「フットボール的な理由」
最近、記者会見でメスト・エジルについて繰り返し質問されると、ミケル・アルテタ監督の顔は明らかに下を向いてしまう。
アルテタが「何も状況は変わっていない」と何度言ってもお構いなし。繰り返し質問がぶつけられるだけだ。質問が止むのは、エジル自身がアーセナルを去る決断をしたときなのだろう。
しかし、その時は今すぐではなさそうだ。31歳のエジルと代理人が拘っているように、このドイツW杯優勝メンバーは、2021年まで続く現行契約を全うすることになるだろう。
そういうわけで、アルテタはこのプレーメーカーについての質問をいなすことを、いつものことだと思い慣れてくるだろう。「彼は試合に出られる状態だ」アルテタはこのように返答した。プレミアリーグ最終節のワトフォード戦を控え、エジル起用の可能性について質問された時のことだ。
「試合に出られる」のは確かにそうなのだろうが、アーセナルで最高額の年俸となる週給35万ポンド(約4725万円)を受け取るエジルは「試合に絡まなさそうだ」という雰囲気であった。
アーセナルは8月1日に行われるチェルシーとのFAカップ決勝戦に向けて調整を行っている状況だが、おそらくエジルはテレビの前で過ごすことになる。
エミレーツ・スタジアムに垂れ込める暗雲のように、この状況は続いている。
コロナウィルス禍で生じたロックダウンの前は、アルテタの下でスタメンを確保していたのに、なぜ再開後は見捨てられてしまっているのだろうか? 説明し難い状況が続いている。
聞くところによると、エジルは「背中痛」に苦しんでいたということだ。これについては、アルテタに返答をせがんでもこれ以上の情報は引き出せないだろう。しかし今は回復しているのだから、彼が試合に出られないのは結局、監督の言葉を借りれば「純粋にフットボール的な理由」ということだ。
ウナイ・エメリの在任中にも同様の状況は見られていたが、このスペイン人監督は結局プレッシャーに屈し、エジルをチームに戻すに至った。しかし、エメリは彼をチームから追い出そうとしていたように見えた。
アルテタが同じことをするかどうかは、これからわかることだ。
膨れ上がる人件費
Getty昨年の夏と同様に、今月末に開く移籍市場でエジルを放出できれば、アーセナルにとって喜ばしいことになるだろう。
だが、彼の給料がそれを完全に不可能にしてしまっている。
エジルは来シーズンアーセナルに留まれば、クラブから約1800万ポンド(約24億3000万円)を受け取ることになる。そしてエジル自身も分かっているように、これだけの金額を他のクラブが出すことはできない。
5月に、代理人であるエルクト・ソグト氏はこう言っていた。「クラブを去る可能性はない。この契約を最後まで全うすることになる。その頃彼は32歳になり、フリーエージェントだ。悪くないシチュエーションだろう」
エジルにとって悪いシチュエーションではないかもしれないが、アーセナルにとっては最悪の状況だ。マッチデーを家で過ごすだけのプレイヤーに来年1800万ポンドを支払うことになる。大惨事に他ならない。そして、移籍市場での強化プランにも大きな影響が出てしまう。
昨夏、オーナーのスタン・クロエンケ氏の息子ジョッシュ・クロエンケは、アーセナルの現状を「ヨーロッパリーグ(EL)の予算でチャンピオンズリーグ(CL)の人件費を支払っている」と語っていた。その数カ月後、クラブが2018-19年に2710万ポンド(約36億6000万円)の赤字を計上したことが明らかになった。アーセナルにとって2002年以来初めての赤字だった。
主な原因は何だろうか?それは2億3000万ポンド(約310億円)にも及ぶ人件費だ。CLに参加できずしてその金額を維持することはできないし、アーセナルはここ3シーズンCLに参戦することができていないのだ。
ELには参戦できたためその影響を緩和することはできたが、もし8月1日にFAカップ決勝でチェルシーに負けることがあれば、来シーズンはEL参戦すら叶わず、さらに財政状況は悪化することだろう。
アーセナルの歴史上最も困難な時期だと言われる現チームをなんとか導こうとしている首脳陣にとっては、これらの事実を見れば、エジルがクラブに居続けることはさらに受け入れがたい。
もちろん、エジルの給料が高いことはエジル自身のせいではない。アーセナルは2018年1月、彼を残留させるのに大枚をはたいて満足していたのだ。その状況はアルテタ自身も受け入れていた。
「それ(=エジルの契約)は選手とクラブ双方がハッピーで、前進できる合意だ。私が疑問を挟むものでは決してない。選手は価値に見合った給料を受け取っていると思っている。ここでの当事者は(※選手とフロントの)2人であるから、私が判断するべきものではない」
1800万ポンドの“不良債権”

問題は、クラブに留まり続ける限りはエジルが注目され続けることだ。特に、試合のある日に家に留まり、ピッチ上で貢献できないとなれば余計にそうなってしまう。
だからこそ、エジルがここまで興味を持たれているのだ。だから記者はアルテタに毎週のように、変化があったかと聞くのだ。アーセナルが試合に勝っていればそのような質問は簡単に払いのけられるものの、負けているときは……火曜日のアストン・ヴィラ戦(第37節:0-1)の時のように、無視するのは難しい。
エジルに欠点があったとしても、家から外に出れば、彼はアーセナルで最もクリエイティブな仕事のできる選手なのだ。それは疑問の余地もないことだ。
エジルは3月7日以来試合出場がない。それでも、このドイツ人プレーメーカーよりも多くのチャンスを創出した選手は、アルテタ率いるガナーズにはいないのだ。
アーセナルはアストン・ヴィラ戦で70%近くのポゼッション率を叩き出したのに、ゴールが遠かった。ガナーズに対してラインを下げ、ブロックを形成して守るチームに対しては、中央のエリアをこじ開ける選手が誰もいないのだ。
ミッドランズ(アストン・ヴィラの本拠地がある地域)での敗戦の後、アルテタは攻撃面のクリエイティビティが必要だと認めた。「アタッキングサードでの攻撃をよくする手立てを見つける必要がある。クリエイティビティとひらめきが我々にはなかった」
このコメントを受けて、すぐに注目はエジルに集まった。ラインを下げてポゼッションを譲る相手に対して、エジルをチームに加えるのがよいのかどうかと――。
「ただ選手を変えることだけが答えではない」とアルテタは答えた。「チームとクラブにとって最もよい決断を下すように務めるよ」
「正しい決断を下せるときもあるし、間違えるときもある。そして大間違いをしてしまうことだってある。だが、いつでも私はベストを尽くしている」
アーセナルがエジルを放出しようとしていることは理解できる。今夏彼がチームを去ることになれば、来シーズンは1800万ポンドの節約になり、移籍金や他の選手の人件費などに費やすことができる。
エジルのことについていつも矢継ぎ早に質問が飛ぶことで、アルテタがフラストレーションを溜めることも理解に難くない。しかし、結果が伴わずアーセナルが苦しんでいる中、試合に出場しないチーム最高の高給取りのことがどうしても話題になってしまうことは、アルテタも認めなくてはいけない。
31歳になったエジルは、もしかすると自身のピークを過ぎてしまっているかもしれない。それでも彼は、封鎖された中盤をこじ開け、中盤とアタッカーをつなぐことになればアーセナルで一番の力を持っている。
だからこそ、チームが上手くいかなくなると、エジルに関する議論が再び巻き起こるのだ。しかし、2013年に加入したときには、あれほどにも興奮と喜びをクラブにもたらしたプレイヤーなのに、今やエジルはアーセナルの“不良債権”になってしまている。
この議論は、このドイツ人がノースロンドンから離れる決断をするときまで終わらないだろう。残念なことに、アーセナルにとっては1800万ポンドを節約できるシナリオはなさそうなのだが……。
文=チャールズ・ワッツ/Charles Watts
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