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「ぶっちゃけ、『PKになるな』と思っていた」。東福岡の大きな守護神が、神山竜一コーチと掴んだPK勝利

第103全国高校サッカー選手権の1回戦が各地で行われた。NACK5スタジアム大宮では尚志高校(福島)と東福岡高校(福岡)が対戦。高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024に所属する大会屈指の実力校同士の対戦は0-0の痛み分けに終わり、PK戦で決着をつけることとなった。「自信はなかった」と言う東福岡のGK後藤洸太を支えたのは、信頼する元Jリーガー・神山竜一コーチの言葉だった。

(取材・文=川端暁彦)

バチバチのスコアレスドロー

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 寒風が吹き込むスタジアムで、尚志と東福岡は最後まで強度高く激しく体をぶつけ合っていた。

 序盤からどちらも相手の堅い守備を切り崩せず、ジリジリと時間が過ぎていくタフな展開に。後半はどちらも消耗の色が出る中で切り札として投入された選手たちがそれぞれの個性を見せたものの、結局ゴールは生まれないまま、瀬田貴仁主審による終了のホイッスルが鳴り響いた。

 東福岡の平岡道浩監督の試合前の見立ては、守備の良いチーム同士の対戦とあって「1点勝負」という想定だった。ある意味で思惑どおりの試合運びとなったわけだが、「強かった」と率直にリスペクトを口にした尚志の守備を打ち破れず、決着はPK戦へと持ち込まれた。

「PKになるなと思っていた」

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 今季の東福岡が公式戦でPK戦となるのは2度目のこと。最初の1度は今年の県新人大会で、ここで福岡大若葉に苦杯を舐めた嫌な記憶も残っている。ただ、それだけに「PK戦の練習は積んできた」と平岡監督は言う。

 大会前に2部練習をやるときも必ず午前・午後の両方で練習終わりにPK戦を採り入れていたそうで、試合形式でPK勝負を実施。本大会に向けての準備を進めてきた。キッカーになった選手たちが軒並み「自信はあった」と振り返ったとおり、際どいコースへ強いキックを蹴り込み続け、5人全員がパーフェクトに成功してみせた。

 一方、「自信はなかったです」と率直に明かしたのは、東福岡のGK後藤洸太だった。

 191cmの大きな体はゴールに立っているだけで威圧感まで漂ってくるが、PK戦で負けた記憶が残っていたことに加え、「練習でPKを全然止められていなかった。ぶっちゃけ、『PKになるな』と思っていました」と言うほど悪いイメージまで持っていたと言う。

 迎えた尚志とのPK戦も3人続けてシュートを決められてしまい、苦しい流れに。ただ、そこで尚志の4人目に対しては、それまでのルーティンを崩してキッカーの前まで一回出ていって圧力をかける形に変更。「何かを変えなければと思って、相手の嫌がることをしてやろうと思った」というとっさの行動だったが、そこからの横っ跳びで見事に弾き出す。これが勝利を手繰り寄せるビッグセーブとなった。

元Jリーガーの神山コーチ

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「神山さんに『自分の決めた方向へ思い切り跳べ』と言われていたので、そのとおりにやりました」(後藤)

 ここで言う“神山さん”とは、昨年途中からGKを担当するコーチを務める神山竜一(写真向かって右)さんのことだ。

 かつてアビスパ福岡などで活躍した元プロ選手であり、全国高校サッカー選手権にも立正大淞南高校のGKとして3年連続で出場した経験を持つ。そんなコーチの下で、「自分で決めたことについて自信を持ってやることを教わりました」(後藤)。

 神山コーチはPK戦へと向かう後藤にも「俺はお前を信じて送り出すだけ」と声を掛けていたと言う。

「PK前に『どうする?』と話はしたんですが、『相手を観て、自分を信じて反応するだけ』と話していたので、『それでいい』と。信頼していましたし、(PK戦でのGKは)ヒーローになるだけなんで」(神山コーチ)

 神山コーチはプロとして活躍していた時代も豪快で思い切りの良いゴールキーピングが魅力だっただけに、何より“自信”を持って戦う重要性を叩き込んでいたわけだ。

 後藤については「よくしゃべるようになった」と精神的な成長も感じていたと言い、また技術的にも確かな進歩を見せてきた。フットワークの改善など、体の大きいGKが抱えがちな課題にも地味な取り組みを続けた成果も着実に出てきている。

 神山コーチが「プロを目指してほしい」と語る大器は、これまで足りなかった“自信”という武器を得つつある。あとで振り返ったとき、今回の選手権が「後藤洸太がブレイクした大会」と思い出されることもあるかもしれない。

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