日本代表は15日、キリンチャレンジカップ2023でエルサルバドル代表に6-0と圧勝。開始4分時点で日本が2点リード、相手が一人退場と極端な状況となり、互いのゲームプランは崩れ去ったが、それでも決してゴールラッシュによる“楽しいだけの試合”にはならなかった。【取材・文=上村迪助(GOAL編集部)】
■相手指揮官は早々に白旗
カタール・ワールドカップ(W杯)後初の活動となった3月シリーズでウルグアイ代表、コロンビア代表と対戦し、1分け1敗と勝利こそ奪えなかったものの様々な課題を洗い出した森保ジャパン。ボールを握りながら崩していくスタイルへのアップデートを図り、緩急のつけ方や流動性、手詰まりになった時の打開方法をどう生み出していくか、その後の練度向上が期待された。
そうして組まれたエルサルバドルとの一戦。格下ではあるものの、約1週間後に控えるCONCACAFゴールドカップに向けて仕上げに来ているチームであり、“守りを固める相手を崩す”部分に課題を抱える日本にとっては貴重な腕試しの場となるはずだった。
しかし、実際の試合では開始早々に日本が数的優位得るレアなシチュエーションに。それでも同点のまま推移していればシミュレーションできることもあったかもしれないが、その時点で日本が2点をリードしていたため、出て行かざるを得ないエルサルバドルのスペースを有効に使うことでゴールラッシュとなり、“守りを固める相手を崩す”テストにはなり得なくなっている。
エルサルバドルが出した退場者がセンターバックであったにも関わらず、ウーゴ・ペレス監督は27分まで交代カードを使わず。同指揮官は試合後に「最所の3分でこの試合の展開がほぼ決まった」とこぼしたうえ、試合前に準備したことを「実行することはほぼ不可能だった」と、早々に白旗を上げていたことを明かしている。
■壊れた強化試合での収穫
それではエルサルバドル戦で日本が何ら成長の糧を得ることができなかったのかというと、そうとも言えない点がいくつかある。まずはシンプルに、日本の選手たちが最後までリスペクトを欠かず、ゴールを狙い続けたことだ。
相手に付き合い過ぎて間延びする様子はなく、一人少ない相手が嫌がるスペースを徹底的に狙い、セカンドボールの回収に意欲を見せ続け、守田英正の交代後に腕章を巻いた板倉滉はファウルを犯してでも相手のカウンターを止めるプレーも見せた。久々の代表招集となった旗手怜央は存分に自らの持ち味を発揮し、途中出場の古橋亨梧や相馬勇紀も結果でアピール。浅野拓磨も得点こそなかったものの、貪欲にボールを呼び込む姿勢を保ち続けている。
強化試合としての想定は壊れてしまっていたが、すでに招集歴のある選手たちが連係を絶やさないようにしつつもギラギラとしたプレーを見せることで、経験の浅い選手たちは要求の高さを改めて肌で感じたことだろう。その基準が伝播していくことの価値は小さくない。
さらに、これまでそのポテンシャルが高く評価されながらも決定機で結果を残せていなかった上田綺世が初ゴールをマーク。確かに力の差があったうえ、自ら獲得したPKでの得点ではあったが、どのような形であれストライカーに得点が生まれたことは大きい。ポストワークやスペースメイクも持ち味としながらも毎回の活動毎に得点が奪えなかったことを自省してきた上田は、エルサルバドル戦後に「ほっとした」と胸中を明かしている。
■継続監督ならではの判断
そして、2018年ロシアW杯後から継続的に指揮を執る森保一監督だからこそ得られた収穫もある。日本は4点をリードして迎えた後半スタート時、抜群のプレーを見せていた三笘薫と菅原由勢に代えて中村敬斗と相馬勇紀を投入。試合後、森保監督はこれらが予定していた交代ではなかったと説明している。
「後半の交代については試合前にプランしていたこととだいぶ変えたかなと思います。(当初から)もちろん経験の浅い選手を投入していくことを考えていましたが、勝ちにいかないといけないとき、もしかしたら追いかける展開かもしれないという部分で、違うプランもありました。試合の流れも選手たちが頑張ってくれて、より経験の浅い選手を投入して、この国際試合という経験を踏まえて、チームとしても良い選択肢を持てるように繋げていこうということで、判断を変えて起用しました」
この発言は、森保監督が中心選手の実力を把握しているという前提が無ければ成り立たないものだ。W杯後に監督交代を行っていたとすれば、これまでであれば2回目の活動は中心となる戦力の見定め、もしくは前監督から引き継いだチームに自らのスタイルを浸透させていく段階であり、「良い選択肢を持てるように」とはいかない。一方で森保監督はすでに久保や三笘、堂安律らの特徴を知り尽くしており、新たなトライに乗り出しているとはいえ、ある程度の軸やベースを継続しながら、噛み合わせを確かめている。
もしすべてを白紙の段階から進めていたのであれば、少なくとも相馬を右サイドバックで投入するという発想は生まれず、完璧なクロスから古橋の得点が生まれることもなかったかもしれないし、実力の測りづらい試合では中村敬や川辺駿らを投入するのではなく、伊東純也や遠藤航を送り出してコンセプトを共有することを優先させていたかもしれない。
もちろんエルサルバドル戦で良いプレーをした選手が、W杯でまったく通用しないということは大いにあり得るが、高い解像度で選手の組み合わせを見ることができ、骨格を維持しながら駒の数とバリエーションの拡張に踏み切ることができたのは、継続監督の明確な利点だ。2026年W杯後に「もっと大きな変更が必要だった」という反省が生まれている可能性もあるが、この半年間ですでに表れている変化がどのように広がりを見せていくのか。どこかで試すべきだった日本サッカー初めての取り組みは、着実にその色を見せ始めている。
