ドイツで最も熱を帯びるダービーのキックオフが近づいてきた。ルール地方のゲルゼンキルヒェンをホームとするシャルケ04とドルトムントをホームとするボルシア・ドルトムント。直近のブンデスリーガでは両チームともに好調を維持しており、過去最高の内容が期待される。ここでは、ホームに宿敵を迎えるシャルケDF吉田麻也とMF上月壮一郎の思いとともに、試合を展望する。(取材・文:ミムラユウスケ/協力:スカパー!)
■完全に息を吹き返したシャルケ
(C)Getty Imagesドイツに数多あるダービーのなかで、最も熱狂的な試合になるのはどこか。その答えはドイツ国民の誰に聞いても一つしかない。
シャルケとドルトムントによるレヴィアダービーだ。
「レヴィア」というのはドイツ語で「炭鉱」という意味で用いられることが多いのだが、「縄張り」という意味もあわせ持つ。ヨーロッパを代表する工業地帯のあるルール地方の縄張り争いが、この一戦なのだ。
そんなレヴィアダービーは、今回がブンデスリーガの舞台では100回目を迎える。そんな記念すべき一戦は、過去最高のダービーになるかもしれない。
その理由はシンプル。両チームともに、好調だからだ。
ダービーでは順位などとは関係ないとは言われるものの、これまでのダービーでは、どちらかのチームが調子を落としていることも多かった。
有名なのは、2010年の9月。香川真司が2ゴールを決めてドルトムント優勝に向けたターニングポイントとなったダービーだった。直前のドルトムントが公式戦4連勝中だったのに対して、シャルケは公式戦4連敗中にあのダービーを迎えた。だから、内容はともかく、ドルトムントが3-1という結果を残したことを不思議に思う人はあまりいなかった。
だが、今回は違う。
それは両チームのリーグ戦直近5試合の成績を見ればわかるはずだ。
- シャルケ 2勝3分 得点3 失点1
- ドルトムント 5勝 得点14 失点3
首位バイエルンと勝ち点で並ぶドルトムントの5連勝には及ばないが、一時は最下位に沈み、2部降格濃厚だとみられていたシャルケは完全に息を吹き返した。
確かに、ドルトムントのほうが地力に勝るかもしれないが、彼らはロンドンでの欧州CLラウンド16・チェルシー戦で失意の敗戦を喫したダメージもある。そして、今回はシャルケの本拠地であるフェルティンスアレーナでの試合であることも、この試合を面白くしてくれそうだ。\
シャルケのレジェンド内田篤人がかつて「格闘技場みたい」と表したフェルティンスアレーナは、形状が正方形に近く、どの席からもピッチへの距離がなるべく近くなるように設計されている。文字通り、四方八方からシャルケの選手たちをサポートし、アウェーチームの選手たちを恐れさせるスタジアムだ
シャルケの新星・上月壮一郎は胸を張る。
「フェルティンスアレーナでやる試合は、他のどのスタジアムでやるのとも違って、特別な雰囲気があります。ホームの力をすごく強く感じて、プレーできていますね」
本拠地では初めてとなるダービーを迎える吉田麻也は、ホームを青で埋めつくすサポーターの後押しを受けながら戦う瞬間を心待ちにしている。
「間違いなくシーズンの中で、最も盛り上がる試合の1つだと思うんです。過去に、内田選手がプレーしているときに、スタンドから見たことがありましたけど、実際に自分がやると言うことで、ものすごく興奮しています。
いつもスタジアムの雰囲気は非常に良いですけど、それ以上に特別な雰囲気になるんじゃないかなという期待もあります」
■ドルトムント、守備とセットプレーの向上
(C)Getty Imagesでは、両チームが2023年に入ってから調子をあげているのは何故なのだろうか。
ドルトムントについては、ウインターブレイク中のトレーニングキャンプでじっくり練習を積めたことが大きかった。テルジッチ監督は以前このチームの指揮を執ったことがあったとはいえ、ローゼの任期を挟み、今シーズン監督に就任したばかり。
ところが、今シーズンはカタールW杯の影響で、例年以上にタイトなスケジュールのなかでシーズン前半戦を過ごした。課題が出てきても修正する時間などなく、試合をこなすだけだった。
それがウインターブレイクでまとまった時間がとれたことで2つの面で大きな向上が見られた。
1つ目が守備だ。
ウインターブレイク前までのシーズン前半戦の1試合平均失点は1.4点だったが、これが0.88点まで減少。勝ち点を取りこぼすことがなくなり、それが年明けからのリーグ戦8戦全勝という結果に表れている。
もう1つが、セットプレーの向上だ。
すでに今年に入ってからセットプレーから6得点をあげているのだが、そこには秘密がある。ウインターブレイク中に、キッカーを務めるブラントと、新しく就任したロイタースハーンAC(アシスタントコーチ)が一緒になって効果的にシュートに持っていける形を模索したからだ。
こうした進化を土台にして、日替わりのヒーローが生まれたことでドルトムントは一気に調子を上げたのだ。
ただ、ここにきて少しだけ不安要素が出てきた。すでに負傷で戦列を離れていたコーベルやアデイェミ、ムココに次いで、7日のCLチェルシー戦でブラントが負傷してしまったのだ。ブラントは先のセットプレーだけではなく、ボールを握って相手守備を崩すうえでも重要な役割を担っていたのだが……。彼のダービーの欠場はドルトムントにとって大きな痛手だ。
■シャルケの武器、ファン・サポーター
(C)Getty Images一方のシャルケは、昨年10月27日に就任したトーマス・ライス監督の意図が浸透してきたことに加えて、1月の移籍市場での的確な補強が大きかった。
最近のシャルケは、得点後のセレブ―レーションや試合終了のホイッスルを聞いた瞬間など、まるでW杯優勝を決める一戦であるかのようなテンションで選手たちが情熱を爆発させる。そんなところからも、チーム一丸となって戦っていることが伝わってくるのだが、それは “戦えるチーム”を作ることに定評のあるライス監督の手腕によるところが大きい。
そして、冬の補強の成果も大きかった。
攻守に走り回れるセンターフォワードのフライが前線のキーマンとなり、守備では新加入のイェンツが守備範囲の広さと球際の強さを見せ、吉田との盤石のセンターバックコンビを形成している。
シーズン前半戦では、守備陣にけが人が続出。トップレベルの試合経験のあるセンターバックが吉田だけしかいない状況もあったが、あの時期とは安定感が違う。さらに、これからフィットすればさらにチームにプラスをもたらしてくれそうな、コロンビア人のボランチ・バランタも控えており、チーム力には伸びしろがある。
現時点で補強策の劇的な効果を感じられるのが、守備力の飛躍的な向上だ。
W杯による中断期間前までは1試合平均失点2.1だったのに、最近5試合では平均失点はわずかに0.2点。1試合あたり2点近く平均失点が減るという状況になった。最近の5試合で失点数はリーグ戦8連勝のドルトムントをよりも良いデータだ。
この100回目のダービー、チームとしての地力や、個々の選手の能力だけを見れば、ドルトムントの優位は動かない。
しかし、数か月前まではシャルケの2部降格を疑わなかった地元メディアでさえ、シャルケにもダービーで勝つ可能性があると伝えている状況になった。
今のシャルケにはドルトムントを困らせるだけの団結力と守備力がある。何より、今回はホームで戦えるのだ。何が起こっても不思議ではない。
最後に、吉田の考える、シャルケの最大の魅力を紹介しよう。
「ファンやサポーターでしょうね! 僕が今まで所属してきたチームの中でも、サポーターの力は本当に特別なものを感じます。それは僕だけが感じているだけではなくて、ドイツ人も感じているし、他の日本人のブンデスにやっている選手も『シャルケは特別だ』と言うので。特にホームでの試合と言うのは、ものすごく、サポーターのエネルギーがゲームに面白いくらいに反映されると感じていますから」
試合終了のホイッスルが鳴るまで、勝負の行方がわからない。そんな試合になる気配がただよう、100回目のレヴィアダービー。決して見逃してはいけない。
【試合情報】
ブンデスリーガ第24節
シャルケ vs ドルトムント
2023年3月11日(土)26:30 KO
※スカパー!で独占放送




