西野スタイルの真実。G大阪に黄金時代をもたらした日本代表新監督の手腕を探る

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「西野監督」と言えば、G大阪時代のスタイルから“攻撃サッカー”の印象が強い。それでは日本代表監督として、どのようなサッカーを目指すのだろうか?12日の就任会見で語った言葉の中から、そのスタイルを読み解く。

■「信条」につながった結果としての攻撃サッカー

4月10日に西野朗氏の日本代表監督就任が発表されてから、連日あちこちの報道で「西野監督」の文字を目にする。

その響きを聞いて脳裏に蘇るのは、やはりガンバ大阪で指揮を執った『西野監督』の姿だ。もちろん“マイアミの奇跡”で知られる1996年のアトランタ・オリンピック代表監督としての姿もいまだ語り継がれる代名詞の一つだが、2002年から2011年まで、Jクラブの監督としては史上最長の10年間にわたってG大阪に残した爪痕は、多くのサッカーファンにも強烈なインパクトとして刻まれていることだろう。

その最大の爪痕として知られるのが、氏が作り上げた“攻撃サッカー”だ。

ボールを支配しながら常に点を取ることを目指した攻撃サッカーがG大阪の代名詞となり、ひいては、どんな状況に追いやられても決して攻めることを諦めないスタイルを「取られても取るサッカー」と表現されるようになったのは、G大阪がクラブ史上初のJ1リーグ制覇を実現した2005年頃から。

その姿勢を貫きながら、無敗でアジアの頂点に立った08年のAFCチャンピオンズリーグや、同年末に戦ったFIFAクラブワールドカップのマンチェスター・ユナイテッド戦は「取られても取るサッカー」を完全に世に定着させた代表的な戦いでもある。

では、そもそも、西野氏の理想のスタイルは“攻撃サッカー”なのか。

これについては、様々な憶測が交錯する。例えばアトランタ五輪でのブラジル戦が勝利を賞賛される一方で、「“守備的なサッカー”と揶揄されたことへの反発だという声も聞かれれば、氏が「現役時代から大ファン」だと話していたヨハン・クライフ氏のパスサッカーに魅了されたから、という説もある。だが、G大阪での10年間の戦いを見てきた限り、また、氏の口から聞かれた言葉から推測しても、その理由は実にシンプルだったと考える。

今から2年ほど前、日本サッカー協会技術委員長の職に就いていた氏にG大阪時代の話を聞く機会に恵まれたが、氏は「世の中が思うほど、僕は攻撃サッカーがすべてだと思っていたわけではない」と全容を語ったものだ。

「当時、僕が最初から『取られても取るサッカー』を目指したのかと言えば、実はそうでもなくて。もちろん、選手時代から守るより攻めるほうが好きだったし、だからこそ、指導者になってからも『攻撃権』を奪うための作りは強調してきた部分ではある。でも、だからといって、守備をしなくても攻撃すればOKと言った覚えはないし、むしろディフェンスについて言葉を発するほうが多かった。

なのに、いざゲームになるとクローズアップされるのは攻撃のことばかりだったというか(苦笑)。当時はヤット(遠藤保仁)、ミョウ(明神智和/現AC長野パルセイロ)、ハシ(橋本英郎/現東京ヴェルディ)、フタ(二川孝広/現栃木SC)ら、構成力のあるタレントが中盤に揃っていたし、その中盤でのボール保持率を高めることで攻撃のスイッチを入れられる状況を数多く作り出したかったからこそ、『スムーズに攻撃に移行するために、いかにボールを奪うか』を強調していたけれど、試合後にいつも注目されるのは『何点、取ったか』だけだった」

その上で、氏はこうも言葉を続けている。

「でも、当時は実際にタレントが揃っていたのは事実で、彼らの個性を生かすサッカーは自分の信条にリンクした部分ではあったと思う。そういう意味では、僕のスタイルとされた“攻撃サッカー”は、僕が目指したというより、当時のタレント、彼らの良さをより生かすために実現したスタイルだった。ただ、繰り返すけどそのベースが常に“ボール奪取”にあったことは間違いない」

加えて言うなれば、“個を生かしたサッカー”を実現する中で、氏が尊重したのは選手のイマジネーションだ。西野氏の言葉にも登場した二川は、氏によってクラブ史上初となる日本人『10』番を任された選手だが、寡黙で言葉少ない性格の彼が、アカデミー時代から培ってきたプレーのイマジネーションを存分に開花させ、日本代表に選出されるまでに成長を遂げたのは、西野氏との出会いによるものも大きい。

■就任会見で語ったG大阪時代と重なる言葉

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G大阪時代の話が長くなったが、これらを改めて記したのは、その中に氏が日本代表監督として指揮を執る上でも重視するであろうワードが含まれているからだ。事実、12日の就任記者会見では、G大阪時代と重なる言葉がいくつも聞かれた。

「選手にはあまり個人のプレーに制限をかけたくない」

「選手が構築してきた技術力を最大限に活かし、戦い方としても、組織や結束力といった化学反応を強みにしていく」

もっとも西野氏も会見で話していたように本来、既存の選手をいかに生かすのかを考えるクラブチームでのチームづくりと、理想とするサッカーに沿って選手をセレクトできる代表チームのそれとでは、根本的にチームの作り方は違う。

だが、W杯まで約2カ月のタイミングでの就任となった中で、選手選考については「前監督がラージリストを作成してきた中で、ベースになる選手は変わらない」と話していることを考えれば、氏はこの先、クラブチームでのチームづくりと似た手法で、つまりリストにある選手の個性を最大限に生かすことを考えたチームづくりを行うはずだ。であるならば、先に挙げたG大阪時代の話もすべてが過去の話ではないだろう。

事実、氏は会見で「攻撃的なサッカーにチャレンジするのか、守備的なサッカーで勝ちに行くのか」との質問に、こう明言している。

「攻撃的に、得点を生むためのゲーム展開にしたいと思いますが、それだけではなく、ウィークポイント、ストロングポイントがどこにあるのか。スカウティングでの結果をチーム全体として意思統一した上で、オフェンシブな戦い方を求めたい」

ただし、G大阪時代と違うのは、与えられた猶予がわずかな期間しかないこと。その限られた時間の中で、いかに理想へと近づけるのか。氏がかつて現場に流してきたヒリヒリとするような緊張感と、それによる様々なプラスの化学反応を思い起こしながら、今はただその化学反応が日本代表チームにも爆発的に起きることを願うばかりだ。

文=高村美砂

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