8月5日の第19節・コンサドーレ札幌戦まで死守していた首位から陥落し、26日の第24節・鹿島アントラーズ戦終了時点では5位まで順位を落としたセレッソ大阪。その後、代表ウイークに突入し、チームはルヴァンカップ準々決勝で浦和レッズと対戦。2戦2引き分けながら、アウェーゴール数で上回り、待望の4強入りを果たした。
その傍らで、山口蛍と杉本健勇は日本代表、キム・ジンヒョンは韓国代表にそれぞれ参戦。山口は8月31日のオーストラリア戦(埼玉)で右インサイドハーフを務め、ロシア・ワールドカップへの切符を引き寄せる原動力となった。続く9月5日のサウジアラビア戦(ジェッダ)もフル出場。今度はアンカーとして獅子奮迅の働きを披露した。杉本も後者の後半22分から岡崎慎司(レスター)と交代して初キャップを飾ったが、ゴールという結果を出せず、敵地黒星という苦渋を味わった。キム・ジンヒョンの方はイラン(ソウル)・ウズベキスタン(タシケント)という凄まじい重圧のかかる2連戦に赴き、出番こそなかったが、最終戦で本大会出場権を獲得。これを手土産にセレッソに戻ってきた。
彼ら代表組3人が加わってチームがどのように活性化されるのか。そこが9日のJ1第25節・FC東京戦の最大の注目点だった。負傷離脱していた山村和也も9月3日に埼玉で行われたルヴァン杯で復帰。この日もスタメンに名を連ねた。清武弘嗣は依然としてリハビリ中だが、尹晶煥監督が主力と位置付けるメンバーが揃った状態で、味の素スタジアムでの一戦に挑んだ。
先手を取ったのはセレッソ。開始11分、2年前までFC東京でプレーしていた右サイドバック・松田陸が相手守備陣の連係ミスを突いていきなり先制点を手に入れる。「この得点はごっつあん。宏太(水沼)君にあそこを狙えと言われていた」と本人も言う通り、してやったりの1点だった。これで相手を意気消沈させたセレッソはさらに押し込み、前半終了間際に水沼のクロスにファーから飛び出したキャプテン・柿谷曜一朗が右足を一閃。彼らしい嗅覚を前面に押し出した追加点が生まれ、いい形でハーフタイムに突入した。
2−0で迎えた後半、FC東京はピーター・ウタカら攻撃カードを次々と切ってきた。そこで尹晶煥監督は10分過ぎから山村を下げて5バックへシフト。「今季の勝ちパターン」に打って出る。その矢先にウタカに1点を許し、不穏なムードが漂ったが、エース・杉本が終盤、相手を突き放す。後半33分に自らの突破から吉本一謙に倒され、得たPKを決めて3点目を挙げると、後半40分にはソウザの左CKをニアサイドでピンポイントヘッド。4点目を叩き出し、チームに4試合ぶりの白星をもたらした。
「サウジではもう悔しいというか、力になれなかったので、試合が終わった時に『戻ってここでやるしかないな』『自分のレベルを上げるしかないな』と思った。サウジからの移動のきつさはありましたけど、自分は試合がしたくて。チームで勝ちたいって気持ちが強かったので、疲れのことは全然頭になかったですね」と今季通算得点を16に伸ばし、興梠慎三(浦和)とともに得点ランキングトップに立った杉本は語気を強めた。取材ゾーンで偉大な先輩・大久保嘉人(FC東京)に「来たな、得点王。今年取らんと取れんぞ」とハッパをかけられ、まんざらではない表情を浮かべた通り、これまで縁遠かったA代表という舞台に初めて立ったことで、彼の中で高見を目指す意識が明らかに変わった。それは山口も認めているところだ。
「健勇は気持ちの面を含めて変わったと思う。今日も動き自体はしんどそうでしたけど、しっかりFWとしての仕事をしてくれた。ああやって点を取り続けてくれれば、あとは後ろの自分たちが頑張れば勝てる」とA代表の先輩もさらなる奮起に期待した。
山口自身も杉本にいい刺激を受けつつ、さらなるレベルアップを期している様子だ。彼は前述の通り、代表2連戦でフル出場し、中3日でFC東京戦に挑んだが、運動量が落ちるどころか、普段以上にボールを奪って前へ出ていく回数が多かった。前半41分には前線に果敢に飛び出して決定機を迎え、後半38分にも杉本のタテパスからゴール前でフリーになった。これを決めていれば、「蛍にはもう少し攻撃の仕事をしてもらいたい」と常日頃から注文をつけているヴァイッド・ハリルホジッチ監督を唸らせることができたのだが、残念ながらゴールには至らなかった。それでも本人は「きつい時に前へ出ていくっていうのが自分の持ち味でもあると思うし、今日はそれが結構できたんで。決めたかったけど、チームが勝ったんで全然OKです」と納得の表情を浮かべた。
あらゆる環境の変化にも瞬時に対応でき、タフに戦い抜ける中盤のダイナモは、セレッソにも日本代表にも不可欠な存在になっている。ただ、セレッソに初タイトルをもたらし、9カ月後のロシアワールドカップで輝くためには、もう一段階の飛躍が必要だと本人も自覚している。
「(代表でもセレッソでも)もうちょっと中心的な存在、引っ張っていく存在になっていかなくちゃいけない。サウジ戦もオーストラリア戦みたいに前から行けるメンバーが揃ってたわけでもないのに、同じことをやろうとしたから、あんまりうまくいかなかった。もう少しスッパリ試合の中で諦めるというか、切り替えて違う戦い方をした方がよかった」と彼は言う。足掛け5年間A代表で戦っている山口は試合中に察知したことを周囲に発信し、戦術を微調整するような役割を担ってもいい。そういう前向きな進化を求めたい。
そして、韓国代表で修羅場をくぐったキム・ジンヒョンの経験も今後のセレッソや彼自身に生かせるだろう。
「この2試合(イラン・ウズベキ戦)は特にプレッシャーがかかる戦いだったけど、このくらいのプレッシャーを毎試合感じて戦わないといけなかった。何となく『(ロシア)行けるでしょ』という雰囲気があったし、今回は前の8試合と気持ちの部分が全然違った」と守護神は話したが、それは2014年にJ2降格を強いられ、2年間もJ2での足踏みを強いられたセレッソにも通じる部分かもしれない。今季はゼロからの再出発を図り、尹晶煥監督の強調するハードワークと献身性ををベースにここまでいい戦いができているが、タイトルを目指そうと思うなら、つねにそれをピッチで実践しなければならないはずだ。
セレッソは目下、J1・4位。トップを走る鹿島とは勝ち点7差だが、2位・川崎フロンターレ、3位・柏レイソルとはわずか1差。優勝争いには食い込んでいける可能性はまだまだある。加えて、ルヴァン杯、天皇杯も手が届くところにある。悲願の初タイトルに向け、代表組3人がもたらせるものは非常に多い。彼らには先陣切ってチームをけん引してほしいものである。
文=元川悦子
