2019-08-14-kagawa(C)Goal

衝撃、熱狂、そして歓喜――。香川真司、泥まみれのサラゴサを灯す希望の光

■非現実

「衝撃的な選手が加入するぞ」

レアル・サラゴサの指揮官ビクトール・フェルナンデスの言葉は、まさに爆弾発言だった。いや、打ち上げ花火の導火線に火をつけた、という比喩の方が良いだろうか。果たして、どんな花火が打ち上がるのだろうか。期待は一気に膨れ上がった。

「歴史的クラブが落ちぶれ続けるこの悲惨な町で、一体どんな選手がやって来れば衝撃的になるっていうんだ?」

ドーン! 打ち上がった花火は、音も巨大さも彩りも、想像を超えていた。サラゴサがボルシア・ドルトムント、マンチェスター・ユナイテッドでプレーした日本代表の香川真司を獲得――その炸裂音と見物客の歓喜の歓声は、世界中に反響した。サラゴサにとっては、本当に久しぶりの大物獲得となった。

一人間がどんなに変わろうとも結局は同じ人間であるように、私たちは私たちの町のフットボールクラブを、サラゴサを誇っている。愛している。だがしかし、アラゴン州の名門クラブがそのDNAに刻まれているものを忘れて、ずいぶんと時が経ってしまった。レアル・マドリーを6-1で葬った、あの2006年のコパ・デル・レイはもはや遠い過去のことだ(※準決勝ファーストレグ。2試合合計6-5で決勝進出も、エスパニョールに敗れ準優勝)。

サラゴサは劣悪な経営と多額の債務を抱えたことで衰退の一途をたどり、7シーズン連続でリーガ2部でプレーするというクラブ史の中でも黒に黒を重ねる闇の物語を紡いでいる。だからこそ、香川の到着は物語の転換点になるかのように光輝く。このスポーツの規範において、これだけの選手が今のサラゴサにやって来るなど非現実的でしかない。フットボール界のスターが本来いるべきところではない、泥にまみれた場所でプレーすることを決意した。それもスペインのフットボールを楽しみ、成功をつかむという大きな期待を持って……。ドーン! 歓喜は爆発する。逆説的ではあるが、こんな幸せはフットボールでしか味わえないのかもしれない。

「レアル・サラゴサは日本のスター、シンジ・カガワを獲得した」

何て響きだろうか。まるでフェイクニュースのようである。しかし、違う。何回も頬をつねってみても、これは現実だ。1500万ユーロほどの予算しかなく、補強に苦労しかしないクラブが、日本のフットボールの象徴的選手の一人を獲得できるなんて……。まるで、私たちをリーガ1部やUEFAカップを戦った2000年代へと引っ張ってくれるようだ。ダビド・ビジャ、ディエゴ・ミリート、ジェラール・ピケ、パブロ・アイマールを獲得したあの日々のそよ風が、私たちの頬を撫でている。年配のサポーターたちには懐かしく、少年たちには新鮮な風である。

■希望

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サラゴサの今季の目標は、もちろん1部昇格だ。チームを率いるビクトール・フェルナンデスは、この文章の冒頭に登場したV・フェルナンデス。サラゴサをUEFAカップウィナーズカップ(1995年)、コパ・デル・レイ(1994年)優勝に導いた攻撃的フットボールを愛する指揮官は昨季、2部B降格にまっしぐらだったチームを救うべく呼び戻され、9勝5分け9敗という成績で見事その期待に応えた。当初は7月30日以降もクラブにとどまる考えはなかったが、1部昇格という新たな伝説を築くべく、あと1シーズン継続して指導することを決意している。香川はこれから、彼の実践するフットボールの核となる。

ともすれば、クラブの補強の意向、監督の希望、ファンの喜びは一致しない。しかし香川は、それらすベてを一つなぎにする補強だ。彼の入団発表は圧巻だった。サラゴサの本拠地ラ・ロマレダに隣接する講堂で、スペイン人グループによる和太鼓パフォーマンスから始まり、ラ・ロマレダでのユニフォーム姿お披露目で幕を閉じたそれは、この日本人が生み出した熱狂を見事に表している。スタジアムに集まった約5000人のサポーターは、会見で「自分にとって最高の挑戦」と力強く語った彼を「シンジ! シンジ! シンジ!」と叫びながら待ち続け、実際にピッチに姿を現したときには暑苦しいほどの歓声を浴びせた。香川がユニフォームにキスをしたときに盛り上がりは頂点に達し、天も地も破裂せんばかりに揺れ動いたのだった。

サポーターがあの場で歌ったチャントには、もれなく「プリメーラ(リーガ1部)に戻ろう!」も含まれていた。そう、香川はサラゴサのリーガ1部復帰と直接的に関係付けられる選手だ。無論、欧州にやって来て以降の彼は昇格争いと縁遠いところにいたし、ルールダービー(※ドルトムント対シャルケ。ルール地方に居を構えるライバル対決)勝利やチャンピオンズリーグの決勝を目指すことと比べれば、ちっぽけな目標としか言いようがないだろう。だがしかし、サラゴサを1部に戻すことができれば、スペイン・フットボールの歴史にその名を刻む存在に間違いなくなれる。サラゴサにとって、現在は700万ユーロ(約8億円)ほどしか受け取ることのできないテレビ放映権収入が、最低でも7倍以上となる1部昇格こそが財政難を解消し、暗く黒い歴史に終止符を打つ唯一の道なのだから。

約3万4000人収容のラ・ロマレダだが、年間シート購入者数はすでに2万7000人を超えた。昨季の購入者数に並ぶまではあと360人というところまで迫り、香川の入団で購入ペースはさらなる伸びを見せている。ひょっとしたら、3万人にすら届き得るのかもしれない。とどのつまり、66万人が住むスペイン第五の都市サラゴサで、最も大きく、最も偉大なクラブは揺れている。日本のファンタジスタが揺らしているのだ。サラゴサの人々は、ドーン! と、シーズン最後に祝砲が轟くことを夢見ている。フットボールにロマンチシズムが残っていることを信じている。

文=ルイス・ファンド(Luis Fando)/『エル・ペリオディコ・デ・アラゴン』サラゴサ番
翻訳・加筆・構成=江間慎一郎

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