■ありえない日々
Getty今、私たちは少し前まであり得ないと思っていた日々を過ごしている。リオネル・メッシ後のバルセロナ――。史上最高の選手が過ぎ去っても、このクラブは何とか存在を保っているようだ。
ここカタルーニャで神と崇められてきた男は、今なおスポーツ面でナンバー・ワンであり続けながら、経済面の問題によって別れを告げなくてはならなかった。破産寸前まで追い込まれたバルセロナは、彼らのフェラーリを保有し続けることを許されなかったのだ。カタルーニャのクラブはまたゼロからスタートを切り、謙虚に、質素に、それでいて大胆に、再び世界的な模範になることを目指さなくてはならない。少なくとも、そうであった頃の会長、ジョアン・ラポルタは取り戻しているのだから。
ユニフォームの胸スポンサーをユニセフが務め(バルセロナが逆に金を支払っていた)、ピッチ上で数多くのラ・マシア出身選手が躍動していた、あの頃のバルセロナ。テクニカルエリアにはジョゼップ・グアルディオラが立っていたが、今や世界的名将となった彼はラポルタが賭けた人物だった。バルセロナB(当時はスペイン4部所属)の監督だったペップをいきなりトップチームで登用するなど、肝が据わっていなければできる芸当ではない。こうしてカンプ・ノウで采配を振るうことになったペップは、メッシ以外にもラ・マシアの傑作たちを次々に見出していき、フランク・ライカールトが率いてロナウジーニョ&デコが躍動した時代の次の時代、クラブ史上最大の黄金期を築き上げたのだった。
■クーマンに向けられた疑い
(C)Getty Imagesそれから13年が経ったが、あの頃とのパラレルな展開は認められる。新会長がラポルタであること、チームを象徴する選手が去ったこと、ラ・マシアに有望な若手選手たちがいること(ビクトール・バルデス、カルラス・プジョール、チャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタと同じ次元ではないかもしれないが)……ただ、メッシという存在がどれだけ大きかったかは抜きにしても、欠けている要素が一つある。それは監督が、ラポルタにとって賭けてみたい人物ではない、ということだ。
ラポルタはバルセロニスモの伝説であるロナルド・クーマンに敬意こそ持っているが、監督としての彼に確信を持てずにいる。ラポルタもクーマンも、どちらもエゴが強い人物であり、すでにいくつかのことで衝突していた。彼らのバルサのフットボールの捉え方は、一致するどころか相容れないものなのかもしれない。
バルサに経済的な余裕がないため、クーマンはラ・マシアの選手たちをベースとしてチームを再構築することを義務付けられている。しかしラポルタ率いる理事会メンバーは、このオランダ人がそうした方針において本当に理想的な監督かどうかを疑い続けている。実際的に、ラポルタは昨季終わりにクーマンにチームを任せ続けるか、契約を解消するか決めるために15日の期間を設けた。結局クーマンは続けることになったが、その理由が信頼のためか、1300万ユーロの違約金支払いを嫌ったためなのか、私たちには知る由もない。
いずれにしてもスポーツ面ではなく経済面を優先したバルセロナにおいて、スポーツ面のプロジェクトで矢面に立たされるのは今季もクーマンなのである。チームの陣容について話せば、メッシのほかアントワーヌ・グリーズマンと最も高給だった2選手が放出となり、さらにミラレム・ピャニッチがベジクタシュに貸し出された。その一方、サミュエル・ユムティティとフィリペ・コウチーニョは残留。残った2選手について、彼らが戦力になるとは確言できない。コウチーニョがリヴァプール時代のプレーレベルを取り戻せるかは分からず、ユムティティもヒザの状態をはじめとしてロシア・ワールドカップから抱え続けているフィジカルの問題を解消できたかは不透明だ。
残留してほしい選手に出て行かれて、出て行ってほしい選手に残留されたクーマンだが、自分自身が求め続けた選手も今夏ようやく手にしている。そう、オランダ代表でも指導したことのあるメンフィス・デパイだ。メンフィスはバルセロナとオランダ代表のここ4試合で7得点を記録と、メッシばりのペースでゴールを量産しており、クーマンだけでなくバルセロニスモ全体の期待も背負い始めている。ピッチ上で今なおメッシの姿を探してしまう選手がいる中で、メンフィスの「メッシ時代とか知らねえし」と言わんばかりの前線での動き回りっぷりは頼もしいことこの上ない。メッシがまだチームにいれば衝突していたか、じっと睨まれる場面が少なくとも一回はあったはずだ……。
Getty Imagesメンフィスのほか、メッシの10番を引き継いだアンス・ファティが長期離脱前の輝きを再び見せられるのか、現在負傷中のクン・アグエロが復帰予定の11月からどう貢献していくのか、エリック・ガルシアがバルセロナのCBを今後10年以上務められる人材なのかどうかにも注目だ。
■バイエルン、今季最初の大きな試練
(C)Getty Images過渡期にある今季のバルセロナにとって、バイエルン・ミュンヘンとの試合は最初の試金石となる。が、もちろんそこに楽観ムードは存在しない。2019-20シーズンのチャンピオンズリーグ準々決勝、あの2-8の大敗劇は、サポーターにとって頭の隅にこびりついて離れない悪夢となっている。
それでも、バルサはチャンピオンズとリーガで優勝を目指して戦っていかなくてはならない。リーガではアトレティコ・デ・マドリー、レアル・マドリーよりも一段下に位置し、チャンピオンズではバイエルンをはじめとして、さらに強大なチームが存在している中で……。幸運であるのは、今がまだシーズンの序盤で、ここからパフォーマンスを改善していけることか。
クーマンのバルセロナは一体どこまでたどり着けるのか……。とりあえず今回のバイエルン戦は、目を瞑ることを覚悟した方がいい。過ちは修正するためにあり、見定めるべきはその修正の具合なのだから。では皆さん、ハッピーなシーズンを!
文=フェラン・マルティネス/Ferran Martinez(スペイン『ムンド・デポルティボ』紙)
翻訳=江間慎一郎
