■30分で散ったサラーの夢
Getty Images昨年のチャンピオンズリーグ決勝のハイライトに、ステーキに塩をふりかける男が登場することを誰が予想しただろうか。
ヌスレット・ギョクチェという男の名前を聞いたことがあるかもしれない。彼は一風変わった動画でインターネットを賑わせて、人気者となった人物だ。
いわゆる「塩振りおじさん」と呼ばれる彼が、どんな経緯でここまで有名になったのか疑問に思う人も多いだろうが、彼は肉を焼き、味をつけ、スターになった。ただそれだけだ。つくづく、世の中何が起こるのかは誰にも分からない。
1年前、ギョクチェはチャンピオンズリーグ決勝の舞台であるキエフで大暴れしていた。彼はガレス・ベイルやクリスティアーノ・ロナウド、セルヒオ・ラモスらとともに、ビッグイヤーと肩を並べ、写真を撮っていたのだ。サングラスからは笑みがこぼれ、もちろん塩をふりかけるパフォーマンスも忘れなかった。
インスタ映えを狙ってそうした写真を撮った彼だったが、中にはショックに打ちひしがれたモハメド・サラーの姿もあった。「世界が崩壊したかい? それなら、ちょっと1枚写真でもどうだい?」とでも声をかけたのだろうか。
サラーの涙はまだ乾いてはいなかった。痛めた左肩は吊り下げられ、表情には肉体的にも精神的にも「痛み」がにじみでていた。彼は途方に暮れており、心が折れてしまっていたのだ。
「こんなはずではなかった」
この決勝の舞台で、サラーは自らが世界で最も優れたプレーヤーの一人であることを証明するはずだった。彼の堂々たるリヴァプールでの最初のシーズンは、この大会で華々しく彩られるはずだったのに。
サラーにとってのこのビッグ・ナイトは、たったの30分で終わってしまった。彼の夢は、セルヒオ・ラモスのラフプレーによって散ってしまったのだ。そこに栄光は残らなかった。残ったのは壊された肩、望まない写真、そしてスーツケースいっぱいの後悔だけだった。
■CLだけでなくW杯にも影響

それから12カ月が経ち、名誉挽回のチャンスが巡ってきた。6度目のチャンピオンズリーグ(旧チャンピオンズカップを含む)の栄冠を目の前にして、マドリードにてトッテナムと優勝をかけて争うリヴァプールのモチベーションは半端なものではない。
「サラーは、もう一度あの舞台に立つことを心待ちにしていると思うよ」
ジョーダン・ヘンダーソンはそのように語っている。
「当然だが、チャンピオンズリーグ決勝の舞台で自分の力を示すことが彼にとっての大きなモチベーションになっているんだ。そしてゲーム全体を通して、彼がそれを可能にすることを願っているよ」
サラーのリヴァプールでの最初のシーズンは、称賛に値するものだった。公式戦では44ゴールをマークし、記憶に残る多くのゴールを挙げてみせた。さらにそうした活躍により、個人タイトルはサラーが総なめ。ここイングランドで、将来有望なタレントの一人から絶対的なスターへと変貌をとげ、彼の名は世界に轟いたのだ。
しかし、キエフで起こった出来事は、サラーに長く暗い影を落とした。エジプト代表としてワールドカップに出場するために、ラモスとの「絡み合い」から3週間での回復をみせたサラーだったが、本来であればそのケガは、本調子を取り戻すには数カ月かかるものであった。
クロップは12月に、サラーの苦悩について明かしている。
「もしあなたがオフィスワーカーで、肩の状態が100%ではなかったとしても、それが利き手でなければ何も問題はないはずだ。しかし、もしあなたがプロのフットボーラーだったなら、その能力の10~15%は奪われてしまうだろう」

サラー自身も、『Bleacher Report』のインタビューに対して、キエフの事件の後に味わった「痛み」について語っている。
「あのときは本当に、ひどく精神的に参っていた。交代を告げられた後、更衣室に行ってただ涙を流したよ。チャンピオンズリーグもワールドカップも終わってしまったと思ったんだ。僕にとっては本当にタフな出来事だったよ」
■ビッグイヤー獲得は「悪夢払拭」を意味する
Getty Imagesサラーは、2017-18シーズンの偉業によって高まった期待が、今シーズンになって自らに新たなチャレンジをもたらしたことを理解している。彼は多くの試合で新たな役割を与えられ、クリスマス前のゲームでは4-2-3-1のシステムで「No.9」としての仕事を任されたが、彼の調子に関しては議論が絶えなかった。
「1つ前のシーズンで40そこらのゴールを挙げれば、次は60ゴールを要求される。さらにその次のシーズンでは90ゴールが求められるんだ!」
「そんなにうまくいくものではないよ。だけどもし僕が30ゴールを挙げてチームが3位や4位に終わったとしたら、みんな満足してくれるかな? 答えはノーだ」
こうした言葉は、サラーのレジリエンス(ショックからの回復力)の高さや、降りかかった災難を乗り越えてみせたという自らの能力への自信を証明するものだ。
強い意志を持ち、ひたむきにハイ・スタンダードを追求する姿勢や、常に自分を高めようとするこの26歳の欲求は、彼がアンフィールドに足を踏み入れたそのときから異彩を放っていた。
これまでリヴァプールで103試合に出場したサラーは、70ものゴールを挙げてきた。プレミアリーグのゴールデンブーツ(得点王)を2度獲得したうえに、昨シーズンはPFA年間最優秀選手賞も受賞した。さらには2年連続でアフリカ年間最優秀選手賞をも獲得し、昨年の11月には『Goal 50』において3位に選出されている。また、4月にチェルシーを相手に奪った目を見張るようなゴールは、今シーズンのリヴァプールのベストゴールに選ばれた。
こうした輝かしい成績を残してきたサラーだが、マドリードでの決戦で彼を待つ栄光はまた格別のものだ。1年越しにキエフでの悪夢を払拭するため、サラーの準備は整っている。スパーズは心して戦わなければならない。
文=ニール・ジョーンズ/Neil Jones
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