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「日本代表国」は森保一政権継続も「内閣改造」へ。史上初の試みで懸念と期待は表裏一体/コラム

 日本サッカー協会(JFA)は森保一監督の日本代表指揮官続投を発表。2026年のワールドカップ(W杯)までとなった新たな任期に向けて、どのようなトライが期待されるのだろうか。【取材・文=川端暁彦】

■継続課題の克服に意義

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 ドーハから北米へ。前例なき「リスタート体制」の発足が、28日にJFAから発表された。森保一監督を3年半後にアメリカ、カナダ、メキシコの三カ国共催となるW杯へ「続投」させることと、体制の刷新が発表された。

 言ってみれば、「内閣改造」の発表だった。「日本代表国」の首相たる森保監督は続投しつつ、それを支える「大臣」たちは大幅な入れ替えとなる。森保監督は自身を「スタッフを信頼して任せて仕事をしてもらい、最後にまとめるタイプの監督」と分析しており、一心同体で仕事をするスタッフに重きを置くタイプだけに、これは小さからぬ変化をもたらすことになるだろう。

 そもそもW杯からW杯への4年間(今回は4年半)の任期をまっとうした日本人監督は森保氏が初めてだったわけだが、「W杯後も継続」となった指揮官も初めてとなる。

 これまではW杯が終わるごとに、リセットボタンをポチッと押すがごとくに目指すスタイルを転換し、選手選考の方向性も変わるのが当たり前になっていたのが従来の日本代表である。西野朗監督のコーチだった森保監督を登用するという4年半前の決断で初めて「継続」の要素が生まれ、今回は監督自体を「継続」させることとなった。

 世界的にも「時間がない」という言葉とセットで語られることの多い代表監督というポジションでは、長期政権を託すのは一つのセオリーではある。たとえば森保ジャパンによって2大会連続のグループステージ敗退の憂き目にあったドイツ代表も、ハンジ・フリック監督の続投をいち早く発表しているが、前任のヨアヒム・レーヴ監督が15年以上にわたって指揮を執るなどドイツは伝統的に自国人による長期政権志向でもある。

 そもそも、自国人監督に任せるメリットは長期政権にもできること、という言い方もできる。その効用は色々あるが、長い目で選手を登用・育成できること、反抗も辞さない(あるいは反抗することによって監督解任を促しかねない)代表のスター選手たちへの抑止力になること、そして何よりW杯で出た反省を次のW杯へ活かせることである。

 従来の毎回リセットボタン形式のW杯の戦い方だと、次の政権に移った時点から前政権で浮き彫りになった課題が雲散霧消するという現象がしばしば起きていた。「それはトルシエジャパンだったからでしょ」「それはジーコジャパンの課題でしょ」「それはサックジャパンのやり方だから」「それは岡田ジャパンの問題に過ぎない」という形で、前政権のやり方を次の政権が否定する中で物事が進み、成果が出た部分も出なかった部分も曖昧模糊になるということが繰り返されてしまっていた。

 その点でリセットボタンではなく、コンティニューボタンを押し込む意義はあると考える。ここで出た課題を克服することを目指しつつ、次のW杯へ活かす。そのチャレンジはこれまでしたことのなかったものでもあるからだ。

■最大の懸念は「マンネリ化」

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 ただ、両手を挙げて大賛成かと言えば、そうでもない。

 第一に、森保体制での成果は東京五輪代表との兼任監督によって実現した部分がかなりあると考えているからだ。

 東京五輪世代の選手が多くW杯メンバーに食い込んだという事実から、下の世代の選手のことをA代表監督が「知っていた」からこそと捉える向きもあり、それは一面の事実だとも思う。ただ、それ以上に「A代表監督によって五輪世代の選手が鍛えられた、また意識を上げられた」効用の結果として、W杯メンバーに多くの選手が食い込んだというほうがより現実に近いと感じている。

 コパ・アメリカやEAFF E-1選手権などでA代表に五輪世代の選手たちが多数招集されたといった分かりやすい事例に加え、シームレスに二つの代表を行き来する選手が生まれたことで、横内昭展コーチ(当時)が言うところの「A代表の感覚を持ち込んでくれる」効果も生まれた。

 チームコンセプトに加え、ミーティングやトレーニングのやり方が共有されている効用によって、下の世代の選手がスムーズに入り込めただけではない。五輪本大会でオーバーエイジとして参加した3選手(吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航)もまた、「何の違和感もなくできている」(遠藤)状態になった。これも従来の日本代表ではみられなかったことだ。

 そして森保監督の指揮下でオーバーエイジの3選手と五輪世代の選手たちが世界舞台での真剣勝負の経験を共有したことは、そのままW杯での一体感ある戦いにも繋がっていった。「継続」においてその成果が継承されないのは正直に言って残念だ。

 もちろんアジアカップの日程がコロナ禍の影響でズレてパリ五輪予選と近い時期に開催されることがほぼ確定したことで、現実的に難しいという判断も理解はできる。ただ、個人的にはアジアレベルの経験よりも、欧州開催でよりハイレベルな戦いになることが期待されるパリ五輪での国際経験のほうがW杯へ直結するとも考える。

 そしてもちろん、日本社会におけるサッカーのプレゼンスを高めるという意味でも、五輪の価値は大きい。「A代表監督の下で」という前提はもはやなくなってしまったとはいえ、ベストオーダーを揃えて五輪に挑戦するという試み自体の継続はあっていいはずで、あらためてその点は検討してもらいたいところだ。

 またもう一つの不安要素であり、期待要素ともなるのがコーチングスタッフの刷新だ。特にサンフレッチェ広島時代以来の右腕だった横内昭展コーチがジュビロ磐田の新監督へ就任することが決まった影響は大きい。森保監督は「横内さんの言うことは自分が言うことだと思ってもらって構わない」とまで言ってのけているが、チームの精神的支柱でもあった横内コーチの退任は確かな不安要素だ。

 ただ、長期政権における最大の懸念は「マンネリ化」でもある。進化を起こせる人材を新たに招へいするというポジティブな解釈もできる。W杯における最大の課題が「ボール保持とその中での前進と崩し」にあることは森保監督・選手ともに一致しており、これを克服するための新コーチという選択には期待感もある。

 3年半後に日本が強豪国を相手にボールを支配して勝ち切るチームになるというのは現実的ではないが、カタールでのそれを「改善」して勝利を上げる余地は十分にある。そのための新たなタレント発掘を含め、五輪以下の各年代の代表とも連携しながらの強化体制構築、そして「新内閣」の人事に改めて期待しておきたい。

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