■開幕連敗、無得点
とある国の大統領が言った。
「この10年間は浮き沈み。そして沈んでいる一方だ」と。
2021-2022シーズンのプレミアリーグが開幕した。サポーターの入場制限が解除されたことで、スタジアムに熱狂が戻ってきた新シーズン。25年ぶりに欧州カップ戦の出場権を逃したアーセナルからすれば、昨シーズンの失意を払拭すべく、最高のスタートを切りたかった。
だが、蓋を開けてみればどうだろう。
開幕戦はプレミアリーグ初挑戦の昇格組・ブレントフォードに完敗(0-2)。続く第2節のチェルシー戦では、相手の新戦力であるロメロ・ルカクを全く止められず為す術なく敗れた(0-2)。
連敗スタートに加えて得点もゼロ。次節がマンチェスター・シティとの対戦と考えると、多くのサポーターが頭を抱えているに違いない。
■“平凡かつ弱い”現実
Getty Imagesもはや懐かしさすら感じさせないほど、かつての記憶となった2003-2004シーズン。アーセナルは「インヴィンシブルズ(無敵の軍団)」と讃えられ、無敗での優勝を経験した。
それから18年。様々なことがあった。
ロマンに溢れたアーセン・ヴェンゲル監督の時代は、03-04シーズン以降、結果としてリーグ優勝こそ手にすることはできなかったが、指揮官の理想を貫いたサッカーは見るものを虜にした。
3回に1回はひどい試合を見せられるのだが、逆に3回に1回は素晴らしいサッカーを見せてくれる。その輝き見たさに追いかけるようになった人は多々いるだろう。
ただ、長き旅にも終わりはくる。時代も進み、ヴェンゲル監督の掲げる理想も通用しなくなっていった。“3回に1回”が“5回に1回”になり、感嘆するようなサッカーがピッチで披露される機会は徐々に減っていくことになる。
結果が出なければ、何かを変えるしかない。「WENGER OUT」の声が大きくなり、2017-18シーズンの終了後、上層部はついに重い腰を動かし、理想ではなく現実的な戦いを選択した。緻密な戦術家であるウナイ・エメリ監督を招聘。現代の潮流に乗り、理想と現実を追うチームへとシフトチェンジしようと試みた。
22年間の長期政権を終え、新たな体制で迎える新たな時代はどうなっていくのか。期待と不安が入り混じっていた。これまでの自由奔放なサッカーとは打って変わって、厳しい規律のなかでボールが動いていく。今までにはない新鮮さはあれど、どこか大胆さに欠けるプレーも目に留まる。良くなっていくのか、悪くなっていくのか。どちらに転ぶかは誰も読めなかった。
しかし、結果としてチームはさらに下降線を辿っていく。途中で指揮官をクラブOBのミケル・アルテタに替えても路線は変更していない。言い方を悪くすれば、“平均的に強い”チームを目指したのだが、結果として周りとの差は広がるばかりか、チームとしても機能しない時期が続いている。
閉塞感の根源は、かつてのアーセナルのイメージが残っていることが大きい。ヴェンゲルが掲げた理想を追い求めた時代は終わっているのだが、誰もがあの時のワクワクするようなサッカーを求めている。
戦うべきは今であるべきなのに、まだ過去と対峙している。OBの「クラブのDNAは失われた」とする発言をよく見るが、それはそうだ。なぜなら監督交代により路線は変わったのである。“面白いけど、時に脆い”チームからの脱却をクラブが目指したのだから仕方がない。過去の栄光に引きずられているようでは現状を打破することはできない。
悲しい話ではあるが、現実として今のアーセナルは“平凡かつ弱い”チームに成り下がっている。ビッグクラブに勝てれば御の字で、試合前から敗戦が濃厚と言わんばかりの空気が漂う。さらに中堅以下のチームと対戦しても不安がつきまとっている。
■何を目的としていくか
Arsenal.決して戦力がいないわけではない。戦術が時代遅れというわけでもない。ただ、いかんせん中途半端な状況がピッチに反映されている。誰もが目指すべき指標を失い、自信を無くしている。
このままでは今シーズン、厳しい戦いを強いられることになるだろう。これだけの戦力を擁しても、昨年同様に下位争いに巻き込まれる可能性だってある。今季の目標は欧州カップ戦出場権と軽々しく言うのも憚れるほど、苦しい状況にいるのは明らかだ。
それでも強くなることを信じて待つサポーターのために、チームはどういった戦いを見せていくのか。結果にこだわるならば守備的な戦い方も時には必要だろう。攻撃的で見るものを魅了するサッカーをしたいならば、もっと針を振る必要がある。
もちろん現代の強いチームは両面でハイパフォーマンスを出せるわけだが、一気に両方を向上させることは簡単なことではない。だが、中途半端な現状にメスを入れる上でも、チームが勝つために何を目的としていくかは明確にするべきだろう。
平凡なサッカーのまま進むのか、それとも変化を促すことができるのか。まだ始まったばかりではないかとズルズル引き延ばしにすることなく、確かな変貌を遂げていくことを期待したい。
転換期にいるアーセナル。彼らの変化を楽しみにしながら、再び一喜一憂する週末を待つとしよう。
文=林遼平




