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U-20日本代表、「ビビッてしまっていた」W杯で屈辱と悔恨も次へのステップへ。“空白の世代”が刻んだ最初の一歩

 日本時間28日のU-20ワールドカップ(W杯)2023でU-20イスラエル代表に1-2で敗北したU-20日本代表。グループCを3位で終え、各組3位チームのうち上位4チームにも入ることができなかったため、決勝トーナメント進出は叶わなかった。今大会、失意の結果で終えた要因を整理する。【取材・文=川端暁彦】

■アルゼンチンでの失意再び

「日本の本気と彼らの本気、スイッチを入れる場面ですごく違うし、パワーも違ってくる」

 大会3試合目を終え、冨樫剛一監督はこう振り返った。U-20W杯を通じて浮き彫りになったチームとしての大きな課題は、相手のギアチェンジに対応する能力の不足だろう。

 勝利したセネガル戦を含め、相手がアクセルを踏み込んできた時間帯に圧倒された。失点しなかった1試合は何とか勝利したものの、残りの2試合は踏ん張り切れずに敗れた。

 アフリカ王者のセネガル、南米3位のコロンビア、そして欧州準優勝のイスラエルとぶつかったグループステージは、もちろんイージーな関門ではなかった。24チーム中16チームがノックアウトステージへ進めるレギュレーションと言うと簡単そうに聞こえるが、それは実力的に落ちる国と同居した場合の話である。

 今大会でいえば、フィジーなどがそれに当たるが、明らかに力の落ちるチームがいれば3位抜けは狙いやすい。だがもちろん、日本のグループにそんな展開は起こらず、日本は今から22年前の2001年大会以来となるU-20W杯でのグループステージ敗退となった。奇しくも、同じアルゼンチン大会である。

■埋めがたかった国際経験の不足

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 冒頭で触れた指揮官の言葉に象徴されるように、日本のサッカーと世界大会で体感するサッカーの間には、単純なレベル差とは異なる落差がある。試合の流れ方が違うのだ。緩急強く、勝負所で仕掛けてくる、しかも圧倒されるようなパワーをもって仕掛けてくることに選手たちは驚き、ピッチ上で冷静さを欠いているように見えた。

 イスラエルとの第3戦、日本は相手がギアを変えてきた後半の立ち上がりの時間帯を5バックに変化して一回割り切って受け止めた上で、もう一度4バックに戻して攻勢に転じるというある種の奇策で対応を試みた。ただ、そうした「想定内」の中では曲がりなりにも対応し切れたものが、相手が退場したあとの時間帯で崩れていく。

 日本は1点リードを奪っていて、引き分けでも2位突破は確実という状況の優位性はあったが、相手の勢いと感情的なプレーに気圧される形になっていった。松木玖生の言葉を借りれば、「ビビッてしまっていた」と言える。

 冨樫監督も失点につながった消極的判断を敗因の一つとして挙げたが、個人的には失点したあとに引き分けを選ぶ勇気を持てなかった判断にも疑問が残る。取られたら取り返すと燃える選手心理は理解できるが、やはりそこは大人のサッカーに徹するべきで、他国の第3戦における冷徹な判断を見ていると、改めてどうだったかと疑問に思えてくる。引き分けでいいのだから、引き分けでいいのだ。

 フィジカル面での差はもちろんあったし、おなじみの「足が伸びてきて驚いた」「間合いが日本人と全然違う」といったフレーズも選手からは聞かれたし、監督からも「何回も転ばされているのは私たちのほうで、やっぱり彼ら(海外の選手は)日常のところでやっぱりボールを奪いに行く、直線的に奪いに行くことをやっている」という差も改めて出ていたのは否めない。

 スコア的には僅差であり、少しの運が味方すれば突破もできたとは思うものの、課題の出た試合内容から目を背けても進歩には繋がるまい。冨樫剛一監督は立ち上げから一貫して「『それ』を言い訳にはしたくない」と言ってきたが、やはり出てしまった要素として国際経験の不足は指摘しておく必要がある。

 なぜなら選手や監督の指摘していたような「落差」は例年のU-20日本代表ならば、すでに一定水準以上まで克服した上で臨んでいたからだ。例えば、「すぐに『勝てばよかろう』になってしまうのが日本人だけれど、それではいけない。引き分けもあるのがサッカー」と強調した2017年大会を指揮した内山篤監督は、イタリアと暗黙の談合に思える引き分けを選手たちに選択させ、グループステージ突破を果たしている。ある意味、日本らしくないとも言える強かさを、国際経験を重ねながら獲得してきたはずだった。

 だが、今大会は違っていた。今大会のメンバーにはU-17W杯経験者はいない。飛び級で前回のU-20W杯に出ていたというような選手もいない。なぜかといえば、どちらの大会も新型コロナウイルス禍によって消滅していたからだ。「強度も雰囲気も普通の海外遠征では体感できない」(冨樫監督)のがW杯なのだから、その影響はシリアスだった。

 昨年5月のモーリスレベロ杯、古参スタッフの一人は「高校生のうちに出し切っておきたいような課題がこの時点で出てる。1年遅れの感覚でやっていて、かなり危機感がある」と漏らしていた。選手・スタッフの懸命の努力によって、かなりの進歩を遂げた感触もあるし、欧州から合流してきた選手たちの経験もポジティブに作用したとは思う。やはり埋めがたい何かも残ってしまっていた。

■本当の勝負は大会終了後

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 もう一つ、やはり指摘しておくならば、3月にアジア予選を戦い、5月に世界大会がやってくるこの日程は相当に難しい。アジアと世界のギャップは大きなものがあるし、必要な選手だって変わってくる。従来は前年10・11月にアジア予選があり、少なくとも3月のインターナショナルマッチウィークは「世界大会対策」に充当できたのだが、それが消滅してしまった。

 世界大会とアジア予選の間に欧州や南米のチームと試合を組むことはできなかっただけでなく、所属チームで出番のない選手を中心とした1泊2日の候補合宿を実施したのみ。Jリーグの過密日程に配慮した形だったが、せめて1回くらいは国内組のベストを揃える合宿を用意したかったところだろう。次回大会に向けて、Jリーグサイドも巻き込んでの議論が起こることを望みたい。

「彼らがここでサッカーをやめるわけではないので」と指揮官が言うように、この敗戦で選手たちのキャリアが終わるわけでは当然ない。個々人がそれぞれの課題を痛感したであろう経験を通じてどう化けていくのか。ユース年代の大会において本当の勝負が始まるのは、大会が終わってから。来年のパリ五輪、3年後のW杯でこの敗戦を糧に大きく成長した選手が現れていることを、ただ期待するのみである。

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