■深い傷に思えるが、致命傷ではない
「これは全部で10試合の予選で、3試合ですよ」
オーストラリアのグラハム・アーノルド監督は、日本の戦績について問われてそんなことを言った。3連勝で首位に立っているとはいえ、前節のオマーン戦を含めて際どい勝負を拾ってきた部分もある。「まだ3試合しかやってねえんだから何を言ってるんだ」というところだろう。
日本はここまで3試合を終えて1勝2敗。不甲斐ない結果なのは確かだが、何かを諦めるには早すぎる段階だ。前節はサウジアラビアとのアウェイ戦を落としたが、ここは組み合わせが決まった時点から最も敗戦の可能性が高かったカードでもある。オマーンに敗れた“ツケ”が残っている状態であるゆえに深い傷に思えるが、致命傷というわけではない。
試合数が今より少なかった時代の最終予選のデータを持ち出して悲観するような論調もあるが、同じ全10節で行われた2018年ロシアW杯のアジア最終予選では、A・B両組ともに2位チームは10試合のうち3敗しているチームだった。冷静に考えれば、2敗で「絶望」などと言うのは早すぎるのだ。ここで勝てばオーストラリアとの勝ち点差は「3」。つまり1勝差になるのだから、数字上の絶望感は別にない。
■アジア最終予選でかかるプレッシャー
(C)Getty Imagesただ、明らかに流れは良くない。「絶対に負けられない戦い」という高名な煽り文句のとおり、アジア最終予選でかかるプレッシャーは独特のもの。FW古橋亨梧は「正直に言って、こんなプレッシャーを受けるのは初めての経験」と率直に語っていたとおり、「負けたらどうしよう」という心理的負荷が重くのしかかった状態でのプレーは消耗も加速させるし、精神的な余裕がなくなれば判断も悪くなり、プレーの精度も削られる。ただでさえそういうプレッシャー下にある中で、敗戦によって後がなくなった感覚のままプレーするのは非常に危ういと感じる。
この日本代表はサッカーに対して真面目で真摯な選手が揃っていると感じるし、常に謙虚で満足しない素晴らしい美点を持っている。一方で、試合後の話を聞いていても、善くも悪くも楽観主義者が少なく、物事をシリアスに捉えすぎる面もあると感じることが多い。それはもちろん向上心や克己心の裏返しであって決して悪いことではないのだが、尋常ならざるプレッシャーのかかる最終予選という場において、選手たちから少し余裕を奪ってしまっている面もあると感じる。先頃「逆境を楽しめ」とツイートしていた本田圭佑のような、ボロクソに批判されても前向きに解釈してしまうような、ポジティブマインドがもう少し必要だろう。
逆に言えば、もう少し余裕を持って普通に戦うだけで、もっと良いゲームができるチームだろうという確信もある。日本代表としての責任、覚悟を背負って戦うことをこの状況で忘れるような間抜けがいるとは思えないので、だからこそもうちょっと余力や余裕があっていい。サウジアラビア戦やオマーン戦もそうだったが、0-0で試合が推移していったときにどうしても焦ってしまう気持ちは痛いほど分かるのだが、「そういうこともあるやろ」くらいの精神が必要ではないかと感じる。
■リラックスすることはタフな姿勢と矛盾しない
(C)Kenichi Arai元よりアジア最終予選は厳しいものだ。たまたま突破することが続いているが、U-19年代は2016年まで10年もアジアで敗れて世界大会に出られない時期があったし(まさにその年代が今の主力でもある)、「絶対に負けられない=勝って当然、楽勝で当たり前」のステージなどではなく、そう簡単にいくものではないものとして改めて捉え直しておくべきだろう。少々苦戦したくらいで動揺する必要はない。
もう少しリラックスさせて臨むことも必要なのではという話は森保監督にも振ってみたが、「戦っていない」というような批判には慣れている指揮官も、この問いには少し戸惑ってしまったかもしれない。ただ、「選手たちがよりリラックスして思い切ってプレーできるということ、厳しい戦いですけど、厳しい戦いも含めて、好きなサッカーを楽しんでもらえるように、環境づくりするのが私の役割だと思います。よりリラックスして戦ってもらえるように働きかけをしていきたい」とも語ってくれた。まずはその通りになることを願いたいし、これは強い気持ち、タフに戦う姿勢と別に矛盾する要素ではないとも感じている。
他ならぬ森保監督自身もまた、変に思い詰めることなく開き直って戦ってくれるのが一番だと思っているオーストラリア戦では戦術的にもアレンジが入ってメンバーも入れ替わりそうだが(ベースの配置も変えるのではないかと予想している)、そのあたりも思い切ってやってくれればいいだろう。逆に良い切っ掛けになった部分もあるかもしれないと感じている。
■経験のある選手も才能のある選手も揃ったチーム
(C)Getty Images久保建英と堂安律が同時に負傷するといったタイミングの悪さを含めてどうにも流れは悪いし、3試合を終えて得られた勝ち点の乏しさが心理的な余裕を奪ってしまう可能性はある。ただ、対するオーストラリアは紛れもないグッドチームではあるものの、別にスペインのような戦力差を感じさせる相手でもない。FWはJリーグでプレーしていて手の内も分かっているタガートなのだから、別に恐れを感じる必要もないだろう。
いまの日本代表は、経験のある選手も才能のある選手も揃ったチームである。サッカーに対して真摯に取り組むプレーヤーが揃い、ここからの伸びしろもまだまだ残している。「絶対に負けられない」雰囲気の中で難しいのは百も承知だが、「力のある選手たちなのだから、普段通りに普通にやってくれれば問題なく勝てるよ」と言っておきたい。
危機感や切羽詰まったムードというのは放っておいても無限に湧き出してくる状況だ。チャンスで過剰に力んだりする選手が出てくるのも、いまから目に浮かぶようだ。先制された場合は当然として、同点のまま試合が進んでも心理的な余裕が失われる可能性はある。その中で単純な気持ちの強さを超えて、勝てるチームになれるかどうか。チーム最大の危機が、成長への好機に大化けする瞬間が来ることを願いつつ、勝負の90分を見守りたい。
