名古屋・パロマ瑞穂スタジアムで9月20日に行われた天皇杯4回戦・名古屋グランパス戦。セレッソ大阪は開始6分に福満隆貴が奪った1点を守った状態で、残り5分まで戦い抜いてきた。逃げ切りを狙う尹晶煥監督が3枚目の交代カードとして投入したのは清武弘嗣だった。6月25日のJ1・ベガルタ仙台戦で左ハムストリング筋損傷の重傷を負ってから3カ月間、過酷なリハビリに耐え抜いてきた背番号46をついにピッチに送り出したのだ。
走り自体は軽快だったが、一度相手にボールを奪われ、FKを与えてピンチを招いてしまうなど、試合勘の不足は見て取れた。ユン監督が「ご覧の通り、清武はまだそこまでいいコンディションではありません」と言う一方で、本人も「実戦と練習は全然違うなあと思いました」と苦笑したが、シーズン終盤に差し掛かる中でチームに戻れた安堵感を漂わせていた。
今季の清武はケガに泣かされ続けてきた。最初はセビージャから古巣に戻った2月の右でん部違和感だ。2月25日のJ1開幕・ジュビロ磐田戦から2戦を欠場することになり、3月11日のコンサドーレ札幌戦で復帰を果たしたが、3月末の練習中に左大腿四頭筋を損傷。4月中旬からピッチに戻ったものの、今度は6月頭に右太もも裏を痛めて2週間後に復帰するという出入りの激しい状況に陥った。
清武はこの頃、「ケガをしないためにいろんなトライはしているんですけどね」と話していたが、成果が出ないどころか、直後に全治8週間という重傷を負ってしまった。思い起こせばハノーファー時代の15−16シーズンにも2度の右足第5中足骨骨折に見舞われているが、近年は負傷の頻度が高くなってきている。その悪循環から抜け出ない限り、清武が本来の輝きを取り戻すのは難しい。誰より本人が一番理解していることであるため、今回は焦らずじっくりケガを向き合う必要があると判断。8月半ばまで都内でリハビリに専念し、大阪に戻ってからも1カ月以上の時間をかけて調整を積んできたのだ。
「ハノーファーの時は焦りはそんなになかったですけど、今回日本に帰ってきて、ケガが4回続いた。3回目まではすごい焦りがあって、今回も正直そういう気持ちはありますけど、ここまで我慢したんで、じっくり取り組むしかない。チームも調子がいいんで、この流れに乗っていけるようにしたいなと思います」
同僚で、チームの中心選手でもある山口蛍は「キヨ君はコンディション的にまだ最初から行くっていうのはちょっと厳しいというか、きつい部分もある。これから試合をこなしながら、徐々に上げていってもらって、チームが一番きつい最後にいてくれたらいいかなと思いますね」と期待を口にしたが、名古屋を1−0で下した天皇杯を筆頭に、ルヴァンカップ、J1と、今のセレッソには3つのタイトルを獲得する可能性が残されている。ここから過密日程が続くだけに、清武が10月以降に本調子を取り戻してくれれば、チームの大きな活力になるのは間違いない。
名古屋戦翌日の練習後、清武はタイトルへの強い思いを改めて吐露した。
「セレッソは今までタイトル取ったことがないチーム。この時期まで3個もタイトルを取れるチャンスがあるっていうのは滅多にないことですし、去年J2から上がってきて今年、こういうところにいられるのはすごいチャンス。これをモノにするしかないと思うし、これを逃したら当分、タイトルに近づけない可能性もあるので、何が何でも取れるタイトルは全て取りたい。1つでもタイトル取ったら、セレッソはもっともっといいチームに近づける。今は全員がそういう気持ちでやってると思うし、自分が少しでもプラスになれるようにいい準備をしたいです」
J1の方は目下4位で、首位・鹿島アントラーズと勝ち点10差まで開いてしまった。しかし、2位につける川崎フロンターレとの対戦を30日に控えていて、巻き返しのチャンスは皆無ではない。
もちろん、キャプテンの柿谷曜一朗が「キヨが帰ってきたってことは誰かが出れなくなるかもしれないし、キヨがスタメンを約束されているわけでもないということ」と言うように競争に勝たなければ定位置は手にできない。ここ最近は右サイドに定着している水沼宏太が絶好調。柿谷も左で黒子の役割に徹しながら、得点に絡む回数を増やしつつある。カップ戦要員と位置付けられている福満、関口らも悪くないだけに、世界を舞台に活躍してきた清武と言えども状況は決して甘くない。
しかし、その試練を乗り越えた先に、悲願のタイトルが見えてくる。
そして日本代表復帰、2018年ロシアワールドカップ参戦の道も開けてくるはずだ。
「代表のことは今は全然考えてない。(日本代表が)オーストラリア戦でロシア行きを決めてくれたので、Jにいる選手は誰が入るか分からない状況ですし、そういうチャンスをくれたのはすごい有難いなと思います。今は早くトップコンディションに戻したい。それしか考えていないですね」
そう語るように、本人はあくまで目先のことに集中している。しかし、2014年ブラジル大会を不完全燃焼のまま終えた時、「次はハセ(長谷部誠=フランクフルト)さんみたいにキャプテンマークを巻いてワールドカップのピッチに立ちたい」と発言した過去があるだけに、ロシアへの思いは強いはずだ。
そういう大舞台が清武弘嗣にはよく似合う。だからこそ、今回こそ、ケガという悪循環から完全に脱して、卓越したテクニックと創造性を発揮できる環境を整える必要がある。
取材・文=元川悦子
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