきたが、直近でもクラブは9660万ポンドの損失を計上しており、チェルシーにとって彼のポケットマネーがいかに重要であるかが強調されることとなった。

チェルシーが高いレベルの競争力を保つことができているのは、まぎれもなくオーナーのおかげであり、レンタル移籍予備軍になっているワールドクラスのアカデミーも、彼の力なしでは運営不可能だろう。

しかしアブラモビッチにとってそれは、悪くないことなのかもしれない。彼は17年前、そして1000試合前に購入したクラブを、今でも深く愛しているのだから。

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