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【コラム】世界一を目指すことは当たり前。若き日本代表は“ナチュラル”に頂点を見据えてU-20W杯へ

 遠く地球の裏側で日本サッカーの未来を占う戦いが始まろうとしている。20歳以下の日本代表が挑むのは、FIFA U-20ワールドカップ(W杯)アルゼンチン大会。「世界一」という目標を掲げて活動してきたチームにとって、集大成となる晴れ舞台だ。【取材・文=川端暁彦】

 現地入りした選手たちの口からも自然と「世界一」というフレーズが聞こえてくる。1999年にこの大会で準優勝を飾った当時のメンバー、つまり小野伸二や高原直泰といった選手たちも大会を前に「世界一」という言葉をナチュラルに発していたが、それ以来のことかもしれない。

 もちろん、それが簡単でないことは百も承知した上でのことである。

■「日常が違う選手たち」

 現地入りした直後の15日には、元FCバルセロナのマスチェラーノ監督率いる地元のU-20アルゼンチン代表と練習試合も実施。後半に勝ち越されたものの、メンバーを入れ替える前の前半は松木玖生の得点で1-1のドロー。「選手たちは『勝てた試合だった』と感じている」と冨樫剛一監督が振り返ったように、時差ボケでコンディションが悪い状態で当たった上で、なお手応えを得た。

「1年前に感じたものとはまるで違った」と指揮官が振り返るのは、昨年5月に行われたモーリスレベロトーナメント。新型コロナウイルス禍で途絶えていた海外遠征を初めて行ったチームは、アルゼンチンと対戦して「強度とスピードにビックリして」(冨樫監督)、戦術面でも日本の変化を観てさらに柔軟な変化をしてくる相手に対応できずに苦杯。「本当に多くのことを教わる試合になった」(冨樫監督)。

 この海外遠征からの学びをフィードバックしつつ、個々の意識改革も進んだ中での1年後、同じ相手を向こうに回しての試合を通じて、自分たちの成長を再確認できたことはポジティブな材料だった。

 欧州に飛び立っていった選手たちもこの世界大会を前にチームへ合流。アジア予選でもメンバー入りしているDF髙橋仁胡(バルセロナ)に加え、DFチェイス・アンリ(シュトゥットガルト)、MF福井太智(バイエルン・ミュンヘン)、FW福田師王(ボルシアMG)といった「日常が違う選手たち」(冨樫監督)でチーム力の底上げを図っている。

 3月のアジア予選後、チームは普段Jリーグに出ていない選手たちを中心とした1泊2日の候補合宿を2度行ったのみで、強化合宿や海外遠征などは全く行っておらず、もちろん欧州組を加えて連係を高めるような機会はまったくなかった。 “ぶっつけ本番”に近い状況だが、福井が「バイエルンと違うサッカーだからやりにくいなんてことはまったくないですね。知ってる選手ばかりだし、すぐに馴染めました」と語るように、大きな問題はなさそうだ。

■初戦でアフリカの強豪と激突

20230521_Kumata(C)Getty images

 初戦の相手はU-20セネガル代表。U-20アフリカ選手権を全勝かつ無失点の圧倒的な強さで制した「アフリカナンバーワンのチーム」(冨樫監督)である。少し映像を観ただけでも「相当に強烈なモノを持っている」と言う指揮官の実感がよく分かる難敵だ。伝統的に日本が苦手としてきたタイプでもある。

 ただ、チームに物怖じするような空気感はない。冨樫監督は「選手に感想を聞いたら『コモロっすね』という反応だった」と昨年対戦したアフリカ勢との経験を踏まえ、自分たちの中で早くも対策を立てている様子が観られて頼もしかったと言う。また「アフリカ系の選手とは普段からチーム内でもやっているので」とチェイスが言うように、個々の蓄積もある。

 アジア予選に続いて「ここでも得点王を獲りたい」と豪語するFW熊田直紀(FC東京)は「背は高いし、リーチはある」としつつも、「別に身体能力で負けているとも思わない。ヘッドでも勝ちますよ」とニヤリ。一般的に流布されている「日本は身体能力で負けている」という前提自体に疑問符を打ちつつ、爆発を誓う。

「世界一」という目標設定について冨樫監督は「ナチュラルな選択だった」と言う。「ヨーロッパへ出て行くだけでなく、そこで活躍を目指すことが当たり前になってから育ってきた世代だし、日本のA代表がW杯でグループステージを突破することも当たり前になっているのを観てきた世代」(冨樫監督)である。

 若者がそれと同じことを目指そうというのではなく、その上にいこうと夢見るのは自然なこと。冨樫監督は「そこで指導者が『いや、無理だよ』と言うのは違う。僕ら指導者も、選手たちと一緒にそこを目指す努力をしないといけないと思った」と言う。

 初戦のセネガルから難敵との対戦が続くが、これは世界大会なのだから当たり前のこと。怖いもの知らずの若武者たちの挑戦がどちらに転ぶにしても、本気で勝ちにいくこの世界舞台での経験は、未来への資産になることだろう。

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