名古屋グランパスが8月30日、遵守義務の違反についてJリーグによりけん責と罰金200万円の懲罰処分を受けている。
■試合中止判断に至る報告に虚偽
7月半ばにトップチーム選手の断続的な新型コロナウイルス陽性判定に見舞われた名古屋。同16日に本拠地・豊田スタジアムで開催予定だった明治安田生命J1リーグ第22節川崎フロンターレ戦は「管轄の保健所より7月14日(木)から16日(土)までの間、トップチーム活動停止の指導」を受けたとして、エントリー下限人数を満たせないと判断され、チェアマンにより試合の中止が決定された。
しかし、Jリーグは名古屋の報告に虚偽があったとして8月30日に懲罰を発表。管轄保健所からトップチーム活動停止の指導を受けた事実はなく、クラブの対応方針を是正されたものにすぎなかったことが明らかとなり、「規約第1条のJリーグの目的達成を妨げる行為」かつ「最も基本的な義務である公式試合の日程遵守義務(規約第56条)を安易に回避した疑念を内外に生ぜしめた」として処分に至っている。
それらは同時に規約第3条(順守義務)第2項、「Jリーグ関係者は、第1条のJリーグの目的達成を妨げる行為およびJリーグの信用を毀損する行為を行ってはならない」にも違反。Jリーグ規約の初めに記載されている第1条(Jリーグの目的)では「日本のサッカーの水準の向上およびサッカーの普及を図ることにより、豊かなスポーツ文化の振興および国民の心身の健全な発達に寄与する」とJリーグ運営の目的が掲げられている。
■活動停止前提の指導があったことは事実
とはいえ、けん責と罰金200万円という懲罰内容には、量定に際して参考とされた事情があった。Jリーグでは試合エントリー人数の下限をGK1名含む13名に定めているが、濃厚接触の認定などにより「公的機関から自宅待機等の指示を受けている」選手はエントリー可能選手から除外、ケガなど新型コロナ関連以外の理由によるエントリー不能選手も各クラブが虚偽を述べないことを大前提として人数をカウントしている。
今回の事例では、保健所からのトップチーム活動停止指導という報告により、エントリー下限人数を満たさないことが明らかとチェアマンが判断。しかし、実際は保健所から名古屋に対して「試合中止など経済活動を中止する指導はできない」と明確に伝えられていたとのこと。クラブは保健所へ追加の確認などを行わないまま、チーム活動停止と試合中止の指導は異なると判断していた。
Jリーグはこのことについて、「担当と保健所とのやりとりならびにリーグへの報告内容に対し、組織として再度確認する体制が十分に整えられていない」という背景があったことを確認。一方で、弁護士を交えた名古屋、川崎F、管轄保健所への聞き取り調査では名古屋が故意に虚偽の報告を行ったとは認められず。
さらに、名古屋がチーム活動停止の方針を示した際に保健所側から異議は唱えられなかった。直接的に活動停止の指導を受けたわけではないものの、活動停止を前提とした感染拡大防止に関する指導が行われていた事実が認められている。
他クラブが直近で保健所の指導により活動を停止した事例を基にしても、当時の名古屋の状況では活動停止指導があったと考えても不自然ではないとJリーグは判断。また、その後の調査で陽性者、濃厚接触者、ケガ人などを除外したところ、エントリー下限人数を満たせていなかったことが客観的に明らかとなった。そのため、虚偽報告の有無が開催可否判断に与えた影響が限定的だったことが考慮されている。
■川崎Fもサポーターに謝罪
名古屋は8月30日、Jリーグからの懲罰について公式サイトを通じて謝罪。小西工己代表取締役社長のコメントも伝えられている。
「今回の事案におきましては、安易に日程遵守義務を回避したとの疑念を他のJクラブの皆さまやサポーターの皆さまなどに抱かれかねず、Jリーグの信用を大きく毀損するものであったことを真摯に受け止め、クラブとして二度とこのようなことが起こらないよう再発防止に努めてまいります」
また、再発防止策としては「緊急・重要な事案が発生した際に、対応チームの組成・対応プロセスの検討・社内外の情報集約・進捗管理などを組織的に対応できる体制を再構築する」と記載。組織としての情報伝達や対応に問題があったことを反省している。
同日には川崎Fも裁定結果について、吉田明宏代表取締役社長の声明を掲載。事案発生時から「Jリーグに対して、中止の判断に至った経緯、事象についての説明と公正かつ厳格な裁定を求めてまいりました」と説明し、「あらためて公式試合がこのような形で中止となってしまったことを非常に残念に思っております」との思いを明かした。
続けて、サポーターへの謝罪を述べつつ今後も真摯に取り組むことを約束している。
「また、試合を楽しみにしていた、そして来場を予定されていた多くのファン、サポーターの皆様にご迷惑、ご心配をおかけしたことに関して、大変申し訳なく感じております。川崎フロンターレは、これからもフットボールに真摯に向き合い、目標であるリーグタイトルの獲得に向けて、応援してくださるすべての皆様と共に戦ってまいります」
「けん責と罰金200万円」という量定とは別に、新型コロナ禍での試合運営において各所の認識を促す大きな意味を持つ今回の事例。中止となった第22節の名古屋vs川崎Fは、9月14日に豊田スタジアムでの代替開催が決定している。




