王者バイエルン相手にも通用した長谷部誠。37歳にして新たなる境地へ

2021-02-15-hasebe
(C)Getty Images
37歳となりながら、好調フランクフルトのレギュラーとしてチームを牽引している長谷部誠。指揮官やクラブ幹部からも絶大な信頼を寄せられ、契約延長にも近づいているベテランは、王者バイエルン相手にも圧巻のパフォーマンスを披露した。37歳にして、長谷部は新境地を開拓しようとしている。

試合開始から数分後、アイントラハト・フランクフルトの長谷部誠が相手陣内ペナルティエリアライン右付近で相手に襲いかかりボール奪取。その後、アミン・ユネスへと展開された攻撃は惜しくも実らなかったが、キャプテンが示した好戦的な姿勢はチーム全体へと伝播し、この日のゲーム展開を明確に定めた。

試合当日、2月中旬の真冬にもかかわらず、気温が16度まで上昇した快晴のドイチェ・バンク・パークで、ホームのフランクフルトが前半から首位のバイエルン・ミュンヘンを追い詰めた。ブンデスリーガの得点王争いで首位のロベルト・レヴァンドフスキに次ぐ18得点をマークしているFWアンドレ・シウバを負傷で欠いたフランクフルトの攻撃は、それでも鋭く力強かった。

1トップを任されたルカ・ヨヴィッチがバイエルンDFダヴィド・アラバとジェローム・ボアテングのプレッシャーを一手に引き受ける中、ダブルトップ下の鎌田大地とアミン・ユネスがスキルフルなボール扱いで相手守備網を翻弄し、左サイドのフィリップ・コスティッチが対面の右サイドバック、ニクラス・ジューレを何度もブレイクして相手陣内を切り裂く。その攻撃陣を下支えするのが長谷部、そして累積警告で出場停止のジブリル・ソウに代わってスタメンに復帰したセバスティアン・ローデだった。ふたりはバイエルンMFエリック・マキシム・シュポ=モティング、ヨシュア・キミッヒ、マルク・ロカらのプレッシャーを物ともせず、冷静沈着なボールさばきでゲームをコントロールして試合の主導権を手繰り寄せた。

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近年のブンデスリーガクラブはバイエルンの選手が醸す威厳に慄(おのの)いて身構えるのが常だった。しかし、バイエルン戦を前にしてリーグ戦4連勝、引き分けを挟めば10戦無敗を堅持していたフランクフルトの選手たちは揺るぎない自信をピッチ上でたぎらせ、絶対王者を相手に堂々と渡り合った。

12分の先制点はユネスとコスティッチが対峙するジューレとリロイ・サネを鮮やかに出し抜いた末に生まれたものだ。ユネスへ安易にアプローチしたジューレを見据えたコスティッチがサネの背後を取るフリーランニングを繰り出すと、ユネスが体を反転させながら高質なスルーパスを通す。ボールを受けたコスティッチがゴール中央へマイナス気味のクロスを送り、仲間のヨヴィッチよりも前方へ飛び込んだ鎌田が右足でコンタクトしてゴールゲットした。

そして31分の追加点は、右サイドのアルマミ・トゥーレのチェンジサイドパスを拾った鎌田が後方のユネスへ折返し、最後はユネスが卓越したカットインプレーから豪快な右足シュートを蹴り込んだものだ。コンビネーションと個人スキルがハイレベルで融合したフランクフルトの攻撃をまともに浴びたバイエルンの面々は、前半早々に青息吐息だった。

■37歳にして新境地

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今のフランクフルトはカウンターだけを依る術とするチームではない。鎌田やユネスといったテクニカルなスキルを有する選手が織り成すコンビネーションにコスティッチやヨヴィッチらのスピードに長ける選手が連なり、シウバのようなボックスワークに長けるストライカーがプレーを完結させる。しかし、そんなタレントたちが最前線で個性を発揮するには、その“舞台”に至る前のお膳立てが必要だ。これまでのフランクフルトにはなかった中盤のコーディネイト力、それを引き上げたのは37歳の日本人MF長谷部に他ならない。

2020-21シーズンの長谷部は新たなる境地に達したかのように見える。シーズン当初の長谷部は3バックのリベロを担ったが、世代交代を目論むアディ・ヒュッター監督のチーム構築構想下で一旦はベンチ待機を強いられた。しかしミドルエリアのプレーが安定しないチーム状況に頭を悩ませた指揮官は、その整備を長谷部に一任する。再びボランチでのプレーを望まれた長谷部はここで、『ボールを落ち着かせる』ことに尽力した。これまで鎌田が「自分の上空をボールが行き交う感じ」と評したフランクフルトのチームスタイルを一変させ、適切なエリアへボールを運んで理詰めで相手を攻略する戦術への転換を図ったのだ。

長谷部が繰り出すパスには明確なメッセージが込められている。効果的な縦パスやサイドチェンジパスはもちろんのこと、バックパスや横パスであっても、そこには回り道をする道理がある。長谷部からパスを受けた者は優位性を保ちながら次なるプレーへ移行できる自身の様を体感し、その効力を認識する。翻って対戦相手は、長谷部が繰り出す変幻自在なパスに幻惑され、知らぬ間に退却を余儀なくされる。

長谷部は20代の頃から戦況把握能力が高いプレーヤーだったが、その卓越した視野を駆使できる距離が以前よりも広がったように思える。バイエルン戦でもダブルタッチからほぼノールックで逆サイドの味方へミドルパスを通すシーンがあったが、その鋭い観察眼はクラブのエンブレムにも描かれている犬鷲が1,000メートル離れた獲物を捕捉できるのと同様に鋭い。

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また、今の長谷部は相手のフィジカルコンタクトに一切怯まない。体をぶつけられても保持したボールを体軸の中心に置けるし、たとえ体勢を崩されてもパス精度を落とさずに味方へボールを受け渡せる。おそらく今の長谷部のプレー強度の高さはリベロでのプレーによって培われたのだろう。最終局面でデュエルに挑んだ経験は確かに息づき、ミッドフィルダーとしての長谷部誠を格段にレベルアップさせている。

長谷部はバイエルン戦、そして前節の1FCケルン戦で連続フル出場している。以前の長谷部は30代後半に突入した時期に「ボランチでのプレーはさすがに厳しい。リベロだからこそ、この年齢でもブンデスリーガでプレーできている」と吐露していたが、その言を自らのプレーで払拭してしまった。バイエルン戦でも相手が後半早々に1点を返してさらなる猛攻を仕掛ける中で、一切の揺らぎなく平静に攻守を連結させるリンクマンの役割を全うした。そのキャプテンの凛々しい姿に、他のチームメイトは常に励まされ続けたであろう。

■ドイツトップクラブへ

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フランクフルトがバイエルンを2-1で下したことで、今季のブンデスリーガは良い意味で混沌とした。首位バイエルンと2位・ライプツィヒとの勝ち点差は2に縮まり、4位のフランクフルトも3位・ヴォルフスブルクと共に勝ち点7差で猛追する。何よりフランクフルトはこれで来季のUEFAチャンピオンズリーグへの出場権獲得を確実に視野に捉えた。

長谷部は言う。

「アイントラハトは、ドルトムント、グラッドバッハ、ライプツィヒなどのクラブと同じく、バイエルンに次ぐレベルに到達する可能性がある。ただ、そのためには、チャンピオンズリーグなどの舞台に毎年参加しなければならないとも思っています」

2014-15シーズンにニュルンベルクから移籍加入してから約7年の月日を経て、長谷部は所属チームであるフランクフルトの実力を確信しつつある。彼が達する新たなる境地は、まだまだその先がある。30代後半の日本人ブンデスリーガーは、前人未到の道を歩み続ける。

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