■チリの意気込みは凄まじかったが…
チリは来年のワールドカップで優勝候補として名乗りを上げるため、コンフェデレーションズカップにすべてを懸けていたと言ってもいいだろう。主力選手のアルトゥーロ・ビダルは決勝を前に「この大会はとても重要だ。優勝することが夢だね」とまで語っていた。しかし、勝利をつかんだのはドイツであった。
この日のチリは完全にベストのメンバーで試合に臨んだ。2つの南米タイトルホルダーとして、そして来年のワールドカップを見据え、チリの黄金世代はピークの時間を謳歌している。チームはすでに長いこと同じメンバーで戦っており、メンバー中8人はチリの最多キャップ数上位9人に名を連ねる選手たち。互いのことを熟知しており、それはさながらクラブチームのようでもある。
ベンチで率いる監督がホルヘ・サンパオリであれ、フアン・アントニオ・ピッツィであれ、さしたる影響はない。調和が取れたメンバーである。コパ・アメリカの決勝では2度、アルゼンチンとリオネル・メッシを相手に試合を支配したし、ワールドカップの南米予選でもブラジルを相手に見事なパフォーマンスを見せた。
すべての試合に大きな情熱を注ぐチリ優位かと思われていたが、経験の少ない若者たちの前に敗れ去った。ドイツは決勝前の段階で登録23人全員のキャップ数を合わせても232キャップでしかなかったのにだ。攻撃性、敵意、そしてゴンサロ・ハラの場合はエルボーも含め、チリは若いドイツ相手に全てを出してぶつかっていった。しかし、ミスからの失点で敗れ、致命的なミスを犯したマルセロ・ディアスは試合後に謝罪文を発表している。それほどまでにチリ代表と国全体はコンフェデ杯に強い意欲を持って、戦っていたのだ。
■大きな財産を手にしたドイツ
一方のドイツにとっては、この試合はコンフェデ杯優勝という栄冠とともに、若いチームにとっても大きな試練を克服したときとして記憶されるだろう。 選手たちがより大きな試合の経験を積み重ねるために、常用な試合での勝利を勝ち取ることができた。
このドイツはベストチームではなく、おそらく2軍と3軍の中間くらいのメンバーだろう。23人のメンバーの中でドイツのフルメンバーでスターティングイレブンに名を連ねそうなのは、ヨシュア・キミヒとヨナス・ヘクターくらいである。しかし、ドイツサッカーのピラミッドの頂点に君臨するヨアヒム・レーブは、選手の名前は関係なしに代表チームを別の次元に導いたのだった。
古く典型的なドイツの姿は、若い彼らとは無縁の亡霊だ。クールでシニカルな様子は全く見られず、オン・ザ・ボールでもオフ・ザ・ボールでも相手を上回る、まさに現代的かつ熟練したシステムを仕上げたことをチリ相手に見せつけている。
レーブは来年のワールドカップを前にしてハイブリッドなチームを作り上げ、すでにW杯優勝を経験しているレギュラーメンバーのうち1人か2人かは、オフを過ごすリゾート地でこの試合を見ながら、自分がこのチームで居場所があるのかとにわかに焦り始めたかもしれない。
Getty Images■インパクトを残したドイツの“新鋭たち”
決勝ゴールを決めたラース・シュティンドルもお膳立てをしたティモ・ヴェルナーも代表チームの中にしっかりと爪痕を残し、一度手にしたポジションを譲り渡すつもりはないだろう。
その2人の後ろでプレーしたレオン・ゴレツカは決勝戦ではいくつかのチャンスを逃したものの、大会のベストプレーヤーとも言える活躍を見せた。しかし、彼が来年の夏にロシアへ戻ってくるためには、メスト・エジル、イルカイ・ギュンドアン、マルコ・ロイスやトーマス・ミュラーのようなすでに栄光を勝ち取っている選手たちとポジション争いをしなければならない。
そのような、贅沢ともいえる“椅子取りゲーム”は他のポジションでも繰り広げられることになる。ケガからの回復途中にあるマヌエル・ノイアーは依然としてバルセロナ、パリ・サンジェルマン、バイヤー・レヴァークーゼンといった強豪クラブの正ゴールキーパーに一つしかない椅子を譲るつもりはないだろう。
シュコドラン・ムスタフィ、アントニオ・リュディガー、マティアス・ギンター、そして二クラス・ズューレといった守備陣は皆コンフェデレーションズカップにおいて出場時間とともに、称賛を得ることになった。しかし、彼らであってもマッツ・フンメルスとジェローム・ボアテングという本来の代表チームのセンターバックコンビより序列は後ろなのである。
中盤では、セバスティアン・ルディとエムレ・カンが大会を通じて素晴らしいパフォーマンスを見せたが、彼らが来年夏の大会で先発出場するためにはユリアン・ヴァイグル、トニ・クロース、そしてサミ・ケディラといった面々を押しのける必要がある。
そうした熾烈な争いが終わることはない。

■圧倒的な選手層の差が結果に
他の国々では、来年夏のワールドカップに臨むにあたり最高の23人には誰が選ばれるのか、というのが関心事となるであろう。しかしレーブの場合の最大の頭痛の種は、ワールドカップを戦うに値する35人以上の候補の中から、誰をメンバーから外さなければならないのか、ということだろう。
はっきりしているのは、コンフェデレーションズカップを戦ったメンバー全員がワールドカップを戦うことはできないと同時に、U-21欧州選手権王者となったメンバーの大半もチャンスはつかめないだろう。世界のサッカー史上でも類を見ないほど豊富なタレントが集まったと言えるのではないだろうか。
もしドイツ代表がクラブチームだとしたら、彼らはプレミアリーグで優勝できるだろうし、多くの当落線上の選手を1000万ポンド(約14億6000万円)以上の額で売ることもできる。
それが南米のベストチームと世界王者との違いである。チリには、クラウディオ・ブラーボ、アレクシス・サンチェスやビダルのような百戦錬磨の戦士たちが8〜10人ほどは揃っており、彼らは彼らがプレーできる限り、ともにプレーし続ける事ができる。そして彼らが万全である限りプレーをし、彼らが望むだけチリ代表にとどまることができる。しかし、ドイツは全てのポジションに控え選手、また控え選手の控えまで取り揃えている。その選手層が、この両者の大きな違いである。ロシアで行われたコンフェデ杯ではそれが如実に示されたのではないだろうか。
文=ピーター・ストーントン/Peter Staunton
