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【U-20日本代表 コラム】屈強アフリカ王者とバチバチのバトル。チェイス・アンリ、W杯メンバー入りへ成長支えた恩師の激励

 U-20日本代表はアルゼンチンで行われているU-20ワールドカップ(W杯)2023の初戦で、U-20セネガル代表に1-0で勝利した。フル出場を果たしてクリーンシートに大きく貢献したチェイス・アンリは、確かな成長を見せている。【取材・文=川端暁彦】

■「速くてデカい選手」との戦い

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 初めて臨む世界舞台。初戦を終えたDFチェイス・アンリは「いや、難しかったっす」と笑いつつ、アフリカ王者に相対した90分間を、彼らしい言葉で振り返った。

「足も長いし、なんかめっちゃパワーも凄かったし、後半最後10分苦しかった」

 ただ、劣勢の試合展開の中でもパフォーマンスは際立つものがあった。確かにミスもあったし、迂闊なプレーもあったものの、「めっちゃパワーも凄い」FWに対して怯むことなく戦いを挑み、時には豪快なタックルで相手を吹き飛ばし、空中戦でもやり合い続けた。

 試合前には「アフリカ系の選手とはチームでもやっている。(セネガルは)速くてデカい選手がいるけど、自分はそういう選手とやるのが好き」と語っていたが、ドイツへ渡ってからの経験も活かしつつ、周囲の選手とも連係しながら戦い抜いてみせた。

■苦境を脱してメンバー入り

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 昨年度に福島県の尚志高校での日々を終えたチェイス・アンリは遠くドイツの地に向かい、シュトゥットガルトへと加入した。「自分はJリーグに入っても試合に使ってもらえないと思う」という率直な感覚もあって選んだ道だったが、当初想像していた以上の難しさもあったと言う。

「言語もそうだし、ゲーゲンプレスの戦術にも最初は馴染めなかった」

 国際的なチームであるシュトゥットガルトでは英語が広く使われているが、やはりドイツ語でのやり取りも欠かせない。特にチェイスの所属する下部組織のチームではなおさらだ。ピッチ内での文化的なギャップもあり、また負傷も重なる不運もあって一時は関係者が心配するほど悩んでしまった時期もあった。

 ただ、高校時代にチェイスを指導していた尚志のベテラン指導者、小室雅弘コーチは自身がオランダ・アヤックスで学んだ経験も踏まえて「本人はすぐにやれると思っていたかもしれないけれど、こっちは絶対に苦労すると思っていたし、それは分かっていたこと」と言う。同時に「きっと乗り越えられるし、壁に当たったことが財産になるから」とも強調していた。

 またこの4月には尚志の仲村浩二監督が日本高校サッカー選抜の監督としてチームを率いてドイツで行われた国際大会で優勝。チェイスの下にも激励に訪れ、実際に試合も視察。自身の覚醒を信じる人々の存在をあらためて感じたことも好材料になったのであろう。この直後からセカンドチームでも先発の座をもぎ取り、連続出場を記録するようになった。

 試合の映像をチェックしたU-20日本代表・冨樫剛一監督も「チーム自体の調子があまり良くなくて、ゲーム展開も非常に苦労している中、もがき苦しみながらもタフな環境でしっかり戦っていた」と高評価。試合から離れていただけに招集も難しいのではという見方もあったが、メンバー入りを決断させるだけのパフォーマンスを誇示してみせた。

■「自分の名前を世界に売りたい」

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 年代別日本代表でプレーするのは約1年ぶりのことで、冨樫監督の下でプレーした経験は数えるほど。心配の種はあったが、「あんまり違和感はなかったです。普通にやれていて困ることはなかった。『久しぶりな感覚だな』っていう感じ」と、すんなりチームにフィット。これまでほとんどコンビを組んだことがないDF田中隼人(柏レイソル)とも即興でお互いの特長を活かし合うための連係も確認して試合に臨んでいた。

「この大会は人生で1回。いろんな人が見ているので後悔のないようにしたい。最初から100パーセントを出して、自分の名前を世界に売りたい」

 試合前に語っていたとおりの全力プレーを見せ付けた試合後、その口から出て来たのはひたすら反省の弁だったのも彼らしい。「(個人としての)守備のところは大丈夫だった」としつつも、こう語る。

「終盤はラインの押し上げが曖昧になっていて相手に押し込まれてしまったので気を付けないといけない。それにビルドアップのところはもっと簡単に回せたし、ワンタッチでボランチを使ったりもできたと思う」

 初めての世界舞台で、チェイス・アンリの第一章はしっかり示した。可能性の塊のようなタレントは、まだまだ底を見せていない。

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