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聖地で散ったリヴァプールに何が起こったのか?“最悪の敵”を前に潰えた欧州連覇の夢

3月11日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16のセカンドレグで、3年連続となる決勝進出を目指したマージーサイドの赤いチームは、初戦に喫した0-1の敗戦をひっくり返すはずだった。しかし、延長戦とはいえ、アトレティコ・マドリーの前に本拠地で2-3の逆転負けを喫し、2試合合計2-4で姿を消すことになった。

最近6試合(全公式戦)で4つ目となる黒星だ。数週間前まで「1軍は今季わずかに1敗」という無類の強さを誇っていたチームに何が起きてしまったのか。

文=田島大

■勝ち続けるチームなどない

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あの手紙のせいなのか? 2月下旬、アイルランドの10歳の少年がユルゲン・クロップに手紙を出した。

「僕はマンチェスター・ユナイテッドのサポーターなので、リヴァプールが勝ち続けるのは悲しいです。次は負けてください」

この懇願に対してクロップは「残念ながら、君の願いは叶えられない。でも君のようなファンがいて、ユナイテッドは幸運だね」と丁寧に返信したのだ。

さて、そんな手紙のやり取り以降、リヴァプールは黒星が先行している。プレミアリーグでは無敗が止まり、FAカップだけでなくCLからも敗退した。ダラー・カーリー君の手紙に超自然的な力があったかどうかは分からないが、気になる点がある。

それはクロップが、ひとりの大人としてダラー君に綴った言葉だ。

「10歳の頃は、“今”が永遠に続くと思ってしまう。だが52歳に言わせてもらうと、決してそんなことはないんだ。我々も過去に負けているし、今後も負けることがあるだろう。それがフットボールなんだ。唯一変わらないのは君の情熱だけだ」

勝負である以上、必ず負けることがある。クロップも、いつか敗れる日が来るのを覚悟していたのだ。今回は2月だったが、振り返れば、87分からの2得点で逆転勝利した11月のアストン・ヴィラ戦(第11節)でプレミアの無敗が止まってもおかしくなかった。いつか敗れる運命にあったのだ。

■最悪の敵

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だが、運命で片づけることはできない。例えばプレミアの無敗が止まった2月29日のワトフォード戦(第28節)などは、枠内シュートを1本しか放てない0-3の完敗だった。偶然どころか必然の結果だった。そして、“リヴァプール封じ”の教科書のような試合だった。

ホームのワトフォードは、試合序盤こそ高い位置でプレスをかけたが、その後はハイプレスならぬ「ロープレス」に切り替え、低い位置で守りながらボールホルダーに激しく当たって自由を許さなかった。両ウイングは、常に裏のスペースを狙いながらも、守備時には下がってきてDFラインに合流して6バックを形成した。

リヴァプール対策の基本は「走らせないこと」である。『Opta』によると、今季リヴァプールはリーグ戦で「速攻」から放ったシュートが33本あり、そのうち12本を決めている。決定率は実に36%だ。これが「遅攻」になると5%まで落ち込む(40本で2ゴール)。攻撃を減速させることが絶対で、前から当たれないときは低い位置に下がり、牽制するだけでなくプレスをかけ続けるのだ。

それでも各選手が長い距離を走るリヴァプールを止めるのは容易ではないし、一人でもボールウォッチャーがいたら命取りになる。あの日のワトフォードには、考えるより先に足を動かすという意識があった。こうしてサイドバックの攻撃参加と速攻を封じて、プレミアリーグ史上最大の「勝ち点55差」の番狂わせを起こしたわけだが、このインテンシティと集中力を90分間維持するのは極めて難しいはずだ。しかし、今季に限っては可能な状況が訪れたのだ。

それがウインターブレークである。今季から導入された“冬休み”は超過密日程のリヴァプールにとって恵みの雨だったが、それと同時に他チームにとっても絶好の回復機会となり、とりわけ精神面がリフレッシュされた。特にシーズン途中で監督を交代したワトフォードなどは、戦術を落とし込む時間も取れた。だから最後まで集中力が切れなかったし、スローインから生まれた先制点のように「ディーニーが競る際には裏に走る」という約束事も完遂できた。

無論、大前提にはチームの能力がある。ワトフォードは極めてアスリート能力が高いチームで、中距離の走力と肉弾戦に強いフィジカルを有する。そして欧州サッカー界で、この特徴に最も近いチームが闘将シメオネ率いるアトレティコ・マドリーなのだ……。

■ミス

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もちろんリヴァプール側に落ち度がなかったわけではない。最近は“最速”の攻撃であるDFラインからのロングパスが鳴りを潜めていた。警戒されて蹴れなかったわけだが、ボールを失いたくないという潜在意識も働いたのだろう。クロップが示唆したように、無敗優勝を意識して積極性が失われたのかもしれない。だから大崩れも心配されたのだが、アトレティコとの第2戦を見る限り大丈夫だ。敗れたとはいえ、胸に輝く「世界一」のバッジに相応しいパフォーマンスだった。

それでも向上心は尽きない。リヴァプールが欧州カップ戦のホームゲームで敗れるのは5年半ぶり、クロップ体制では初のこと。何より、クロップ政権になってから“ホーム&アウェー”制の欧州カップ戦に敗れるのは初めてなのだ。敗因を探すのなら、やはり痛恨のアウェーゴールにつながったGKのクリアミスだろう。2年前も、リヴァプールはGKの痛恨の失策で決勝に敗れ、その2か月後に世界最高額でGKアリソンを補強している。

今回、ケガのアリソンの代わりに出場したGKアドリアンは戦犯扱いを受けるだろう。擁護するわけではないが、彼は雨に濡れたピッチで少し弾むボールを絶対に空振りたくない一心でクリアしたはずだ。だから足を寝かさずに蹴り、結果的に相手の足元にボールが飛んでしまったのだ。

この敗戦の喪失感は、今後に多少の影響を及ぼすかもしれない。それでも、どんなに勝ち点を取りこぼしても、プレミアリーグのタイトルは時間の問題である(新型コロナウイルスの影響は心配されるが…)。今季は30年ぶりのリーグタイトルと、クラブ史上初の世界制覇で十分だろう。

残る今季、リヴァプールにはほぼ間違いなく歓喜の瞬間が訪れる。それは、CL以上にサポーターが待ちわびた初のプレミアリーグ制覇だ。だが忘れてはいけない。アドリアンがシーズン序盤に守護神アリソンの不在を感じさせないパフォーマンスを見せて最後尾からチームを支え、勢いづかせたことを。

「負けることがある。それがフットボールなんだ」

今回はアドリアン、そしてリヴァプールの日ではなかった。だが10歳の少年にもそう説ける素晴らしい指揮官がいる限り、このチームは簡単には沈まない。

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