この日、千葉での実戦デビューとなったMF猪狩祐真は59分からボランチで出場。巧みなボールタッチで存在感を放つと、66分にはクロスボールからFW石川大地の同点弾をアシストした。
どん底を味わった男がつかんだデビュー戦
©Hiroto Taniyama
ジェフの背番号33がスタートラインに立った。
「やっとのデビュー戦だったので、強い気持ちで『絶対に結果を残してやる』と思って、ピッチに立ちました」
昨季より産業能率大から千葉に加入した猪狩だったが、ここまで公式戦の出場はゼロだった。
関東大学サッカーリーグ2部で得点王を獲得した期待を背負っていたが、度重なる負傷などの影響もあり、ピッチに立てない時間が続いていた。
「初めてサッカーをしたくなくなった」と夜も眠れないほど思い悩んだ。一時はサッカーの情報をすべてシャットアウト。プロへの道を切り開いた自分の実力にも懐疑的になり、自信も失った。
「正直、本当につらくて、もう辞めようかなって…」
どん底だった。それでもなんとか踏ん張れた原動力は感謝の気持ちだ。
もともとは自身の悩みを人に打ち明けることが苦手だったが、苦しんでいた同選手を知人やこれまでの指導者たち、千葉の仲間がサポート。「話を聞いてもらうことで助けてもらった。いろいろな方のおかげでサッカーの世界に戻ってこられた」と情熱を取り戻していった。
コンディションが回復し始めた去年の夏ごろからは、段階を踏みながら全体練習にも復帰。トレーニングでは、巧みなボールタッチとパンチのあるシュートを披露する猪狩の姿があった。
「いままで支えてくれた親や監督とスタッフ、育ててくれたチームに対して、プロの舞台で戦う姿で恩返しをしたい気持ちが強かった」と努力を続けてきた。
そして迎えたこの日のちばぎんカップ。17季ぶりのJ1復帰を果たした千葉は、今季の優勝候補の柏に挑んだ。
初アシスト記録も目線は開幕戦
©Hiroto Taniyama
立ち上がりから昨季のJ1を2位でフィニッシュした柏に圧倒され、前半をシュートゼロ本で終えた千葉。
なかなかビルドアップで前進させてもらえない苦しい展開が続いたなか、0-1で迎えた59分に猪狩はピッチに立った。初のメンバー入りは試合の前日に告げられたが、「すごくうれしかったですね。『早く試合に出たい!』と思って。デビューの日を信じて、準備してきたから自信もあった」と緊張はしなかった。
ボランチの位置で投入された背番号33は、柏のプレッシングにも臆さずプレーした。細かいタッチと正確なキックでビルドアップに貢献し、守れば全速力でプレッシャーをかけた。
「ボール受けてリズム作るのが自分の長所です。だから相手がどんなに前から来ても、そこで臆病になっていたら自分が入っている意味がない。人それぞれの特徴があるなかで、自分はジェフの武器であるサイドアタッカーへの中継役になることが与えられたタスクでした」
そして待望の瞬間は66分に訪れた。
右ショートコーナーからのボールを同サイドで受けた猪狩は落ち着いてワントラップ。ゴール前の状況を確認してから供給したクロスボールは石川の頭にピンポイントでつながり、同選手のヘディング弾で同点に追いついた。
「めちゃくちゃうれしかったですね。大学からずっとキッカーをやっていたので、『ここに入ってこい!』とボールを蹴りました」とプロ初アシストだった。
その後も逆転を目指した千葉だったが、83分に柏MF久保藤次郎の左足ミドルシュートで失点。反撃は実らず、1-2で敗れた。
千葉にとっては、2月7日に迫った明治安田J1百年構想リーグに向けて課題の多い一戦となった。それでも実戦デビューを果たし、結果を残した猪狩にとっては大きな収穫となったはずだ。
猪狩の表情は満足感よりも、開幕戦への意欲で満ちあふれていた。
「チームとして負けてしまったので、自分を祝うというのはありません。みんなで次を見ているし、自分もここで満足していない。開幕戦も始まるので、そこでスタメンを狙えるように準備したいです」と力強かった。
スタートダッシュには出遅れたが、この経験は無駄ではなかったとプレーで証明する。
猪狩は「自分はこれまでに1試合も出られなかったなかで、ポンっと試合に出されたときに結果を残していかないといけない。それでも1試合で人生を変えられるのがJ1だと思います」と、これまでの悔しさをJ1の舞台で晴らすと誓った。
取材・文=浅野凜太郎



